私はe-ニューズレターという形で、ディシジョンマネジメント関連で交流ある方々に毎月、時々に感じた雑感等を発信しています。2025年12月号では、広い意味での「仕事観」に関する4つの記事を取り上げてコメントや考えたことを記しました。「雑感」にしては少しまとまった文章になったので、ここにブログ記事としても掲載することとします。以下に順次、記事からの抜粋を記し、「⇒」の後ろに、記事を受けた上での私のコメントを記す形で考察を展開していきます。①[営業ノルマを廃し、各自の個性で顧客と向き合う 雨の日にこそ、傘を差し伸べる金融機関に(日経ビジネス誌 2025年10月13日号の「有訓無訓」というコラム記事での 京都信用金庫理事長 榊田隆之氏の言葉より)] …人にしかできない仕事とは何か。それは、何もなくても相談してもらえるようなお客様との親密な関係を築くことです。これこそがDXが進んでも残る人の価値だと考えており、コミュニティ・バンク京信が「日本一コミュニケーションがゆたかな会社」を目指す背景にあります。 心の底からお客様に喜んでもらいたいという思いは、会社が強制的にやらせる労働からは生まれません。そこで私たちは2017年度から営業ノルマをなくしました。ノルマを廃止し、何をすればお客様に一番喜んでもらえるのかを各自が考えてもいい。逆に言えば考えなくてはいけないというルールに変えました。 この仕組みの前提はまず、仕事を各自に任せることです。ノルマのあるピラミッド型組織と違い、それぞれがテーラーメード感覚でお客様に向き合わなければならない。やり方も自由だし、個性を伸ばせるように服装も白シャツにネクタイである必要はありません。 …こうした組織の運営は非常に難しい。ですが21世紀型の企業のあり方を考えた時、最も重要な要素は、やりがいを持って仕事をし、自ら成長したいという意識の高い社員の集団であることです。各自が責任とやりがい、社会貢献しているという意識が持てる職場を整え、「お客様にも喜んでほしい」という気持ちが自然に湧いてくるようなプラスの循環を回していく。 …京信の預金・融資残高はノルマをなくしてからも伸びています。ですが規模を追う考えはない。伸ばせたらいいですが、目的にはしません。それより私たちは雨が降る前からお客様と準備し、雨の日にこそ傘を差し伸べる存在でありたいと思っています。 ⇒少し前に(今も?)「社員のエンゲージメント」という言葉が流行りましたが、「顧客に喜んでもらい社会に貢献することをやりがいとした社員の集団」というのは、まさに、そういうことなのだとあらためて感じました。「こうした組織の運営は非常に難しい」と語っておられますし、確かにそうなのだと思いますが、それぞれの企業のミッションとかビジョン、企業理念に書かれていることを素直に読めば、これこそが本来あるべき/ありたい姿なのだろうと思います。 具体策としての「ノルマ廃止」は、「企業理念は“きれいごと”として脇に置いておいて、実態としては『儲けをいかにして大きくするか』に主眼を置く」多くの企業にとっては、非常に難しいのは確かだろうと思います。 そうした中で「京信の預金・融資残高はノルマをなくしてからも伸びています」という言葉には勇気づけられます。 そして「ノルマ廃止」と一体としての「規模を追う考えはない」も、極めて整合性のとれた考えだと感じます。 こういう考えで経営される企業が結果として成長を遂げ、そうした企業が今後増えて行くことを強く願うものです。 ②[特集 黒字でも人を減らす パナソニック・三菱電機・第一生命の決断(日経ビジネス誌 2025年10月29日号の特集記事の中の「古巣を離れ再び輝く 沸く中高年転職市場」というセクションの記事より)] …あるスタートアップの幹部は大企業から転職してくる人材について「労働とは組織で仕事をすることで、給料はやりたくないことをやらされる対価と考える傾向が大きい」と指摘。「キャリアを自ら描き、最初は給料が低くても自分の価値を発揮して伸ばしていくスタートアップの考え方とのギャップをどう埋められるかが、活躍できるかどうかの鍵になる」と語る。 ⇒「労働とは組織で仕事をすることで、給料はやりたくないことをやらされる対価と考える」という仕事観は、①の記事での「自ら成長したい」と考え「仕事にやりがいを持って働く」仕事観とは対局にあり、そうした仕事観で働いている人が大企業に多い、という指摘であり、本当に残念なことだと思います。 ただし「最初は給料が低くても」、それが自分の価値を発揮し伸ばし企業成長に貢献してていく中で、「遠くない将来には給料がグンと伸びる」につながることも大事で、給料が低いままでは「やりがい搾取」になってしまうので、そこは注意が必要です。 