昨年11月20日のJMM(Japan Mail Media)に載っていた、「シャープはどうサバイバルすればいいか」というJMM編集長の村上龍さんからの問いかけに答える形で示された、慶応大学教授の土居丈朗さんの【「身内愛」の普及に活路】というコラムを見て感じたことです。まずは抜粋してみます。 ************************************************* ソニー、シャープ、パナソニックが目下苦境に立たされている・・・経済学の立場から、3社に代表して、今後の活路について言える点は、取引ネットワークを活用した「身内贔屓(びいき)」をもっとするということです。これは3社に限ったことではなく、デフレーションに陥っている日本経済における企業行動に大なり小なり当てはまるものと考えます。・・・ ・・・1980年代後半以降、対外貿易摩擦の関係で・・・日本経済では排他的な取引慣行を改めようとする圧力が絶えずかかっていました。そうした時代の推移の中で、「メインバンクシステム」も企業グループも談合も解消の方向に向かいましたが、良い意味での「身内贔屓」までもが解消されたように思います。ここでいう良い意味というのは、互いを認め合い高く評価し合うという意味です。だから、ここで敢えて良い意味との意味を込めて「身内愛」と名付けましょう。 悪い意味での「身内贔屓」は、しがらみにとらわれた馴れ合いで、お互いが切磋琢磨せず、進歩も停滞する恐れがあります。しかし、「身内愛」は、お互いを高め合い高く評価しあうことで、互いの製品を快く適切に高い値段で購入することに通じます。 ・・・「身内愛」を取引のネットワークでどんどん広めることを通じて、安定した販路を確立し、価格競争の圧力があってもそれを相当緩和でき、値下げを余儀なくされずに収益を確保することができます。もちろん胡坐をかいていてはいられません。価値を認めてもらう努力は絶えず必要です。その代わり、単純に赤の他人でも製品を高く評価するというヒット商品クラスの製品が出ないと収益が立て直せない、ということにはならないという利点が考えられます。 「身内愛」は、企業対顧客の関係でいえば、その会社の製品のファンを増やすことと同義でしょう。ここでいう「ファン」は、必ずしも理想的な製品ではなかったとしても、それなりに買おうと思う程度に価値を認めている人々と位置づけられるでしょう。・・・ ************************************************* 前回のブログで書いた「顧客愛着度/お客様ご愛顧度」と同じ方向の発想だと思います。 ちなみに、マーケティングでよく「カスタマー・ロイヤルティ(Customer Loyalty:顧客忠誠度)」という言葉が使われますが、私に言わせれば大間違い/大勘違い、もいいところです。顧客からしてみたら、企業に忠誠を誓ってその製品・サービスを購買するなんてことは100%ないわけで、「何考えてんだ、ふざけんな!」の話です。本来は「お客様ご愛顧度/顧客愛着度」と言うべきでしょう。 土居さんは、これをさらに、「身内愛」という“LOVE”のレベルで論じたわけですね。 このLOVEは、BtoBビジネスでは比較的ロジカルに「ライフサイクルトータルでの顧客の収益性」で代表される部分が多いのですが、前回論じたように、その他の要素も含めての「トータルとしてのLOVE」ということですね。 そしてBtoCビジネスの場合は、このLOVEは、情緒的価値を含めたブランド価値、とニアリー・イコールいうことになると思います。 そして、企業と顧客との関係のみならず、取引先やその他関係者との間柄も、前回のブログで紹介した「長年の付き合い」と同じ文脈で、「身内愛」ということになるわけです。 前回のブログの主張と重なりますが。。。値引き競争による産業壊し・市場破壊、ひいては経済全体のデフレの悪循環を断ち切る一つの施策—–ミクロの個別企業のレベルで取り組める施策—–として、ぜひ顧客のみならずビジネスでの諸関係者間での「身内愛」、あるいは「相互愛着度」の向上をトライしてみて頂きたいと思います。。。 (2012年3月20日のブログ記事で紹介した)倉本圭造さんが言っていた「ソウルメイト・マーケティング(=心の友・魂の近い友人同士での取引/マーケティング)」に相通じるところもあるのではないかと思います。 P.S.1 ここまでの文章を書いた直後に、10年&20年来のクライアント兼ソウルメイトのお二人とDDD(Drink,Dinner&Discussionの略の私の造語ですが、気に入って使っています)をしたのですが、その際このテーマに関連した話題となり、「お布施ビジネスモデル/篤志資本主義」という言葉が頭に浮かびました。お二人からの反応はそれほど熱くはなかったのですが、自分的には、妄想気味ながら、それなりに「あり」かなと思うので、ちょっと紹介させて下さい。 【篤志(お布施)ビジネスモデル/資本主義】:この人たちと継続的に仕事をしたいな/付き合っていったら楽しいだろうな、この人たちのやってること・やりたいことを応援していきたいな/支援したら楽しいだろうな。。。でも放っとくと、この人たち、商売の才能とかお金儲けの熱心さに欠けるから、潰れちゃいそうだな。そうするとこちらは、この人たちと付き合ったり、応援することができなくなっちゃうな。。。だから、そうならないように、顧客としてこの人たちの製品やサービスをそれなりの価格で購入したり、株主としてこの人たちが困るようなことにならないように支援して行こう!・・・というような形でビジネスが成り立っていくような形態です。 いわゆるアーティスト系のビジネスでは、現にこれに近い形でビジネスを成り立たせている例がある、というのを見聞きしますので、近未来の形としては、「相互愛着度/Love」の一形態としてありうるのではないか、という発想です。
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