戦略構想倒れにならないために(II)。。。定量的リスクリターン分析の重要性(その1) |
「戦略構想倒れにならないため」の方策として、前回の「戦略構想の具体化作業」に続いて、今回は「定量的リスクリターン分析」について書いてみたいと思います。 少し長くなりそうなので、(その1)、(その2)というように、途中で区切って書き継いで行きます。 皆さんの会社(ないし組織)では、事業戦略の策定や事業提案の場面で、ビジネスシミュレーションモデルを使ったキャッシュフローの定量計算、すなわち収益性についての「定量的リスクリターン分析」がどの程度なされていますか?(ちなみに、「ビジネスシミュレーションモデル」というのは、EXCELなどの表計算ソフトを使って毎年毎年のキャッシュフローを計算するもので、「スプレッドシートモデル」とも呼ばれています。) 私は、多くの日本企業で、定量的収益計算とそれにもとづく実践的意思決定が、非常に不十分にしかなされていないことに強い問題意識を持っています。 もちろん、意味のある定量分析・検討をするには、しっかりしたビジネスアナリシスからの「わくわくドキドキ」する戦略構想づくり、そして前回の「戦略構想倒れにならないために(I)」のブログエントリーで述べた「戦略構想の具体化作業」(ディシジョンマネジメントの言葉でいえば、「的確な課題のフレーミング」と「迷うに足る複数の戦略代替案の創造」)、といった前段の作業が重要ですし、必須です。 これらがなくて、定量分析のみ行っても、無意味、どころか有害であるのは言を待ちません。しかし、さはさりながら、それらがある程度以上できたとしても、それだけでは良い意思決定はできない、というケースは多く、ここで定量的リスクリターン分析による、収益ドライバーやリスクドライバーの把握といった作業が必須になります。 ディシジョンマネジメントの通常の研修では、受講生が、定量分析の基本となる「キャッシュフロー計算のためのスプレッドシートモデル作り」の素養はある程度持っていることを前提に話をするのですが、実際にはその経験・スキルを持っていない受講生の方が圧倒的に多く、平均的にいうと、20人の研修受講生中、せいぜい4~5人が「やったことがある」ないし「やればできると思う」という方に手を挙げる、といったところです。 そこで数年前に、ディシジョンマネジメントの研修(DMB:ディシジョンマネジメント・ベーシックス)で使っている、フレーミングと戦略代替案づくりのケース演習の続編となる「定量分析編」を、スプレッドシートモデルの初学者向けに用意しました。そして、これを使った「ディシジョンマネジメント-定量分析編」という研修を必要に応じて実施しているのですが、多くの受講生たちから、「実際に手を動かして定量分析をすることで、事業のエコノミクスの理解が格段に進むことを、あらためて実感できた」との感想をもらいます。 そのこと自体はこちらとして嬉しいのですが、日本企業における定量的リスクリターン分析への取り組み作業経験の少なさが背景となって、日本のマネジメントの方を見ていると、意外に自分達が取り組んでいる事業のエコノミクスの理解が浅いな、と感じることが多々あります。 このことは、長年同じ事業を担当していて、かつ事業環境があまり変化していない場合はそれほど問題にならないのですが、新たな事業に取り組んだり、同じ事業でも事業環境が激変した場合などには、これまでの経験にもとづく「何となく」のエコノミクスの理解では全く不十分、という事態が起こります。そしてそれが重要戦略課題について社内の深刻な意見対立に発展する原因になったりもします。こうした場面こそ、実際にキャッシュフロー計算をしたり、そこでの不確実要因の変化によりそれがどの程度変わるのか、といった検討が重要になります。 以前お手伝いしたあるメーカーでは、業績低迷で会社全体のキャッシュフローが逼迫する中、ある商品群について、顧客ニーズに合わせた仕様改善やそのために必要な設備投資を十分に行う「戦略案1」と、ともかく投資を低く抑えて必要最低限のスペックと設備にしようという「戦略案2」のどちらをとるかで、社内が二分されていました。投資額が小さくなるという「戦略案2」のメリットと、逆にそれによって顧客からの支持が得られず市場シェアが低下するかもしれないというデメリットを、不確実性も含めて定量分析したところ、市場シェア低下のデメリットがミニマム(=これ以上、このデメリットが小さくなることは、確率として10に一つくらいしかない、というくらい非常に楽観的なシナリオでの市場シェア)になった場合、すなわち「戦略案2」にとっての最も楽観的な状況でも、市場シェア低下のデメリットは投資額抑制のメリットをはるかに上回ることが明らかになりました。 そして結果的に、めでたく両派のコンセンサスをもって「戦略案1」が採択されたのですが、その際、定量分析を通じた、当該事業の基本的エコノミクスの理解の深化が、納得性の高い結論と建設的コンセンサスを生み出す源泉になったわけです。 ブログエントリーとしては文章が長くなってきたので、ここから先は次回の(その2)で書き継いで行きたいと思います。 |
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