少し前の日経新聞の経済教室に、「経済学でみるAIの実力~『予測』活用のリスク認識を~」という論説が載っていました。 筆者の慶応大学 鶴光太郎教授の主たる論点とはいささか異なるかと思いますが、不確実性の読みに関するAIの役割について、私が「こういうことかな」と思っていることを的確に叙述しているところがあったので(。。。僭越な言い方ですが)、ここで皆さんにご紹介しようと筆をとりました。 以下、鶴教授の論説から、私が着目した部分の抜き書きです。 *************** 〇AIが他の自動化と顕著に異なる点は、センサー、画像、ビデオ、文字情報などの多量のデータから学ぶ機械学習(ディープラーニングを含む)にある。 〇カナダのトロント大学教授のアジャイ・アグラワル氏らは、機械学習がより適合する仕事はなんらかの予測、これは機械学習で安価になったわけだが、それを補ったり、自動化したりする仕事だとしている。 〇機械学習は時間の経過とともに自分自身で改善していくように設計されている。例えば、機械学習のアルゴリズム(情報処理の手順)は、かなり大きなサンプルを前提に、あるインプットの集合とあるアウトプットの集合の間を結びつける関数を自分で見つけることができる。例えば、録音音声を文字化する音声認識もその一例である。 〇機械学習の本質を予測と捉えると、そのリスクもみえてくる。MIT教授のエリック・ブルニョルフソン氏らは、機械学習が出した結果を説明することは難しいと指摘する。AIはなぜそのような結論に到達したのかという理由は教えてくれないのだ。 〇これはさらに以下のリスクも含むことになるという。第1は、機械学習には隠されたバイアス(ゆがみ)が存在することだ。人間の意思決定を反映したデータを学ばせればそこに人間のバイアスが入り込む余地がある。 〇第2は、ある結論が完全にどのような場合でも成立することをAIは立証することはできないことである。したがって、生か死かといったクリティカルな判断には使えない。 〇第3は、機械学習システムは当然、間違うこともあり、それを避けたり、問題点をピンポイントで修正したりすることはできないことである。 〇最後に、予測と意思決定にはギャップが存在することを忘れてはならない。例えば、アグラワル氏らが紹介しているように、医学の世界ではAIが放射線科医の仕事を代替し始めている。IBMのAI「ワトソン」は機械学習により肺結節や骨折ばかりでなく、肺塞栓も発見できるようになってきている。いくつかの原因の可能性を確率的に示すという意味で予測が行われているのだ。 〇その予測の精度が高まれば、負担の大きい生体検査を減らすことができる一方、やはり、そうした検査をすべきかどうかという判断は放射線科医が依然として担っている。予測を最大限活用するとしても、因果関係・論理を考え、最終的に判断を下すのは人間であることに変わりはないことに留意すべきである。 *************** ここからまず読み取れるのは、AIが行う予測というのは、現在や過去の膨大なデータから何らかの相関関係を確率的に導くことであるということ。 従って-ここからは鶴教授の言いたいことからは離れていくかと思いますが-、AIが解き明かすのは、因果関係でも論理展開でもなく、何らかの相関的傾向に過ぎないということです。つまり、「予測」という言葉が本来持つ[未来についての読み]ということではない—未来が過去と現在の単純な延長でない限り—、ということなのです。 ですから、その相関傾向を活用して人間が、未来の不確実性についての(言葉本来の意味での)予測を行い、意思決定に役立てることが必要だし、そこにこそ人間の付加価値がある、ということです。 即ち、導き出した相関傾向から、 ①何らかの戦略構想を着想したり、 ②新たな選択肢を探求したり、 ③それぞれの選択肢を採った時の結果予測(例えば、売上高や収益性など)を行う際に、様々な不確実要因の読みを行う時の素材として活用する、といった活動です。 ③について、もう少し詳しく言うと。。。 新製品やサービスを市場に投入した時、各市場セグメントで市場シェアがどの程度になるかを予測する際、従来であれば、マーケティング担当者の蓄積した知識・見識と、それに基づく「インテリジェント(知的)えいやー」の主観的確率を読んできたわけです。(主観的確率の読みや、その本質である「インテリジェントえいやー」については、2009年8月6日のブログ記事をご参照ください。) それに対して今後は、AIを活用した様々な分析から、各セグメント顧客の特性と、これまでの類似製品・サービスの市場での実績から、何らかの傾向値が得られれば、それを参考値として、今回の新製品・サービスの特性を加味した、よりレベルの高い「インテリジェントえいやー」を行うことが可能になる訳です。 私のこれまでのコンサルティング/エデュサルティング経験でも、当時はAIこそ使ってはいませんが、それに近いことを行っているエキスパート(専門家)は何人かいました。 具体的には、ある分野でのこれまでの新製品投入と、その後の市場シェア、価格動向を様々な角度から分析し、その人なりの傾向仮説を持ち、それをベースに、今回の新製品の市場シェアのHigh-Base-Lowの巾読みを行う、といったことです。 この「これまでの傾向を様々な角度から分析し」というところを、AIがそのエキスパートの何千人分/何万人分の分析活動をしてくれるようになれば、「傾向仮説」がより精度高く、また多面的なものになります。 これがAIによる、「インテリジェントえいやー」の「インテリジェント度の高度化」、ということになります。 とはいえ、今回の新製品については、過去に「そのものずばり」の事例は存在しないわけですから、最後の最後は、担当エキスパート(達)が、それらを踏まえ、今回の新製品の特色、市場や社会のトレンドを考慮して、人間ならではの高度な「インテリジェントえいやー」を行うことになります。 以上、皆さんの企業での「インテリジェントえいやー」の高度化や、その前段の戦略構想のヒント、新たな選択肢探求のヒントを得る、という形でのAI活用を—もちろん費用対効果も考慮して—お考え頂く際のヒントとして頂ければ幸いです。
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