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「多様性排除バイアス」vs「多様性強制バイアス」…相互の心遣い、想像力と共感、そして寛容さが大事(１)

カテゴリー: エッセイ・論説 2021 年 4 月 30 日 コメント(0)

まずは、標題のテーマのきっかけとなった記事からの抜粋です。

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商品名からサービスの中身まで ” 昭和の常識 ” が招く悪気なき炎上
（日経ビジネス　2021年4月12日号）

…全国に1万6000店舗以上を構え、コンビニエンスストア業界でセブン-イレブン・ジャパンに次ぐ規模を持つファミリーマート。その食品コーナーに、同社のプライベート総菜ブランド「お母さん食堂」が登場したのは2017年9月のことだ。

…「小さいころ、お母さんが作ってくれたような自然で、温かみがあって、おいしいお総菜であること」「仕事と子育ての両立で忙しいお母さんたちが、子供や家族みんなに安心して食べさせられる食事であること」──。こうした思いを込めて付けられたのが「お母さん食堂」というブランド名だ。

…それだけに20年暮れ、「お母さん食堂」という商品名の是非を巡ってネットで論争が突然起きたとき、何が起きたのか戸惑った人もいたのではないだろうか。

…論争のきっかけとなったのは3人の高校生だ。ガールスカウト日本連盟が主催した男女平等に関するプログラムに参加した3人は、ファミマの店に掲げられている「お母さん食堂」という看板を見て、「このままでは『お母さんが食事を作るのが当たり前』という意識を社会に植え付けてしまう」と感じた。

要は、「お母さん食堂」という商品名は、「男は外で働き妻子を食べさせる」「女は家事をこなし子供を育てる」といった、男女の役割に関する固定的な観念「ジェンダーバイアス」にとらわれた表現であり、かつそうした風潮を助長しかねないブランド名である、と受け止めたわけだ。その後、3人は同連盟の協力の下、「商品名が社会に与える影響を企業にも知ってもらい、ジェンダー問題をなくしていきたい」と、ファミマに対しブランド名の変更を求める署名活動を開始した。

…結局、署名活動は7000以上の賛同を集めた後、20年内で終了した。同連盟は「活動を進めている当該高校生らの考え、心情などにも配慮して対応していく」と本誌に説明。署名活動の終了後はファミマへの働きかけなど具体的な行動には至っていないようだ。

…背景にあるのは言うまでもなく、社会全体の人権・男女平等・コンプライアンス意識などの高まりだ。

　中でも、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長の辞任騒動が示したように、性差別に関する表現に対しては、今まで以上に社会から強い批判を浴びせられるようになってきた。

…とはいえ、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」といった明らかな差別表現には敏感な人でも、「ジェンダーバイアスにとらわれた表現」には瞬時に反応できないケースが少なくない。とりわけ「男は外で働き妻子を食べさせる」「女は家事をこなし子供を育てる」という家族の在り方が当たり前の環境で育った昭和世代は、当然のことながら、そうした表現に対する反応がつい鈍くなりがちだ。

…もっとも、企業にしてみれば、外部から「不謹慎」との指摘を受けても直ちには修正できないことも少なくない。製品の伝統的な製造方法はその一つだ。

　15mほどの木にサルがするするとよじ登り、ココナツの実をねじり、地面に落としていく。世界2位のココナツ輸出国タイでは、そんなサルを使った収穫が100年以上前から続けられてきた。ところが昨年、タイのココナツミルクメーカーを「製造過程でサルが強制的に利用されている」と米動物権利擁護団体が告発する事態が起きた。

　同団体は、サルはココナツ収穫に駆り出され、タイヤに鎖で縛り付けられ、檻（おり）の中での生活を強いられているとし、ココナツミルクの製造手法の改善を要求。欧米の小売り大手がこの製品の販売を中止する事態に発展した。

　事態を受けてタイ政府は「サルによるココナツ収穫は観光用のもので、産業規模でのサルの利用は現時点では存在しない」との声明を出したが、実際は少なからぬ生産者がいまだサルを活用中。生産者にしてみれば、ココナツ収穫でサルを使うのは人間がやると危ない上、それが効率面でもコスト的にも最適な手段だからであって、機械化など代替手段を見つけよと言われてもそう簡単にいかないのが現実なのだ。

…19年1月、テニスの大坂なおみ選手がアニメキャラクターとして登場する日清食品のカップヌードルのCMが物議を醸したことは記憶に新しい。ハイチ系米国人の父を持つ大坂選手の肌を実際よりも白く描いたことが問題視されたのだ。

…改めて問題のアニメ画像を見ると、大坂選手の肌は、日本で言ういわゆるかつての「はだいろ」で表現されているように見える。この「はだいろ」、文具業界では20年以上前からその名称自体が既に変更されていることをご存じの方はどれだけいるだろうか。

「え、クレヨンや色鉛筆の『はだいろ』って今はないの？」。50代の主婦はこう驚きを隠さない。20代後半以上の読者であれば、小学校などで使った色鉛筆やクレヨンの中に「はだいろ」があったことを記憶しているはずだ。文具業界でその呼び名が変更されたのは00年前後からで、「うすだいだい」「ライトオレンジ」「ペールオレンジ」と表記されるようになった。・・・

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⇒「はだいろ」鉛筆の廃止の例については、既に旧聞になりますが、私などは子供のころに親しんだ「ちびくろサンボ」という子供向け絵本の絶版ということもありましたね。

