戦略構想倒れにならないために(I)。。。「戦略構想の具体化作業」の重要性 |
***************************************************** ことし、大手メーカーが相次いで発売に乗り出すことで注目を集める「電気自動車」その電気自動車を一気に普及させようと動き出したのが、沖縄です。 「沖縄グリーンニューディール」という構想。 地元の経済界と東京大学工学部大学院の宮田秀明教授が計画しています。 沖縄本島は南北110キロしかなく、航続距離が限られる電気自動車の普及に適しています。 コンビニエンスストアや道の駅など、およそ200か所に充電施設を置けば、島の中を、心配なく走れると宮田教授は見ています。 沖縄では、本島の西、60キロにある渡名喜島で、すでに電気自動車がレンタカーとして使われています。1回の充電で、およそ50キロ走る小型の電気自動車です。島の周囲は、10キロあまりなので、充電施設は1か所で済みます。 宮田教授たちは、今、2万台あまりのレンタカーをすべて電気自動車に置き換えられないかと検討を進めています。環境に優しい沖縄のイメージは、観光にもプラスだとして、レンタカー会社も乗り気です。 宮田秀明教授の話です。 「短い時間で、グリーンニューディールを実現するためには、沖縄のような規模や大きさが適切です。視察の結果、予想以上に実現可能性が高いと感じました」 ***************************************************** 「エコx観光x電気自動車」という三つのキーワードをつなげ、電気自動車の弱点である「航続距離不足」と「車輌の価格高」を、それぞれ「沖縄本島の程よい小ささ」と「レンタカー」で克服しよう、という秀逸な構想だと思います。 ただ一般の企業の戦略策定でもそうなのですが、ここから先の二つの作業【「戦略構想の具体化作業」と「定量的リスクリターン分析」】をおろそかにすると、せっかくの構想が「構想倒れ」に終ってしまいかねないので、十分心して今後の検討を進めて行ってもらいたいと感じました。 このブログエントリーでは、「沖縄グリーンニューディール」構想を話のとっかかりにして、私が常日頃問題意識をもっている、「戦略構想だおれ」を回避するための二つの作業【「戦略構想の具体化作業」と「定量的リスクリターン分析」】について、論じてみたいと思います。少し長くなるので2回のエントリーに分け、初回の(I)では「戦略構想の具体化作業」について書き、次回の (II)で「定量的リスクリターン分析」について書いてみたいと思います。 「戦略構想の具体化作業」というのは、対象課題についての基本的なビジネスアナリシスにもとづく「わくわくドキドキ」するような戦略構想を、各関係者/関連プレーヤーそれぞれが明日から具体的にどう動いたらよいか、つまり当事者それぞれの経営資源配分とアクションにまで踏み込んだところまで具体化する、ということです。 企業の戦略策定においては、通常、次のような項目をカバーすることによって、「戦略構想の具体化作業」を行っていきます。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ①まずは関連プレイヤー、とくに顧客にとって、この戦略構想がどう嬉しいのか、つまり戦略構想で自社が顧客に提供しようとしている製品やサービスによって、「それがまだない現在の状況」に比べて、顧客の視点から見て何がどう嬉しいのか、その嬉しさ程度はどれくらいなのか、を明確にし、もしその「Before」と「After」の差があまり説得力がないようなら、それをどう補強するか、弱点をどう克服するか、という流れで戦略構想の強化を行います。 ②さらにこの戦略構想が、競合企業や競合製品・サービスに比べて競争優位性が十分あるのか、あるとしてもそれが長期的に持続性があるのかの検証と補強、弱点克服の作業が必要となります。 ③検討の目的、切り口、範囲の明確化と価値判断尺度の明確化と共有化。。。a.対象事業を伸ばす方向での検討なのか、あるいは赤字を減らして収益性の安定化をはかる方向での検討なのか、はたまた主目的はこの事業単独での収益拡大なのか、それとも顧客に対する自社のブランド訴求力を高めることにあるのか、b.対象とする市場は国内ないしアジア限定なのか、あるいは最初からグローバルに市場をとらえるのか、c.時間軸は何年くらいで考えておくのか。。。。。、そしてこれらと連動して、最適案を選択する際の価値判断尺度(複数)はどう考えるのか、といった検討です。 ④その上で、「意思決定=経営資源配分へのコミットメント」の塊(かたまり)としての戦略にまで具体化する作業が必要です。。。つまり、「事業主体は誰で(=自社単独か、誰かと組むのかetc)」「何を」「誰に」「どう売って」、「お金はどう入ってくるのか」という《ビジネスモデルの設計》と、製造・販売・開発といった事業を行う上での各機能をどう実現するのかという《ビジネスシステムの設計》を具体的に行うわけです。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 「沖縄グリーンニューディール」構想の場合は、とくに関連プレーヤーが多く、ちょっと考えただけでも、レンタカー会社、コンビニ、道の駅、自動車会社、そして県、市町村、観光協会、さらにはレンタカーを利用する観光客、また地域住民まで非常に多岐にわたります。また、これらプレイヤー相互の間には、初期の費用負担などをめぐって利害関係が必ずしも一致しないことが予想されますし、そもそも地域振興をはかる自治体にとっての嬉しさや価値判断尺度と、レンタカー会社やコンビニといった事業者にとってのそれが異なる場合があることが、状況をさらにややこしくする恐れがあります。 さらにさかのぼって言えば、電気自動車を主体としたこの構想そのものに対して、「エコx観光」だけなら「なぜ既に導入コストが下がりつつあるハイブリッドではだめなのか」とか、そもそも自治体や国のお金の使い方として「自動車でなくバイオ産業振興の方が沖縄にとって優先度が高いのではないか」という、戦略構想レベルでの競合からの疑念・反論も考えられます。 ということで、「沖縄グリーンニューディール」構想における、これからの「戦略構想の具体化作業」の難しさ・複雑さは大変なものになりそうなので、これを相当きちんとやらないと構想倒れに終わる危険性が大きいと危惧するのです。是非とも、戦略構想の秀逸さを生かしつつ、構想倒れ(&下手をすると壮大な投資の無駄とそれによる関係者の心のトラウマ)にならないよう、関係者の今後の具体化作業の中身に大いに期待するものです。 その際、今回述べた「戦略構想の具体化作業」のみならず、それに引き続く「定量的リスクリターン分析」にもしっかり取り組む必要がありますが、後者については、次回の(II)であらためて書いて行きたいと思いますので、乞うご期待!です。 |
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