最近バタバタしていたので、1か月ほど前のことになりますが、今進行中のクライアント(A社としておきます)のディシジョンラボの現場で感じたことを紹介します。 A社のディシジョンラボプログラムでは、まず最初に私から「実践的リーダーシップと意思決定」の講義を行なって、受講生に対して事業家・経営者としての動機づけを行い、その後の約2か月間、戦略思考や財務、また組織とリーダーシップなどビジネスの基礎的リテラシーの講義を他の講師陣から行いました。同時にその間、A社全体の今後の事業価値最大化に向けた戦略アジェンダ、すなわち戦略課題のリストづくりを、各受講生の宿題として課しました。 先月のセッションからは再度私が登場して、ディシジョンマネジメントの方法論を具体的ツールとともに演習も含めて習得してもらうとともに、各自が宿題として提出した戦略アジェンダの共有化と、これからの約4か月に私からのサポートのもとに取り組む4つのテーマの設定とグループ分けを行いました。 トータル2.5日間の合宿セッションだったのですが、そのうちのほぼ一日分の時間枠を、戦略アジェンダの共有化、整理、深化のグループワーク&共有ディスカッションに使いました。まず全体を4つの仮のグループに分け、各グループ内で各自が持ち寄った戦略アジェンダを共有化し、その上で課題の深化、整理、統合、再定義を行って、「これが我がグループの考える我が社の戦略アジェンダ!」といえるものを作成します。 このときのディスカッション・作業のポイントは、できるだけ各課題を「Chewable(噛める)というか、Solvable(解決可能)な戦略課題」、すなわち「その課題って、言ってることは何となくわかるけど、どんなふうに取り組んで、どんな検討アウトプットが出たら解決できたっていえるんだろう???」的な課題設定にしない、ということです。。。後者の課題設定だと、“戦略気分の茶飲み話”で時間を空費するだけに終わりかねません。 さらに、設定する複数の課題を、できるだけ独立に扱える、すなわち課題解決や実行が他の課題との関連をあまり気にせずに遂行できるものにします。もちろん完全に独立な課題のリストにできないことも多いので、その場合は、各課題の関連性や取組みの優先順位、着手の時間軸について明確化します。 各グループで上記の作業を半日行った後、次の半日の全体セッションで発表、質疑応答を行い、課題の大まかな整理をしたのち、Voting(各自の取組み希望テーマについての投票)により、今後取り組む4つのテーマの選定、チーム分けを行いました。 この時、複数の受講生から声が上がって、次回からのディシジョンラボの各セッションにおいて、今回取り上げなかった様々なテーマについても、社内外での新たな動きや情報を全員で共有する時間を持とう、ということになりました。 この背景には、リーマンショック後の急激な収益悪化の中で、今回の戦略アジェンダ設定と課題への取り組みを、A社の売上の80%以上を占める中核事業に絞って行ったことがあります。 比較的売り上げ規模が似通った多くの事業からなる多角化企業での戦略アジェンダ策定だと、設定した各戦略課題は、ほとんどが互いに独立した「Chewable/Solvableな戦略課題」になることが多いのですが、その企業の売上と利益の大半を占める中核事業に絞った場合、各課題は、できるだけ「互いに独立したChewable/Solvableな戦略課題」にしようとしても、最後はかなりの部分、連立方程式を解くような作業をかませざるを得ないからです。 A社の今後のディシジョンラボで取り上げることになった4テーマは、比較的「独立したChewable/Solvableな戦略課題」を選んだのですが、それでも最終段階では、やはり連立方程式を解く作業が出てきそうです。。。「きそうです」という言い方をしているのは、各テーマへの今後の取り組み次第で、そのあたりはだいぶ変わって来るであろう、今時点では、それ以上のことはわからないので、検討を進めていく中で考えていこう、という意味です。 また仮に、今後の検討を通じて出てくる各テーマの解決方向が、ほぼ独立して実行可能なものになったとしても、現在の厳しい経営環境の中では、限られた経営資源の制約の中での資源配分の優先順位の考慮は出てきます。 以上の、テーマ間の「連立方程式」性や「経営資源配分の優先度考慮」性は、今回取り上げることにした4テーマ以外の戦略課題にも当然当てはまるわけです。それゆえに、経営や事業の実務の中核を担う、今回の部長層の受講生達が、会社の売上の大半を占める中核事業の戦略アジェンダを、深いレベルで共有化しディスカッションをしたことの意義は非常に大きく、それゆえに受講生の間から「社内外での新たな動きや情報を全員で共有する時間を継続的に持とう」という声が上がってきたのだと思います。 このセッションでは、今回共有した各グループの戦略アジェンダを、今後取り組むことにした4テーマも含めて、受講生の中の経営企画部門のメンバーを中心として再整理し、次回からの継続的情報共有化に役立てよう、ということも自発的に決まりました。 というのは、厳しい事業環境下、今回ディシジョンラボで取り上げることになった4テーマ以外の戦略課題についても、当然会社としての取り組みや社内外の様々な動きがどんどん出てくるはずで、そうした動きに的確に対応するためには、次回からの「継続的情報共有化」を最大限、効果的・効率的に行うことが必要だからです。その議論のベースとして、今回の議論を踏まえて再整理した戦略アジェンダを、あらかじめ全員が共有しておくことは極めて有効なのです。 私としても、今後のセッションの中で、ディシジョンラボで取り上げる4テーマについての検討作業に加え、この「継続的な戦略アジェンダ共有化・アップデート」のディスカッションを楽しみにしています。そこでは、「ちょっと待って、そっちでそういうアクションが起こされると、こっちの作業に影響が出てくるから、早急に合同検討をしよう!」とか、「なるほど、そういうやり方があるんだね。そのアイデアをこっちでも使わせてもらいたいんで、あとでもう少し詳しく教えて!」といった活発な知恵と知識の共有化・レベルアップが行われることと期待しています。 以上、A社での戦略アジェンダ共有ワークショップの事例を紹介しましたが、「戦略アジェンダ共有ワークショップ」は何もディシジョンラボの中でしかやれないわけではありません。これ単発で、一定レベル以上のマネジャーの研修・鍛練として取り組むことも可能でしょうし、あるいは中長期の経営戦略策定の初期段階の作業として入れ込むこともできると思います。 ぜひ皆さんの企業・組織でも、上記のA社のケースを参考に、それぞれの実情に合わせて工夫してトライしてみて下さい。それに関して、皆さんからのフィードバックや報告をいただくことを楽しみに期待しています!
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