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「不確実性のもとでの意思決定力」こそが、イノベーション・マネジマントのコア・コンピタンス！

カテゴリー: イノベーション・マネジメント 2010 年 10 月 24 日 コメント(0)

少し前の日経ビジネス（8月30日号）に、「脱藩侍が拓く新市場」という特集記事があり、その中に次のような一文がありました。曰く：

【・・・から学ぶ教訓は、脱藩侍の生かし方である。すぐに結果を求めて、血気にはやらせるのではなく、十分に時間を与えて大きな仕事をさせる・・・】

Good!ですね。ただし、単ににこれだけだと、記事としては面白いものの、真に受けてナイーブに（うぶに/ものをわからずに）これをやると、事業性の乏しい技術開発となり、無駄な投資になりかねません。。。ノーベル化学賞受賞の根岸教授がインタビューで言っていたように、技術への熱情に加えて、「もうける研究」の視点が必要です。つまり、ビジネスとしてどう成り立たせるかに関する、基本的ビジネスリテラシーとその適用が、脱藩侍サイドにも、スポンサーサイドにも求められるのであり、このことを決して忘れてはならないと思います。

ここで思い出されるのが、私の学生時代からの友人（仮にR氏としておきます）のことです。R氏は卒業後、最初に入った会社で、独自の着想と、ビジネス化をやり遂げる熱意により、かなり大きな技術開発と事業化の実績をあげます。そしてその後、インダストリーバリューチェーンの下流から上流に向かっての、近接業界への転職をしました。

近接業界だったため、最初の会社での技術的スキル・知見・実績を認められてスカウトされ、しかもコンフリクトなく平和裏に転職できたのですが、転職後比較的短期間で、新しい会社でも実績を上げることができました。そこで首脳陣の厚い信頼を得たR氏は、今度はまた新たに、彼の技術知見を生かしまた市場トレンドをとらえた、新技術＆新製品のアイデアを発想します。

しかしここで一つ壁が現れます。実は、そのアイデア・着想の検証実験に取り掛かるだけで、20億円近くの設備・機器への投資が必要だったのです。前に勤めていた会社（超大企業）だったら、転職後間もなくまだ部長職の彼のような人間の発案を実施するには、たくさんの関係者・上司のハンコが必要で、そのプロセスの中で、まず認められなかっただろう、ということです。

R氏自身、技術的に必ずできる保証はないと思いつつ、しかしこの発想がうまくいったらビジネスとしてすごい、というアイデア・構想であると確信していたそうです。そして、この会社では前の会社と違って（企業規模的には、この会社は前の会社の数分の一）、説得すべき上司はR氏をスカウトしてくれた常務CTO (Chief Technology Officer)のみ。幸い既にR氏の実績で会社には相当額な利益をもたらしていたことから、即断で認可。そして実際その後、この構想が技術的にもビジネス的にもうまくいって、今ではすでに事業として立ち上がってきた、ということです。。。競合他社もこの実績をみて追随してきたが、R氏の見るところ、まだまだ2年以上先を走り続けられる自信がある、とのことでした。

絵に描いたような成功譚なのですが、「技術へのパッション＋ビジネスリテラシー」の重要性を示す事例であることに加え、私はここに、【「不確実性のもとでの意思決定力」がイノベーション・マネジメントのコアコンピテンス】という意味合いを読み取ります。

このことは、医薬開発の例で考えれば、自明のことです。よく知られたことですが、ごく初期の、一つ一つの開発・スクリーニングにあまり大きなお金がかからないフェーズを別としても、一つの医薬品候補化合物の開発・スクリーニングに相当額がかかってくる臨床フェーズの最初の段階あたりでも、その候補化合物が最終的に医薬品として認可される確率は、5つに一つとか１０に一つとかいった極めて低いものなのです。

つまり逆に言うと、８０％～９０％は、「やらなかった方がよかったね」ということになるのであり、この業界の常識として、そのことを認識・覚悟して取り組む必要があるのです。。。「非常に高い失敗の可能性を避けるには、全部やめた方がいい。それでも８０％～９０％は、その決断でよかったことになる」のですが、当然ながら、これをやったら、医薬品の会社としての将来はないわけです。

不確実性の下での意思決定で重要なことは、”Good Decision, and Willingness to Risk a Bad Outcome + Commited Execution!”の認識です。つまり、悪い/望まない結果になるリスクをあえて（しかし賢く）とる覚悟を持ち、その覚悟に立ってベストな意思決定をする意欲を持ち、そして、いったん決めたら成功に向けベストな努力をすることです。そのためには当然、覚悟と意欲に加えて、賢く質の高い意思決定を行うためのスキルが必須なのです。

10月11日付けの、やはり日経ビジネスの「過少投資が国滅ぼす」という記事の中で、経済産業省の佐伯さんという課長補佐の人の「日本企業が世界で勝てなくなったのは・・・世界に先駆けて開発した事業も、量産段階での設備投資が少ない上にタイミングが遅いために、コスト競争で韓国企業に負けてしまった」という言葉が載っていました。

確かにその指摘は正しいのだと思いますが、これを短絡的に「ともかく早く決めて、思い切った投資をドンとやればいい」と解釈してしまうと大変危険なわけです。つまりそこに、「的確なタイミング（=ともかく早ければいい、というものではない！）」と「意思決定の質」がきちんとビルトインされていなければ、「無謀な投資による即刻倒産」につながるからです。

同じ号の日経ビジネスに、青色ダイオードで有名な米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授と、有機ELで有名な山形大学の城戸淳二教授のインタビュー記事が載っていましたが、インタビュアーの受けとめ方のトーンとは少し違って、私には、「イノベーション・マネジメントの成功の鍵は、不確実性の下での意思決定の的確なスピードと質にあり！」と聞こえました。

「籠屋の我田引水っぽいな」と思われる方もおられるかもしれませんが、あえてもう一度強調します。

：【「技術へのパッション＋ビジネスリテラシー」w/ “Good Decision, and Willingness to Risk a Bad Outcome +Commited Execution”の認識と覚悟】⇒【「不確実性のもとでの意思決定力」こそが、イノベーション・マネジメントのコア・コンピタンス】！

イノベーションにたずさわる方々には、是非このことを認識してイノベーション・マネジメントに取り組んで頂きたいと願っています。そしてその活動を、前回のブログ記事で強調した「イノベーション・テーマ　ブラッシュアップ・ワークショップ」などを通じてサポートするのが私のミッションだと思っています。

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