前回に続き、大阪府へのお手伝いの中で感じたことを書いてみます。 4月以来、ある一つの大きめの戦略課題への取り組みを、担当部署のスタッフの方々と進めています。最初は、官僚の人たちと仕事をするのは私にとって初めての経験なので、やり取りの感覚をつかむのに少し苦労しましたが、今ではそうした問題はなく、課題自体の難しさに対してチームとして一緒に取り組む、というコラボレーション関係ができてきました。 コラボレーションを通じて感じるのは、官僚スタッフの人達の持つ、専門分野での知識の広さと深さ、そして検討に取り組むうえでの優秀さと真剣さです。ただし、前回のブログ記事でも触れたように、様々な方面からの「揚げ足取り」を避けようとするため、仕事を非常に厳密にやろうとする傾向が強く、「インテリジェントえいやー」的発想に当初は戸惑いを示したり、また、自分たちの専門外のことへの取り組みには消極的な傾向があったり、というのも事実なので、そうした点を納得感を持って克服するためにいろいろ腹を割った議論をしつつ、進めているところです。 官僚の人達の優秀さ、知識の深さ・広さを実際に目の当たりにすると、いわゆる「脱官僚」とか「官僚バッシング」とかいうのが、如何に無意味なものか、という感覚を強く持ちました。そして同時に、「官僚抜きの政治主導」の愚、とも感じます。 そもそも「官僚抜きの政治主導」が高いクオリティで実行できるなら、専門性の高い官僚を置いておくこと自体、税金の無駄遣いであり、逆に「官僚抜きの政治主導」のクオリティが極めて低いものになるなら(⇒私は、そうなると感じていますが)、せっかく税金を投じて集めた官僚の知識とかれらの優秀さを使わない政治家は、国民からの責めを負うべき、ということになるからです。 土台、「官僚抜きの政治主導」は、理屈として成り立たずナンセンスです。政治家がスーパーマンでない限り、政治家としての見識を持つための活動と知識蓄積を行いつつ、同時に官僚の持つ知識蓄積を行う活動をできるはずがないからです。必然的に両者は「立場の異なる協働作業者」であるべきであり、政治家は官僚を使いこなすことが役割であり、そのためのスキルが求められます。 両者の役割を、民間企業でのアナロジーで考えれば、政治家はディシジョンボード(トップ:意思決定者グループ)、官僚はプロジェクトチーム(ミドル:検討のたたき台をつくる作業グループ)ということになると思います。戦略策定から意思決定とその実行には次の6ステップがありますが、いずれもたたき台作りにプロジェクトチーム(官僚)の力を活用するものの、それをどう判断し、またブラッシュアップをリードして行くかは、当然ディシジョンボード側(=政治家)の役割です。 ①戦略アジェンダ(重要戦略課題のリスト)作り ②各課題ごとの検討体制の設定 ③各課題についてのフレーミング(枠組み設定)。。。この中には、複数の価値判断尺度のリストアップも含まれます ④複数の戦略代替案の設定 ⑤各戦略代替案の、複数の価値判断尺度に照らしての、定量的&定性的測定・評価 ⑥測定・評価結果に基づく、トレードオフ関係まで含めた最終判断と、実行の指示 ⑦さらに、戦略アジェンダの中の複数の戦略課題相互の関連性や資源配分についての判断と指示 上記の①、②、③、⑥、⑦については、とくに政治家側の主体的取り組みと判断が求められますが、これらについてすらも、官僚の持つ知識や知恵を活用した、ある程度のたたき台は有効でしょう。。。ただし、もちろん放っておくと官僚の縦割り意識の習性で、省庁や部局を超えた部門横断的取り組みや発想は出てきにくいので、そこに国民・住民の民意を代表し、また国や自治体の理想形をどう考えるかといった政治家・政党のビジョンを反映させることの重要性は、言うまでもありません。 。。。ちなみに私の友人の元中央官庁出身の人の言葉によれば、「省庁が違うことは、民間でいえば会社が別ということに等しいから、役人が省庁を超えた発想で課題に取り組んだり、省庁横断的な体制で検討するなんてことはありえない」のだそうで、だからこそ政治家には、そういった縦割り意識や仕事を打破するためのリーダーシップが求められるのだと思います。 民間企業でも、上の作業は困難を極め、必ずしも理想通りには行かないのが実情ですが、国や自治体の場合は、「取り組む課題がさらに複雑」&「利害関係者が極めて数多く存在する」&「価値判断尺度の数が多い」&「国民・住民の民意なるものが実にわかりにくい」&さらに「省庁が違うことは会社が違うに等しい」、という4重苦、5重苦の難しさがあります。 そうした困難に対し、官僚の限界を知りつつも、官僚の知識や知恵や労力を活用せずに政治家だけで全て決める、なんていうスタンスは「地に足のつかない幻想」としか思えないわけです。政治家には、「立場の異なる協働作業者」としての官僚を使いこなす発想を持ち、そのためのスキルを磨いてもらいたいものだと切に願うものです。 加えて言えば、その際きわめて重要なのは、官僚側に「『立場の異なる協働作業者』としての政治家と、チームとして一緒に働きたい」とモーティベイト(動機づけ)する度量、人間性、そして技量であろうとも感じます。 以上のポイントにつき、まだ手伝い始めて日が浅いですが、大阪府ではかなり良好な、政治家と官僚のコラボレーションができている、ないし、できつつある、という感触を持っています。私も、特別参与としてのお手伝いを通じて、この「立場の異なる協働作業者」同士のコラボレーションのさらなる強化に、少しでも役立てればと願っている次第です。
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