大地震の影響で、直接の人的被害を受けなかった方々でも、様々なことで忙殺されたりご苦労をされていることと思います。ましてや直接甚大な被害を受けた方々のご苦労は如何ばかりかとお察しし、心からお見舞い致します。 私の方は幸い家族も含めて無事だったのですが、仕事上のスケジュール変更や調整などは既にいくつか起きてきています。ただそうは言っても私の仕事自体は3月中旬から4月前半にかけては例年比較的slowなので、普段できないことに取り組んだり/本を読んだり/考えをまとめたり、といったことを中心に時間を使っています。 その一環で、前々から知り合いの方に勧められていた、菊澤研宗という慶應大学の先生の書いた「組織の不条理」という本を読み、ついでその続編ともいえる「『命令違反』が組織を伸ばす」も読みました。読みつつ、ディシジョンマネジメントの意義や有効性を改めて認識するという感じになり、その意味でも印象に残ったので、ご紹介してみたいと思います。まずは以下、あくまで私の独断と偏見による、2冊を通じての菊澤先生の論旨のサマリーです。: ************************************************************* ①組織が不条理な意思決定/行動をした時、これまでの伝統的経済学/経営学では、その組織の持つ非合理性に原因を求めるが、それは人間が「完全合理的:すべてのことを未来の情報も含めて完全に把握し、完全に倫理的かつ効率的に資源配分や意思決定、行動を行う存在である」という前提を置くからであって、その前提がそもそも間違っている。 ②本来、人間は完全合理的ではなく「限定合理的:完全に合理的ではないが、その限定された能力の中では、できるだけ合理的に資源配分や意思決定を行い、行動しようとする存在」であり、その前提に立つと、一見(後知恵的に見ると)非条理に見える行動が、実は合理的思考/意思決定のもとに導きだされたものであることが多い。 ③この考えを、より具体的には「プロスペクト理論」や「取引コスト理論」など、最新の経済学理論を用いて、実際の第2次世界大戦における旧日本軍のいくつかの事例にあてはめてみると、一見不可解/非合理/不条理に見えた行動が、なぜ「合理的に」そうなったかを明快に説明出来る。 ④従って、「合理的に非条理なことは起きうる」のであって、旧日本軍の特殊な事例だととらえてはならず、いつでもどんな組織にでも企業にでも起こりうることと考え、それに備えておく必要がある。 ⑤具体的には、組織(の上層部)が反社会的な命令や、(資源配分の方向として)非効率な命令を出した時には、(部下は)勇気ある「命令違反」を行うことで、社会的&効率的行動につなげるようにすることが重要。 ⑥これを実現するには、普段から -カント的人間関係(互いを自分の目的を達成する為の単なる手段と見るのでなく、一個の人間として尊重し合う間柄)を組織風土として作り上げておくこと -完全無欠の組織も戦略もないことを前提に、健全なる批判精神を持ち、常に組織や戦略を漸進的に改善し続けて行く、という発想とマネジメントを行っていく ************************************************************* これを読んでの私の感想ですが、まず上記①〜③については、知的には Good Try! だし良く論理構成されていると思いましたし、それなりに楽しめました。しかし、伝統的な経済学が前提とする「完全合理的」な人間像、というのがもともと浮世離れしていますし、それが実際にはそうでないことを今更「発見」して、改めて「限定合理的」と名づけている経済学会という特殊業界の神経/感覚に、ある種の「不思議感」を持ちました。 そして、様々の理論なるものも、常識的/実務的に考えれば「当然そうだよね」というものなので、③の説明出来た、ということも「そりゃあ、そうだよね」感で、納得はできるものの失礼ながら「何を今更。。。」という感覚を持ちました。 意思決定理論における私の師匠であるスタンフォード大学のロナルド.ハワード教授は、今から30年以上も前から、(完全合理的でない人間にとっては避け得ない)不確実性のもとで、どのような価値判断基準(複数)に基づくかを明確に認識/共有化した上で、自分(達)にとってのベストな選択肢を如何に作り出し選んで行くか、についての理論を世の中に提唱し、そして仲間(私もその一員ですが)とともにその実践を広げて来たわけです。 その実践の中から、ディシジョンマネジメントのもつ【組織の中の様々な立場とスキルを持った、本来性善&性賢なる人たちが、それぞれのもつ性悪&性愚の部分を克服し、衆知を結集&促進して建設的コンセンサスを作り出して行く「ワークショップ」のアプローチ】も生み出されて来た訳です。 その中に、⑥の「カント的人間関係」も「健全なる批判精神」や「漸進的改善」も包含されますし、さらには具体的なコンセプト/ツール/方法論も提供されている訳です。。。たとえば、事業環境の変化をふまえた戦略アジェンダ(重要戦略課題のリスト)の設定と継続的見直し、各課題への取り組みにおける戦略構想に対するフォースフィールドダイアグラムによる反対/懸念要因のリストアップetc.etc… 私がこう書くと、いかにも我田引水ないし自己正当化めくかもしれませんが、冷静に考えて心底そう思います。ディシジョンマネジメントを既に実践したり、私の研修を受講した方であれば、かなりの部分賛同して頂けるものと思います。。。もちろん、まあ「病膏肓」と言われてしまえばそれまでですが、その批判はあまんじて受けましょう! ということで、菊澤先生の⑤の「命令違反」を積極的に進めずとも、⑥の実現は、ディシジョンマネジメントを活用し組織に定着させていくことで相当程度可能ではないか、というのが私の結論的感想です。だとすれば、「限定合理的」な人たちが作る組織が、社会的正当性と効率的正当性をもった意思決定/資源配分/行動の方向に進めるように、如何にディシジョンマネジメントを活用し定着させて行くか、が重要命題になります。 私はこれまでも既にこの考えで様々な活動を行って来た訳ですが、あらためてその活動レベルと効果レベルをこれまで以上に促進(プロモート)することが今後の私のミッションである、ということになります。 そこで具体的には、これまで以上に多くの人たちに(企業のみならず、政府/自治体/NPO、さらには学生や児童やシニア層も含めた一般の個々人にまで)、ディシジョンマネジメントを知ってもらい親しんでもらうことをめざし、意思決定思考の基本アプローチを活用した「ロジカル人生相談」の考え方を発信しようと思い立ちました。 これを通じて、 1.多くの人たちが 、それぞれの真剣な悩みや問題に取り組むスキルを学びつつ、同時に”It’s up to me/us!”精神(自分の未来は自分で切り開く気構え)を身につけて行ってもらえれば、次に 2.そうした知的武装レベルの高い自立した人たちが数多く集まることで、組織/企業が、自立し互いに尊敬し合う強い個人の集まる場/チームとなり、そういった組織/企業は、 3.衆知を結集/促進しつつ、社会的正当性と効率的正当性をもった意思決定/資源配分/行動の方向に、力強く進めるようになるのではないか、 という構想/方向性/希望です。 このブログを書いているうちに、ちょっと高揚感が高まりすぎたきらいもありますが、近く「ロジカル人生相談」のコーナーを立ち上げ、そこにまずは基本的考え方と簡単な事例を紹介する形で活動を始めて行きたいと思います。このブログ読者の方々には是非ご期待ください。また、面白いと思ったら、一人でも多くの友人/知り合いの方に紹介して頂ければと願っています。前もってのお願いですが、よろしくお願いします!
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