先日ある報道番組を見ていたら、民主党政権における政策決定プロセスについての議論が展開されていました。 民主党は、これまでの自民党政権では、各省庁の次官で構成する「次官会議」で全会一致で出てきた案のみが内閣に上げられるため、既存の省庁の枠を越えた思い切った政策が実施できない、国全体の利益や最適化より省庁の既得権益が優先される、といったBottom upの意思決定プロセスの問題に切り込むため、国家戦略局でTop downで政策を決め、省庁はそれを実施するだけの役割にする、これにより「官僚主導から政治指導へ」の旗印を実現する、という主張です。 一方、それに対して、自民党や官僚側からは、実態を分かっていない政治家が実現性ある政策を立案できるとは思えない、結局、実施する段階で多くの問題が出てくるため、実態的に物事が決まり実施に移されるまでに膨大な時間がかかり、国政や、それによって影響を受ける経済や国民生活に大きな混乱が起こる、という趣旨で反対・疑義を唱えていました。 ディシジョンマネジメントの考え方をご存じの方々には、もう私の言いたいことはほぼ見当がついていると思うのですが、そもそも「Bottom up か Top downか」的なとらえ方自体が間違っていると思います。 民主党の「次官会議でほぼ決まってしまい、政治家の見識やアイデアが生かせる余地がない。次官会議で全会一致で決まるような案が、省庁の既得権益を突き崩すような案になるはずがない」という主張も、自民党や官僚のいう「実態を知らない政治家に、実際に機能する政策を作れるはずがないし、結局、意思決定の遅滞と国民生活の混乱を招くだけ」という主張も、相手のやり方に対する批判としては、至極当然で正しいのです。 したがって、正解はどちらでもないわけです。要は、民主党のように「国全体の利益を考えようとしない官僚」を悪者にしても、自民党・官僚のように「実態も知らないのに、実現可能な政策が作れるわけがない」と政治家を馬鹿にしたり悪者にしても解決しないのです。 私の考えでは、「国家戦略局」方式にしても「次官会議」方式にしても、結論を一挙に決めようとすることに問題があります。その意味で、この二つは、対立しているように見えて、問題の本質という意味では、「同じ穴のむじな」です。 解決の方向はシンプルで、ディシジョンマネジメントで言うところの「DDP (Decision-Dialogue Process)」、すなわち、いっぺんに最終結論についてBottom なりTopなりで作り上げてしまうのでなく、トップと、ボトム(というか実際にはミドル)が何回かのワークショップで検討を協働で進めていくプロセス、すなわち「衆知の結集」のアプローチを活用することだと思います。具体的には; ①最初に、トップが取り上げる課題についての大枠や、取り組みにあたっての戦略着眼ポイントを提示し、 ②それにもとづいてミドルが、基本的情報の収集・分析・洞察出しとそれに基づくフレーミング(課題の枠組み設定)を行って、 ③そこまでの検討結果をたたき台として、フレーミングに関するトップとミドルのワークショップ(Workshop1)を行います。このワークショップでの議論によりフレーミングのブラッシュアップを行い、 ④それにもとづいてミドルが具体的戦略案を複数創出し、 ⑤それらをたたき台に2回目のワークショップ(Workshop2)をトップとミドルで行い、戦略案のブラッシュアップを行います。 ⑥次にブラッシュアップした複数の戦略案についての、投資対効果の定量的観点も含めた突っ込んだ分析を行い、 ⑦その分析結果と得られた洞察を、トップとミドルの三回目のワークショッップ(Workshop3)にかけます。 ⑧そこでの突っ込んだ協働作業的ディスカッションにもとづき、追加検討を行って最終案を作成し、 ⑨その最終案について、次のワークショップ(Workshop4)で合意形成、実行への指示がなされる、 といったプロセスです。 このときのトップにも、ミドルにも、政治家、官僚の双方を入れるのが良いと思います。あるいは関連民間人なども入れるべきかもしれません。要は、最終的には国として実行することに対しては、トップとミドルレベルの政・官・民が参画することで、日本国としての最高の知識と知恵が反映された「衆知を結集した政策」が立案でき、また実行へのコミットメントが形成される必要があるからです。 その精神の下で進めれば、理想的には、「トップvsミドル」という意味でも、「政治家vs官僚」という意味でも、どちらが主導権を取って決める、という設問自体が無意味になるはずです。。。もちろん、それでも意見集約がまとまらない時には、政治家側のトップが決めることになるとは思いますが、そこまでの議論をしたことによって、決められた政策の内容は、最終的にそれに賛同しない立場の人たちにとっても、このプロセスを経ないで作ったものに比べて、ずっと出来の良いものになっているはずです。 またその中で、トップとミドルの二つのレベルでの政・官・民の、良い意味での「志をともにする」仲間意識の醸成が図られる、というメリットも得られると思います。 以上、政治や官僚の世界を知らない素人の理想論かもしれませんが、少なくとも、「Bottom up か Top downか」的な不毛な議論に時間を費やすことなく、トップとミドル、官僚と政治家が、日本をもっと良くするという共通の目的に向けた、「立場の異なる 協働作業者」として、何回かのワークショップを通じて一緒に良い政策を作って行ってもらえるよう、切に願う次第です。
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