このところ、経済指標(代表的にはGDP:国内総生産)では人々の幸福は測れない、経済成長一辺倒の価値観からもっと本質的な人間の幸福に価値観を置いた目標設定が必要ではないか、それを「幸福度指標」的なものとして測定できないか、といった議論をよく耳にする気がします。 私も、企業の意思決定における価値判断尺度は、キャッシュフローのNPV(Net Present Value)で代表される金銭的価値のみならず、それ以外の要素、たとえば会社のミッション/ビジョンの実現への貢献や、技術の進展・蓄積の意義、働く社員の生き生き度、顧客の喜びなどを総合した、「ミッション達成総額」「トータルの正味嬉しさ総額(Net Pleasure Value)」ではないか、と常日頃言っているので、「幸福度」やその指標化には興味があり、面白そうな記事や番組などがあると、目を通すようにしています。 その中の一つとして、少し前になりますが4月5日付けの日経新聞の「核心」というかなり長いコラムに、論説委員長の平田育夫という人による「幸福度重視 うまくいくかナ」という記事が載っていました。カバーされていた論点は概ね以下のような感じでした: ○鳩山政権で、GDPだけではわからない「幸福度」を測る指標作りの動きがある ○フランスのサルコジ大統領の依頼での、米欧の学者による検討報告: 「GDPでは環境や社会的課題を計測できない、したがって新しい指標作りが必要」。。。余暇時間を加味した指標によりフランスの国家威信を高める、というサルコジ大統領の狙いもあるのでは? ○日本でも、1973年に篠原三代平氏らによる「国民純福祉(NNW)」という考え方の提唱があったが、わかりにくさからか、その後次第に忘れ去られた感がある ○ブータン国王による「国民総幸福(GNH)」の提唱: 「ヒマラヤの自然環境の保護」など4項目が柱 ○以上をふまえての、平田氏の疑問/懸念指摘: 幸福度重視に傾くことで、政府はそう思わなくとも経済成長を軽視する風潮をあおる恐れがあるのではないか? ○そして最後は、「政治が幸福度を取り上げるのは時代の要請に沿っているが、それは雇用環境の改革も含め様々な難題を抱え込むことでもあろう」という、いかにも評論家風の締めくくりで、「で、どうする?!」は自らの責任範囲外と位置付けがちな、典型的な日本のジャーナリストの言葉になっています。 この人の発言のトーンはさておき、私自身は「幸福度重視に傾くことで、経済成長を軽視する風潮をあおる恐れ」ということはあまり心配していません。というのは、これだけ豊かな生活水準をいったん味わった日本の大半の人々が、「経済的基盤が弱体化しても幸福になることは可能」と単純に思うようになるとは考えにくいからです。 私が思ったのは、平田氏の論点とは異なる、次の3つの点です。 ①仮に「幸福度指標」なるものができても、決して国と国や地域と地域の比較に、それを使うべきではないということです。というのは、何を幸福と感じるかは、それぞれの国や地域に住む人たちの、ある種哲学的価値観によるものだからで、「君の国より僕の国の方が、幸福度指標からいって、ずっと幸せなんだぜ!」なんていうことは、他の国の人達にとっては「大きなお世話だ。放っといてくれ!」だからです。 ②従って、こうした指標を各国や各地域で設定したとしても、その使い道はそれぞれの国や地域が、そこに住む人たちの幸福度を改善する継続的試みの中でこれをモニタリングし、次なる打ち手を考えて行くことに使うべきだと思います。 ③より重要なのは、幸福度指標を測定しつつ、それにもとづいて幸福度を改善する様々な打ち手を考える際、それぞれの打ち手の優先順位付けの問題をどうするかだと思います。というのは、よく考えてみれば、国や地域が税金を使って様々な施策・事業をやるのは、経済振興策も福祉施策もどれもこれも、究極的には全て、そこに住む人たちの幸福度を改善するためにやっているわけで、したがって幸福度についての議論の本質は、詰まるところ「トータルの幸福度を高めるのに、税金の使い方として、どれがより投資対効果高く幸福度を高められるか」というテーマに帰着すると考えられるからです。 以上の三つのうち私が一番重要と思い、また非常に難しいテーマと認識しつつもトライしたいと思ったのは、幸福度⇒あえて私の気に入っている造語を使わせてもらえば「トータルの正味嬉しさ総額(Net Pleasure Value)」、を最大化する上での施策間の優先順位付けのための考え方/仕組み/測定尺度をどうやって作るか、考えるか、使うか、ということです。 ある種無謀なことかもしれませんが、今、少し温めはじめているアイデアがありますので、もう少し考えがまとまったら、そのうちこのブログのコーナーで、また皆さんに私の仮説をお示ししたいと思います。それに向けて、皆さんからも何かアイデア・ヒントなどもらえると、それらも合わせて考えを発展させられますので、ぜひご意見やフィードバックなど、お寄せくださることを願っています。期待しています!
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