今回は、実践的リーダーシップと、それに求められるスタイルについて、考えてみたいと思います。 私は、事業価値創造や企業の発展に向けて、今の時代の企業のリーダーには、「起業家」と「経営者」という二つの資質・スキルが求められていると考えています。 ここで「起業家」というのは、物事の本質を感知・究明し、それをベースに新たなコンセプトや事業構想を独力で発想し作り上げ、つまり「業を起こす」ことにより、世の中を変え・ひれ伏させる「ビジョナリスト」ないし「夢想家」のマインドセットやスタイルをもっている人たちを指します。そのために彼らは、独力で考え、個人プレーのスタイルを好む傾向が強いように思います。 一方、「経営者」というのは、「現実には、世の中を一挙に変えてしまうような、ものすごいコンセプトや事業構想は、そうそう出てくるものではない」という認識をもち、手持ちのネタと手駒の制約も踏まえ、衆知を結集して、不確実性とリスクのもとで困難な経営資源配分を行なう「リアリスト・着実な実務家」のマインドセットやスタイルをもっている人達を指します。彼らは、チームプレーに重きを置き、衆知を集めることに気を配る傾向が強いと考えられます。 「起業家」も「経営者」も、ここでの定義は私が勝手に行なったものですが、すぐれた経営トップには、双方のスキルと資質が求められていると思います。まず、「起業家」の側面がないと、大きく構想・着想し、組織内の人々を引っ張っていく魅力が出てきません。また、独力ですばらしいアイデアを生み出す力があることを、すくなくとも時々は見せないと、リーダーとしての凄みが出ないからです。逆に、「経営者」の側面がないと、「世の中を一挙に変えてしまうような、不確実性もリスクも経営資源の制約も全てなぎ倒してしまうような、ものすごいコンセプトや事業構想」は、そうそう出てくるものではありませんから、現実の企業経営を預かる立場はつとまりません。「起業家」は基本的にゼロベースで発想し、現状継続への責任をもたなくて良いのですが、経営者は最低限、現状を継続させ悪化を未然に防ぐ責任を負うからです。 この二つのマインドセット/スタイルは、なかなか両立しにくいという面があります。そのため、たとえばホンダの草創期には、本田さんが「起業家」、藤沢さんが「経営者」という役割分担をしていたように聞きますし、ソニーでは、井深さんと盛田さんのコンビが有名です。しかし人間はそう単純ではないので、片方しかできないなどということはないと思います。もちろん、自分の好みと得意・不得意に応じて誰かと役割分担をすることは有効ですが、基本的には、場面場面で適宜メリハリをつけながら、両方の要素を発揮していくのだと思います。従って、そのために両方の資質やスキルを磨いていくことが必要です。 これからの時代には、「起業家」の独力思考と「経営者」の衆知思考を兼ね備える「腕まくりの事業家(Business Leaders)」が、企業や組織の各層に大量に必要とされているのだと思います。エデュサルティング、とりわけディシジョンラボの現場で実際の企業のサポートをしていると、まさに双方が必要とされることを痛感します。たとえば、衆知思考をしようにも、現状の事業の問題点を克服し大きく発展させるために、顧客に食い込んだインタビューを行い徹底的に顧客の側からの発想をしたり、競合や他業界の動きを突っ込んで調べたり考察することを通じて、なんとかすごい戦略構想を独力で生み出そう、という「起業家」としての燃える思いをもつ人達が集まらなければ、「衆知」にはならず、「衆愚」だったり「烏合の衆」になったりするからです。「起業家」としての燃える思いをもつ人達が、まずそれぞれ独力で活動・思考をある程度した上で、いくつかの「異なる正解」やその候補を持ち寄ることで、はじめて衆知思考が有効に機能するのだと思います。 その意味で、お手伝いする方々の「起業家・独力思考」、「経営者・衆知思考」の双方を、個別具体的課題解決の中で強化する機会に出会えるディシジョンラボは、実にやりがいの大きい活動です。そして今後も、「腕まくりの事業家」を一人でも多く育成することにたずさわって行きたいと願っています。
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