先日、「電機・最終戦争 生き残りへの選択」という日経新聞社がまとめた本を読みました。様々な関連業界・企業の最近の動向がまとめられている、ほぼ想定通りの内容で、「生き残りへの選択」という副題にちょっと期待して購入した部分は(ある意味、予想通り)肩透かしでしたが、その中で印象に残った一節がありました。 日立、NEC、三菱電機の半導体事業を統合したルネサスエレクトロニクスについての記述です。。。東日本大震災で工場が被災し、そのために自動車業界や電機業界のサプライチェーンが大きく乱れたことで注目を浴び、マイコン分野で世界首位の企業であるにもかかわらず、赤字体質が続く企業です。 ************************************* ・・・・・難題が資本構成の見直しだ。日立、NEC、三菱の3社が議決権ベースでいまだに持ち株比率は約9割を握る。3社とも業績負担を嫌気し、「さらなる資金支援には応じない」(三菱)としているが、これでは総合電機メーカーの事業部体質から抜け出すことはできない。事業の集中と選択、徹底的なコスト追求、自前の資金調達などすべてをハンドリングして、初めて独立した半導体メーカーとしての経営計画が描ける。・・・・・ ************************************* 編著者の語る文脈とは関係ないかもしれませんが、私が反応したのは、総合電機メーカーの事業部体質というところです。 というのは、(総合電機メーカーに限らず)多くの日本の多角化企業で、かつての「どんぶり勘定」から脱却するために「事業部の売り上げ・利益を厳しく管理」するようになった弊害として、①事業部のキャッシュフローを大きく超える投資ができない、②複数事業部にまたがる戦略課題に機動的に取り組めない、③事業特性に応じた柔軟なコスト構造がとりにくい、といった症状がみられるためです。 この本の中では、①と③が指摘されているように思いますが、私が最近とくに問題に感じているのは、①と②です。。。。結論的に言えば、複数の事業部を束ねる役割の本社部門=コーポレートが十分にその役割を果たしてない、という問題です。具体的には; 〇単に数字管理をするだけ/数値目標未達を追求・叱咤するのみで、どうやったら数値目標をよりよく達成できるかについての助言もせず、また環境変化に対応して数値目標を柔軟に変更することもしない 〇また本来、各事業部の今現在のキャッシュフローでは賄いきれない長期成長機会を追求するための、投資のバックアップをコーポレートがしてくれるからこそ、各事業部はその企業体の中にいるはずなのに、「事業部の自己責任において厳しく健全な経営をするように!」という名のもとに、コーポレートが積極的役割を担おうとしない 〇さらに、複数の事業部に大きな影響を及ぼす事業環境変化への対応や、複数事業部にまたがる新たな事業チャンスへの取り組みなど、事業部ごとの狭いスコープでは十分に対応しきれない戦略課題への取り組みを主導しようとしない 英語に”Divide&Conquer”という表現があります。たしか語源は、ローマのシーザーが周辺の国々を征服し統治する際に、まずは各国のつながり・連携をばらばらにし、しかる後に個別撃破し統治する、と言ったのが始まりだったかと思います。「分割して統治せよ」と訳されることが多いようですが、直訳すれば「分割して征服せよ」ですね。 要は大きな問題・複雑な課題を、いくつかの個別課題に分解し、そののち一つ一つ個別に解決・対応して行こう、という考え方です。 もともとの事業部個別管理の考え方も、この発想の一つだと思います。しかし、この事業部個別管理の考え方は、オペレーショナルマネジメントには極めて有効でも、個別管理の集合体という枠組みではとらえきれない企業全体としての戦略的マネジメントに対しては、無力なのです。したがって、それを補完するためにコーポレートの機能がある、という認識がコーポレート側にないと、結局①や②を欠く、単なる「君臨し上納金を厳しく徴収するのみで、何の見返りも与えない暴虐コーポレート」に成り下がってしまうのです。 まさに”Divide&Conquer”でなく、”Divide&Conquered“。。。「分割統治」ならぬ、「分割して様々な経営管理数値で締め上げ、本来やるべき戦略的統合・融合・資源配分をしないがゆえに、結局は企業体として他社に征服される」ことに導く、何の付加価値もない「無駄コストの塊のコーポレート」という図式です。 これでは多角化してる意味がなく、アナリストあたりから「コングロマリット・ディスカウント」などと言われることになるわけです。言われても致し方ない状況であり、これではコングロマリット・プレミアムなんて夢の夢ということです。 「分割し内部で締め上げたあげく、企業全体としては他社に征服される」くらいなら、実際に企業分割して、それぞれの事業部門が上場して資金調達し独立経営した方が良いくらいです。 。。。と一方的に多角化企業のコーポレートを批判してみましたが、実際には、戦略的に意味あるコーポレート活動をするのは簡単ではないわけで、最近の一般的な傾向は、アップルなど、相対的に事業の数の少ない企業の方が業績は良いようです。 多角化企業における戦略的コーポレートを機能させるのはそれだけ難しくはあるのですが、一方、もちろん事業間のシナジーを有機的に活用できたり、様々な異なる特性の事業群を持つことによる全体業績の安定性など、期待できるメリットも大きいわけです。 要は、事業ポートフォリオ・マネジメントにおける「戦略的コーポレート」を如何に機能させるか、にかかっています。具体的取り組み方については、以下2点を如何に実務として真剣に、そしてスキルフルに取り組むかにかかっていると思います。 〇各事業の事業スコープ内で収まり、かつその事業部のキャッシュフローの範囲の投資でまかなえる戦略課題については、この範囲での各事業部の戦略課題のリスト=戦略アジェンダにつき共有し合意する。そしてその際、コーポレートとしての幅広い知見に基づき助言する。あとはそれに基づき、この範囲内での業績目標管理をしっかり行う 〇一方、a. 個別事業部のキャッシュフロー範囲では賄いきれない投資を必要とする戦略課題や、b. 複数の事業部にまたがる(チャンスと脅威の双方の)戦略課題、c.既存の事業部門のどこにも直接関連しないが、企業として保有するスキルやアセットを生かして掴みうる新たな事業機会に関する戦略課題、の3つについては、コーポレートが—–というか、それを主導するコーポレートのトップ自らが腕まくりで—–積極的役割を果たして具体的戦略立案に参画し、クオリティの高い意思決定をし、実行に対しても支援をしていく。。。c. については、実行部隊の創設にまで踏み込んだ取り組みが必要です 多角化企業の経営に当たっては、以上の戦略的マネジメントに真剣に取り組み、事業ポートフォリオ・マネジメントをその名にふさわしいものとし、間違っても「単なる事業雑居体」としないよう、そして是非とも真の「コングロマリット・プレミアム」を実現して頂きたいと切に願う次第です。
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