約3カ月ぶりのブログ記事更新です。。。昨年後半は仕事やイベントが重なって、書きたいことは結構あったのですが、結局ほぼ3カ月間、手が付けられませんでした。 ということで、溜まってしまった書きたいことを今回から順次書いて行こうと思いますが、ブログのネタの発端となった出来事や読んだ記事などは少し古くなってしまいました。。。が、ディシジョンマインド/ディシジョンマネジメント的には、皆さんにお伝えしたいことなため、何卒その点はご容赦ください。 今日のネタの発端は、昨年の11月3日の日経新聞に出ていた「なぜコマツ堅調、シャープ苦境」というコラム記事です。まず抜粋を記してみます。 ******************************************* ・・・業績が底堅く、多少の変動はあっても「あの企業なら大丈夫」と安心感のある企業と、足元フラフラでどこへ向かうのか心配でしょうがない企業がある。この2つのカテゴリーを分けるものは何か、1つの仮説を提示してみよう。 「安定感がある」派の代表は今の日本でいえばコマツである。・・・一方で「フラフラ」派は結構な数に上るが、何かと注目されるシャープを代表選手として取り上げてみよう。・・・なぜコマツは収益が安定し、シャープはそうではないのか。そこには無数の要因・・・だが、ここで注目したいのはチャンピオン企業の存在だ。 建機の世界には米キャタピラーという巨人がいて、長らく世界市場を仕切ってきた。コマツは果敢に挑戦してきたが・・・今でも会社の規模ではキャタピラーが一回り大きい。だが、「それはそれで隠れたメリットがあった」とコマツの首脳は言う。 一つは「いったん築いた信用や市場シェアは競争にさらされにくいという建機ビジネスの特徴だ。どの建機を選ぶかは、単に「価格が安い」というだけでなく、「保守サービスがしっかりしている」「ディーラーとの間で信頼関係がある」といった長年の付き合いがモノをいう。これがコマツによるキャタピラー攻略を阻んだ要因だが、コマツが今度は中韓メーカーなどから追われる立場になったときに、「長年の付き合い」が市場を守る防波堤として機能する。 ・・・もうひとつはやはり米国企業の経営規律だ。シェアをいたずらに追い求めず、利益をしっかり確保するのが米国流。ゆえに米国企業が主導権を握る市場では価格競争が起こりにくく、市場全体が安定する。今のデフレの時代でも、「建機の世界では今でも毎年数%の値上げを実施している」と関係者はいうが、これも「キャタピラーの傘」の下にいたおかげである。 逆に米国企業が駆逐された市場では何が起こるか。米国のテレビメーカーは日本勢が追い落としたが、それと同じ現象が攻守ところを変えて日本と韓国・台湾勢の間で起きている。業界全体として価格を維持しようという機運は乏しく、泥沼の安値競争のなかで弱い順に脱落していく。そのプロセスの中に今のシャープの大赤字がある。似たようなことは、半導体メモリーのDRAM市場でも起こった。・・・ 一方、同じ電機市場でも、「強いアメリカ」が健在の市場は底堅い。ゼネラル・エレクトリック(GE)が強い発電設備や、IBMが主導権を握る企業向けのITサービス市場は収益が安定し、大きなブレはない。これは偶然ではない。米国企業が利益重視の原則に沿って、変動の大きいボラタルな市場から撤退し、安定感のある市場への「選択と集中」が進んだのだ。・・・ ******************************************* 記事から明らかだと思いますが、ポイントは三つです。。。もちろん「米国企業が手本だから、米国企業が主導権を握る市場に着目しなさい!」ということではなく、その奥にある、より普遍的な3つのポイントに着目したいと思います。 一つは「顧客愛着度の維持・向上」の重要性であり、二つ目は「いたずらなシェア追求からの脱却」です。そして三つ目は、この二つを通じた「不毛な価格競争からの脱却と産業としての健全な発展」です。 まず一つ目の「顧客愛着度の維持・向上」ですが、上の記事の例に出ているように—–記事では「長年の付き合い」と言っていますが、より普遍的には—–、顧客のライフサイクルトータルでの顧客へのBenefit即ち便益です。BtoBタイプのビジネスの場合、Benefitのほとんどはライフサイクルトータルでの収益性で表すことができますが、時には「この会社の営業スタッフの熱心さ・誠実さが好きだ」といった情緒的な要素も入ってくる可能性があります。「長年の付き合い」にはそういう要素も含まれうるわけです。 