もちろんスタートアップの場合は、これまで世の中になかった新たな事業に取り組むわけですから、「近い将来グンと給料が増える」可能性はあっても、保障はないわけです。 その可能性を信じ、かつ不成功に終わるリスクを取る覚悟が問われる訳で、もと所属した企業のリストラクチャリングによって転職を余儀なくさせられた人材にとっては、なかなか大変なことだろうとも思います。 その意味で「給料はやりたくない仕事をやらされる対価と考える」社員を大量に作り出すような大企業の経営は罪深いものだとも感じます。 ③[特集 海図なきAI時代の羅針盤 リベラルアーツがリーダーを鍛える(日経ビジネス誌 2025年10月27日号の特集記事の中の「談合事件で受けた衝撃『論語と算盤』で意識改革」という記事での清水建設 井上和幸会長の言葉より)] …清水建設には150年ほど前から30年以上、渋沢に経営指導を受けていたという歴史もあります。社長になって2年目の2018年に談合問題が発覚しました。私がトップになる前に起きた事件でしたが、厳しい批判を受け、対応に追われました。実はその10年以上前にも同様の問題が起きて社内で改革に取り組み、「このような談合はやめよう」と研修にも力を入れてきて、もうやれることは全部やったと正直思っていました。 それなのにまた起きてしまったのはいったいなぜなのか。必死で考えました。そのときに経営の基本理念にあった『論語と算盤』を読み返し、原点に返らなければならないと心から思いました。 「道徳と経済は一体である」というのが渋沢の教えです。道徳に背いて一時的に利益を得ても、長期的に考えると会社にとって何のプラスにもならない。そのことを全社員が心に刻んでほしいと思いました。 …今期どうしても仕事が取れないといった切羽詰まった状況になると、みんな自分の組織が大事だから誘惑にかられてしまう。そんな時にちゃんと立ち止まれるのか。 目標としている数字が達成できなくてもいいから、論語と算盤の精神を決して忘れないでほしい。 ⇒私はリベラルアーツとか「論語と算盤」といったことについて、功なり名とげた“あがりの経営者”が発する言葉には、かなり懐疑的です。 というのは、目標数字の達成をガンガンやって企業業績を上げたり立て直したあとで、あがり≒引退モードになってから「論語と算盤」的な“きれいごと”を発信して自己満足している臭いをどうしても感じてしまうからです。 井上氏の経営が実際どうなっているかは知りませんが、「目標としている数字が達成できなくてもいいから、論語と算盤の精神を決して忘れないでほしい」を”偉い人のきれいごと”ではなく、実態としての経営の中でどう具体的な実務に落とし込んでいるか、そこを次の記事では日経ビジネス誌として切り込んで欲しいと感じました。 ①の記事の榊田氏のように「目標数字のノルマ化をやめる」とか「業績評価システムをこう変えた」とか、実務上の参考になるような話が聞きたいと感じた次第です。 ④[専門記者の眼 就職面接の音声投稿サイトが炎上 無断録音に法的問題は「なし」(日経ビジネス誌 2025年8月25日号の記事より)] …法的に制止できないとすれば、企業側は「録音されている」ことを前提として採用活動に臨まざるを得ない。 有効な手段として考えられるのは「録音されても困ることのない面接設計」を取り入れることだ。 …企業の採用プロセスは学生間で容易に共有される。この流れにはあらがいようがない。「録音されても困らない面接設計」は企業の採用ブランディングを守る上でも重要であることを、経営者や人事・採用の担当者は肝に銘じておくべきだろう。 ⇒「仕事観」から少しずれるかもしれませんが、企業には、「録音されても困らない面接」の概念を、「録音されても困らない仕事場面と組織運営」に読みかえて、あるべき・ありたい組織運営を目指してもらいたいと感じてこの記事を最後にとりあげてみました。 ③の記事にある「論語と算盤」の精神で本当に企業経営や組織運営がなされていれば、社員や役員のすべてのコミュニケーションが録音されても(企業機密の取扱いには十分配慮する必要はあるものの)、何ら問題ないのではないでしょうか? さらに、それをリアルタイムで「AI渋澤栄一」(←恐れ多いですが、「突っ込みAIファシリテーター・アイちゃん」の渋沢栄一版)に聞かせて、「論語と算盤」の精神にもとる発言に対して、その場・その時に突っ込んで&助言してもらえば、談合等の企業不祥事も防げるのではないかと感じます。 以上、仕事観についての考察、最後は持論の「突っ込みAIファシリテーター」へと展開しましたが、楽しんで読んで頂けていれば幸いです。
スパムが非常に多いため、一時的にコメントは受け付けないように設定しました。コメントを頂ける方は、CONTACT USにある当社のメールアドレスまで直接お寄せ下さい。