エステーの鈴木喬会長が、日経ビジネスの経営教室で、「企業の経営とは社長の“道楽”」ということをおっしゃっていました。以下、私の独断に基づく抜粋です: ********************************************** 経営というのは結局、社長の道楽なんじゃないかな。道楽だからこそ、精神的にも体力的にも続けられるのだと思います。それほど経営者の仕事は過酷です。。。。。 儲かるからやるのではなく、損得勘定を超えて、やりたいからやる。それが道楽の極意です。。。。。会社を経営する根源的な動機が、利潤の追求だけでは、存在基盤の弱い会社だと言わざるを得ないでしょう。 私がエステーの社長に就任してからは、毎年8月に「赤毛のアン」のミュージカルを全国各地で約10公演、主催しています。ミュージカルの鑑賞は私の趣味で、道楽が高じて公演を始めました。。。。。客席の案内やチケットのもぎりは社員が手弁当でやってくれています。チケットは販売していません。一般の方々を抽選で招待しています。日頃のご愛顧に恩返しすれば、そのうち何かが返ってくるんじゃないかというスケベ根性はあります。ただ根底では見返りを求めていない。毎回かなりの出費になりますが、やりたいから続けています。。。。。 社員も同じです。ミュージカルなどで世の中に奉仕していれば、エステーに勤めていることが誇らしいと思えてきます。しかし同時に、儲けたお金を社会に気持ちよく還元する、「道楽者の心意気」がないといけないと思うのです。。。。。 ********************************************** 独特の言い回しで癖はありますが、内容的には、私が常日頃から言っている【企業のミッション/ビジョンは、つまるところ「好き」x「得意」x「喜ばれる」であり、お金儲けは、そのミッション/ビジョンを、全てのステークホルダーに継続的に支援してもらうための必要最低限の満たすべき条件】と、ほぼ同期していると感じ、大いに「YES!」と頷いた次第です。 ただ、記事の後ろの方の鈴木会長の以下の言葉には、残念ながら「うーん。。。」と思ってしまいました。 ********************************************** 私は今、自分が築いた独裁体制をどう終わらせるかということに頭を悩ませています。スキューバダイビングやスキー、自転車、水泳など、会社を離れて極めたい道楽はたくさんあり、そうした私的な道楽に専念するためにも、独裁に代わる新しい経営体制を一日も早く終えて引退しないといけません。 ただ長く独裁的な経営を続けたために、社員たちはトップダウンによる指示になれてしまいました。社員には、自ら考え行動する癖をつけさせる必要があります。そのために現在、少しづつ事業部制への移行を進めています。。。。。事業部長たちに権限と責任を分け与えて、事業部の経営を任せます。「鈴木喬カンパニー」からの脱却です。。。。。 未来永劫にわたってエステーを存続させるためにも、新体制への整備を急がねばなりません。私が抜けたら会社が衰退するというのでは、困ります。。。。。 ********************************************** これまでの鈴木会長の経営教室のエッセイを見てきて、さすがにユニーク&すごい人だな、と思っていただけに、少しがっかり感を持ちました。「こんなことを今頃になって言うくらいなら、もっとずっと前から、集団経営で回る会社を作るべくちゃんと積み重ねてくればいいのに!」という感じです。 「スキューバダイビングやスキー、自転車、水泳など、会社を離れて極めたい道楽はたくさんあり、そうした私的な道楽に専念するためにも」というのは、多分に照れかくしかとも思いますが、「やっぱり、この人は、天才的経営者にありがちな、根っからの自由奔放(≒我が儘)体質。だけど、その天才的経営手腕によって自由奔放さが良い方向に働き、従って許され賞賛される。世の大半の凡人にとってはちょっとムカつく、だけど上に仰いで指示に従ってさえいれば安泰が保証される、頼りがいのあるボスなんだろうな。。。」と思うわけです。そして。。。 「道楽と言い切った潔さと、事業部制への移行は、一体どう整合がつくのか? 自分がまだまだ元気で、会社での道楽の方が、個人としての道楽よりも楽しい間だけ独裁経営をやってきたのか?! 道楽経営を貫くんだったら、そもそも上場などやめてしまって、いっそ 【「鈴木喬カンパニー」は、鈴木喬の道楽に共感するステークホルダー達のための会社。だから、自分が死んだら、この会社はおしまいにする。その時、社員や取引先などのステークホルダーが困らないための手は事前に打っておく!】 のほうが、ずっと潔いのでは?! そうしないでおいて、道楽が終わって自分は抜けるけど、会社は永続してほしい、というのでは、単なる自分勝手・我が儘といわれても仕方がないのでは?!」という突っ込みを思わず入れたくなってしまうのです。 もう少しまっとうな言い方をすると、「上場廃止のつもりはなく、会社を永続させたいという意思があり、かつ『会社を経営する根源的な動機は、利潤の追求だけではなく、それは、ある種、社長の道楽(≒会社としてのミッション/ビジョン)でいいんだ!』と確信しているのなら、集団指導体制における『道楽=利潤追求よりもっとずっと大切な企業としてのミッションやビジョン』を明文化し、社内外に徹底的に浸透・共有させ、それに基づいて集団経営が出来るだけの人材の育成と組織能力構築をずっと前から着々とやっておくべきではなかったか?!」ということです。 今後数年間、ぜひ鈴木会長にはこれら一連の施策に打ち込んで頂き、「天才的道楽社長が会社を飛躍的に成長させたけど、自分の道楽の方が面白くなって、十分な手当もしないまま引退しちゃったんで、結局会社は潰れてしまった!」ということにならないよう、心して頂きたいと—もちろん私ごときが言うまでもなく、そのおつもりでしょうが—、余計なお節介ながら感じた次第です。
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