BtoCビジネスの場合は、機能的な便利さとかデザイン的な好みとかいったものが—–これらに加えて、使用・消費する製品・サービスのライフサイクルトータルでの追加経費や手間暇、あるいは予想される使用・消費経験の量と質なども—–直接的Benefitですが、この場合も、単に目の前にある製品やサービスそのものが与えてくれる直接的Benefitのみならず、製品やサービス、あるいは提供している企業に対する心情的な愛着もBenefitの重要な要素になります。 ハーレーダビッドソンのオートバイを買う顧客やBMWの車を買う顧客が、単に製品のみならず、その底流にある、提供する企業の哲学や歴史、そしてそれらとの自分自身のこれまでの接点・関わりへの愛着を、大きな価値として認めて、それらの製品を購入し保有し続けることに感情的な価値を認めている、とは、よく引き合いに出される例ですね。 こうした感情的価値も含めたトータルのBenefitで顧客との関係を築き、それを競争力の源泉とすることができないと、あとは「単純なる価格勝負」という消耗戦・勝者なき不毛な値引き合戦になってしまうわけです。 二つ目の「いたずらなシェア追求からの脱却」は、「典型的な高度成長期の発想」からの脱却、ということです。高度成長期において「低価格提示によるシェアの追求」が収益拡大につながったのは、本質的には、低価格提示がぺネトレーション即ち市場浸透度/普及率の急拡大につながったからです。「それ以上の低価格提示が、ぺネトレーション拡大につながらない」ような成熟市場でこれをやると、単に市場や産業を壊すだけです。 もちろん、低価格提示がまだぺネトレーション拡大に大きく効くような新興国市場では、このやり方は有効なのですが、その場合でも、決して「シェア追求」が目的ではなく、「ぺネトレーション拡大」のためにやっている、従って、「ぺネトレーションのレベルが先進国レベルに近づいてきたり、市民の所得レベルが向上してきて、低価格提示がぺネトレーション拡大に大きく効かなくなり次第、低価格提示戦略は手じまいにすべし」、という自覚を持っておく必要があるということです。 【「単にマージンを削っての低価格提示」でなく、マージンをキープしたまま構造的に低価格を実現できる、技術革新などによるイノベーションによって実現される低コストに基づく低価格提示なら構わないじゃないか!】という反論もありそうです。確かに「マージンを削るだけの低価格提示」よりはずっと良いのですが、それでもあえて「それもできれば避けるべし!」と言いたいと思います。。。もちろん例外もあるかもしれませんが、ここではあえて言い切っておきます。 「構造的低コスト」を実現するイノベーションができたとしても、それをベースにした低価格提示がぺネトレーション拡大につながらない限り、原則的には低価格提示は行わず、シェアはそのままに、マージン増大による利益額拡大を狙うのが第一だと思います。 シエア拡大には、単なる低価格提示を差別化要因とするのでなく、あくまでも、感情的価値も含めた顧客へのBenefit増大を通じた「顧客愛着度の維持・向上」を差別化要因として行うのが得策なのです。 第一のポイントと第二のポイントの帰結が、第三のポイントの「不毛な価格競争からの脱却と産業としての健全な発展」です。別の—–あえて極端気味の—–言い方をすると、「ぺネトレーション拡大につながらない値引き/低価格提示は『社会悪』である!」ということです。 不毛な価格競争は、一時的には消費者に喜ばれ、仕掛けた企業の短期的シェア拡大と利益増大をもたらすものの、じきに他社が追随するために、中長期的には、市場を壊し産業を破壊し、そこに働く人たちの所得を下げ職場を奪います。低所得となったり職を失った人達は、今度は消費者としての支出を抑え、まわりまわって経済全体を縮小させ、大多数の人たちの幸せ度を低下させることになるからです。 ということで、企業人の方々には、「顧客愛着度の維持・向上」と「いたずらなシェア追求からの脱却」を通じて、「ぺネトレーション拡大を伴わない、不毛な価格競争からの脱却と産業としての健全な発展」を肝に銘じて、社会正義としての企業発展に取り組んで頂きたいと思います。 【マージンを犠牲にした、チキンレース的な値引き合戦は、社会悪!】が、合言葉です。 追記:今日のブログは異論も出るかと思いますので、皆さんからのフィードバックを楽しみにしています!
スパムが非常に多いため、一時的にコメントは受け付けないように設定しました。コメントを頂ける方は、CONTACT USにある当社のメールアドレスまで直接お寄せ下さい。