立命館大学院での集中講義の後半の二日間の講義で、先々週末の土・日(9月19日、20日)に、再び、立命館大学びわこ・くさつキャンパスに行ってきました。その時の気づき・感じたことです。 計4日間の講義の最後に、社会人経験のない学生の一人から出た質問の中に、「ディシジョンマネジメントの方法論は、企業の課題には適用できそうですが、使う道具も多く相当に手間がかかりそうなので、到底、個人の悩みには適用できそうにない、と感じたのですが、どうなのでしょうか?」というのがありました。 全4日間の講義の二日目あたりからは、企業の戦略課題、とりわけイノベーションマネジメントの場面でのディシジョンマネジメントの活用を中心に講義と演習を進めたので、こういう質問になったのだと思います。 そこで、一日目にカバーした、個人/企業を問わず、そもそもの「意思決定の定義」、「選択肢とシナリオの峻別」、「意思決定思考の基本アプローチ」といったディシジョンマネジメントの基本的考え方、そして「意思決定思考の基本アプローチ」を活用した個人の悩みに関して実施したグループワークを思い出してもらいました。 その上で、多くの個人が集まって知恵と知識を集めた検討が必要となる「企業や組織の戦略策定・意思決定」では、そのための追加のコンセプトやツール、すなわちディシジョンマネジメントの本格的方法論が有効になるんだ、という、1日目と2~4日目との関連について解説をしました。 そして最後に、次のいくつかのポイントを説明しました: ************************************************** 〇今回の講義では、企業の課題も含め、皆さんが今後直面するであろう様々な難しい課題に取り組むために有効と思われる、ほとんどすべての道具立てを紹介しました。 〇大事なことは個々のツール・道具立ての根底に流れるディシジョンマネジメントの基本的考え方をしっかり理解し、個別課題ごとに必要なツールを適宜ピックアップして使うことであって、すべてを常に使う必要は毛頭ありません。言うまでもないことですが、ディシジョンマネジメントの道具立てすべてを常に使わねばならない、という強迫観念にとらわれるなんてのは愚の骨頂です。 〇実際に取り組もうとする問題・課題に対して、ディシジョンマネジメントの活用が面倒だと感じることがあったら、それは、ディシジョンマネジメントを使うほどには、問題や悩みが大きくない・深くない、ということなので、使う必要はない、ということです。。。今日の昼御飯のカレーの添え物を、福神づけにしようか、ラッキョウにしようか、といった場面で、そもそも深く悩む必要はないのです。 〇「やはり悩ましい問題だ」と思うときでも、ディシジョンマネジメントをフルに使うのではなく、意思決定思考の基本アプローチで、「いつ頃、何が成し遂げられたら嬉しいか?」、「それに向けて自分(達)に意思決定/コントロールできることは何か?」、その時考えられる「選択肢/アクションのアイデア」、「重要そうな/悩ましい不確実要因」、「価値判断基準・尺度」は何か、というあたりからディシジョンマネジメントを使っていけばよいわけです。 〇そして、それだけでは問題や悩みが解決できないと感じた時点で初めて、ディシジョンマネジメントの本格的ツールの活用を少しづつ考慮していけば良いのです。 〇まとめていえば、「思考実験にかける時間・手間は、悩みの深さや大きさに応じて適宜判断する」というのが基本原則で、その思考実験の有力な方法論・思考体系としてディシジョンマネジメントを使うと有効、というだけなのです。 ************************************************** この最後の、「思考実験にかける時間・手間は、悩みの深さや大きさに応じて適宜判断する」というのは、私にとってはあまりに当たり前だったので、講義中それを直接口にすることはなかったのですが、社会人経験のない学生のうちのかなりの人達が、「ああ、そうなんだ!」という表情をしていることに、少々驚かされました。同時に、学生といえども、ディシジョンマネジメントを(フルにとまではいかなくとも、かなりの部分を)活用する必要性を感じる課題に自らが直面する場面が想像できない人が結構いそうだ、ということにもある種の驚きがありました。 その後、この話を、私の長年のクライアントであり友人でもあるAさんに話したところ、「籠屋さん、そんなことで驚いちゃいけません。学生でなく、社会人でも、そういう人は最近結構多いんですよ。明日のコメにもこと欠くということがなく現状にそこそこ満足していて、かといってすぐ目の前に大きなチャンスがあってそれにどうチャレンジするかという状況にもない人たちにとっては、むしろ『大きな悩みがない』のが普通のことですから。」と諭されました。 その文脈で言うと、Aさんは、ご自分の経営する会社のアジア各地にある事業所・工場をつい最近も訪れたのだそうですが、その時の現地の若者達のギラギラするような目の輝きが、日本で接する同年代の人たちとの対比において、とても印象的だったそうです。 二人で話したのですが、かつては日本でも、「今の貧しさから何とか早く抜け出したい、目の前のチャンスをどうにかしてつかみたい」といった時代があり、当時の日本人の多く、とくにリーダーの自覚をもった人たちには、そのための「大きな前向きの悩み」もあったはずなのです。 今の「そこそこOK。成熟社会」の日本では、「自ら何かを成し遂げたい/会社や社会をもっと良い方向に持って行きたい」という強いパッションを持ちにくいのかもしれませんが、今の日本の企業も社会も、中長期的に見れば大企業といえども、そんなに「そこそこOK」とのんびりしていられる状況でないのは明らかです。 もともと私がディシジョンマネジメントを提唱しているのは、まさにそういった「前向きの大いなる悩み」を生じる「何かを成し遂げたい」という強いパッションや志をもった多くの人たちを支援したいと、いう夢・志に基づいたものですので、リーダーたる気概をもった方々には、大いに前向きに悩んでいただきたいと思っています。また、このブログでの情報発信がそういった人たちの数を増やし、意識レベルを高めることに役立つことを願っています。
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