今回の記事を読んで感じたり考えたりしたことを結論的に整理すると、以下の3点になります。

①「多様性排除バイアス」vs「多様性強制バイアス」：性別による役割規定概念や人種意識、動物との関係認識など、多様性への認識欠如という「多様性排除バイアス」はいまだに根強く社会に残っており、それを無くして行く努力は必要だし重要です。一方、「多様性排除バイアス」を排除する言動が極端に強くなりすぎると、今度は「多様性強制バイアス」とでもいうものになってしまいます。そうなると、バイアスが心の底に残りつつも、それを克服しようとしている人たちをも排除・糾弾する動きになってしまい、「そこまで言われる筋合いはない！」と依怙地になったり反発を招いてしまう恐れがあるのではないかと思います。

②「絶対正義」の危険性→有害な正しさ：この後紹介する、上記記事の後半部分と関連しますが、一つの切り口/観点での自分の考えを絶対的正義と位置づけ、他の見方や相手の状況を顧慮せずに絶対正義として押し付けるのは良くないのではないか、それは時として「有害な正しさ」となってしまうのではないかと考えます。（「有害な正しさ」という言葉は、むかし愛聴したシンガーソングライターの詞から拝借しています。）

③根本にあるのは「不寛容」の害悪：①、②のように考えると、やはり最後は他の見方や他の人たちへの不寛容さが問題の根っこであり、相互の気遣い・思いやり、想像力と共感、寛容さや他への尊敬心・謙虚さが大事という、平凡ですが重要な考え方に至ります。

排除・強制双方の多様性バイアスや寛容／不寛容についてさらに考えてみるため、ここで1つの妄想的な架空の世界の例え話にお付き合いください。

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この世界の住人はすべてペット好きで、自己アイデンティティとして人種や性別、国籍、宗教等よりも、「どのペットが好きか」が一番に気になる人達の世界、という設定です。

住民の30%が犬好き、30%が猫好き、10%がその他の哺乳類好き、5%が鳥好き、5%が魚好き、5%が爬虫類好き、5%が両生類好き、5%が虫好き、5%がその他諸々という構成になっていますが、社会の伝統的通念として、つい最近までは、猫好きが最も高尚とみなされており、社会的にも高い地位につくケースが多かったのです。

また、道路をきれいに保つことが社会規範として重視され、道路清掃が社会の重要な公共インフラとされていたのですが、犬のフンが道路を汚す主要因として認識されていたこともあり、道路清掃は主として犬好き派の人たちがやるべきこと、さらには犬好きの人はもともと清掃に向いている・清掃が得意、とも見なされていました。

そして、猫好き派が社会の多数派の1つであり、かつ社会的地位の高さから、本来は犬好きの人や爬虫類好きの人でも、猫好きのふりをする「偽装猫好き派」や、猫派とうまく付き合う「名誉猫派市民」の人も少なからず存在していました。

ところが、ここ20年程の世論の変化の中で、「どのペットが好きかで人を差別するのはよろしくない」、また「社会の大事な公共インフラである道路清掃を、（道路を汚すのは犬だけではないし、第一、人間こそが主たる要因なのだから）犬好き派の人達だけに押し付けるのはよろしくない」という風潮が広がってきました。

そして最近では、「道路清掃は犬派の仕事だ」とか「社会や組織における猫派の人達優先」という仕組みや制度も廃止され、どのペットを好きかということによる差別は禁止され、ペットの好みに関する多様性確保が社会通念として行きわたってきました。

しかし、まだ多くの人々の心の底には、以前の「猫好きが高尚で偉い」「道路清掃は本来は犬派のやるべきこと」という「アンコンシャス・バイアス（Unconcious Bias：無意識の差別意識や役割分担意識等の偏った傾向・先入観・思い込み）」が潜んでおり、時々問題発言をする人物がいて、SNS等で炎上して物議を醸しています。

今でも多くの猫派の心の奥底には、「あんなに道路でフンをまき散らす犬が好きなんて信じられない。それに爬虫類派とか、何がいいんだろうね。ヘビが身近にいるだけで気持ち悪いし…」という気持ちがあるのが現実です。

しかし、ほとんどの猫派の人達は「いや、そんな意識を持つことは社会正義として正しくない。ましてや『爬虫類好き排斥運動』とか『道路清掃は本来、犬好きのやるべきことだし、生まれつきのスキルとして犬好き派の方が道路清掃に向いている』とか言う人達には、絶対に賛同できない」と理性的に考えて、自分の心の底と社会に残る「ペットの好み」による差別意識なりUnconcious Biasを取り除こうと努力している訳です。

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例え話を紹介し終えたところで、文章が少し長くなってきましたので、続きは【「多様性排除バイアス」vs「多様性強制バイアス」…相互の心遣い、想像力と共感、そして寛容さが大事(2)】でお話ししたいと思います。

☆なお、あえて「ペットの好みによる分類」という架空の突飛なカテゴリーでのたとえ話を使ったのは、人種、性別/ジェンダー、国籍、宗教・・・といった、実際に今現在、多様性排除バイアスが深刻な問題となっているカテゴリーで議論することで引き起こされるであろう、感情面での大きな振幅や反発を避けつつ、問題の本質を考える便法としてですので、何卒ご容赦下さい。

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