最近、時期的に平行して走っている複数のディシジョンラボ・プログラムで、受講生の戦略策定作業の進め方について、ほぼ同様の問題意識をもったので、このブログコーナーに書いてみたいと思います。 (ちなみにディシジョンラボ・プログラムというのは: ディシジョンマネジメントの考え方を活用して、何回かのワークショップを通じて実課題に取り組み、戦略提案を練り上げトップに提言していくプログラムです。質の高い戦略提案を目指すと同時に、このプログラムを通じて、ディシジョンマネジメントを、「使えるレベル」まで身につけることを目指します。) 〈以下の内容は、実は数年前に—このブログを立ち上げる前に—私が数カ月に一度発信しているeニューズレターに載せたエッセイがもとになっています。それをお読みになったことがある方には、再掲・若干改訂版になりますが、思い出す意味でご覧いただければと思います。〉 **************************************** ディシジョンラボの現場で、ミドルの人達が戦略立案作業に取り組むのを支援・コーチングする際、頻繁に感じるのは、皆さん「自分の頭の体力」の限界をあまりにも意識しなさ過ぎる、ということです。 どういうことかというと、体の体力に限界があるように、知的作業をする上で「これ以上はキャパシティオーバーで、頭が働かなくなる」という、「頭の体力」の限界があるということです。 これを明確に認識して、常に全体観をもって戦略策定作業に取り組まないと、知的作業のアウトプットは、質・量ともに大幅に低下します。 この、よく考えると当たり前のことに気がつかずに知的作業、とりわけディスカッションやグループワークを行なっていると、次第に頭が「疲労」し、その疲労状態で効果のあがらない・効率の悪い議論を行っていることに対する「徒労」感が広がり、さらに「こんなことをしていて、期限までに説得力ある戦略が作れるんだろうか」という「焦燥」にかられる、という事態に陥ります。 もっとひどくなると、「絶望」感さえ漂い始めることにもなりかねません。 「疲労と徒労と焦燥(と絶望)」を防ぐには、つねに検討メンバー全員が全体観を持ち、自分達の頭の体力をどう使うかについて、作戦をもって臨むことが必要ですし有効です。まずは、この認識をもつことが、全ての始まりです。 とはいうものの、それを認識するだけで解決するほど、ことは簡単ではないので、その際のいくつかの実践的なコツ・ヒントを紹介してみます。 1.作業の全体像、項目分け、大まかな時間配分、出来上がり状況・アウトプットイメージを、始めに作り共有する :私がコンサルタントの仕事を始めたのは、マッキンゼー東京でしたが、その頃の東京事務所のヘッドだった大前研一さんが、当時何回か、週末に若手コンサルタントにコンサルティングの何たるかを教えてくれるセッションがありました。 その時教わったものの一つに、戦略課題に取り組む時には、まず最初に全体作業時間のマックス20%を使って、作戦を立てろ、というのがあります。作戦の中身は、今回の検討の目的とアウトプットイメージ作り、そしてそれに到達するための作業項目と、取り掛かる順番、そして大まかな時間配分を決める、というものです。 大前さんという人は、世間をあっと言わせる着想で勝負しているという印象の強い人ですが、その背景としては、こうした実践的なことも重んじる側面もありました。 私のその後のコンサルタントとしての仕事に、この「作戦作り」の教えは大いに役立ち、今でも感謝しています。 こうした実践的なことが、意外に日本の教育には欠けていて、結果として、私のお手伝いする企業のミドルの方々の戦略策定作業を見ていても、作戦なしに、いきなり、たまたま最初の人が口火を切った個別の事象の話にのめりこんで行って、泥沼にはまっているケースが多々見られます。 まずは、作戦を立てることが肝要です。 2.作戦作りの際、項目分けした各作業項目について、深入りしない程度に、それぞれの項目に関する、さわりのディスカッションをしてみること :各作業項目の妥当性を知るには、それぞれにつき、少しの時間、マックス10分以内くらいでディスカッションをして見て、これ以降の議論を続けて意味があるかどうかの「あたり」をつけるのが有効です。 この際大事なのは、これはあくまで「あたり」をつけるのが目的であって、解を出すまで深入りしない、ということです。 深入りしすぎると、全体像がつかめる前に、「疲労と徒労」が蓄積する恐れがあるからです。 3.適宜、手分け作業を入れて、各人の頭脳の体力と精神的体力を温存する :ディスカッションの中で、全体をいくつかのパートに分けて、それぞれについて中身を深めた議論をしないとならない状況が出現することがあります。 こうした時に、全員で一つづつ議論をしていくと、時間が随分とかかり、途中で「こんなことをしていて、時間内にアウトプットに到達できるんだろうか」、という「疲労と徒労と焦燥」状態に陥ること必定です。 お勧めは、このような状況では、まず、並行して議論を進めるのがふさわしい項目のリストアップを全員で行い、その後に、各人ないし各小グループごとに議論項目を割り振り、30分~1時間程度、各グループごとのディスカッションを行なった後に全体でシェアリング・ディスカッションを行なう、というものです。 この工夫で、頭脳と精神両面での頭の体力を、より有効に使うことが可能になります。。。いわゆる、昔ローマのシーザーが言ったといわれる、”Divide and Conquer” というやつです。 4.基本コンセプトの「もと」を作り上げているフェーズでは、「叩き壊す」議論はしない :戦略策定作業の中でも、最初のコンセプト(事業構想・戦略構想)を作っている段階は、各チームメンバーにとって、頭脳をフル回転させて、創造と想像をふくらませている状況です。 すなわち、あらん限りの想像力を全開して、精神的にも相当無理を重ねて、創造のための思考を発展させており、かなり「微妙な/あやうい」精神状態の中で、必死に構想を膨らませようと頑張っているのです。 このような時には、誰かが言い出した「もしかすると面白いかも・・・」という構想に対して、決してネガティブなことを言ってはならないのです。それを言った瞬間に、必死に膨らませかけた構想とそれを支える精神的高揚は、瞬く間に消え去り萎えしぼんでしまうのです。 現実のワークショップを見ていると、この微妙かつ重要な呼吸の綾を理解することなく、人が言った「面白いかもしれないが、抜けだらけ」の構想を叩き潰すような発言ばかりする人が見られます。 コンセプトを膨らませつつある時の危なっかしい精神状態の時に行なうべき発言と、ある程度構想がしっかりとしたものになってきて、そろそろ心置きなくその構想の抜けを指摘し、それを今後どう改善するかのディスカッションをするのが重要、というフレーミング以降の場面での発言を、使い分けるだけの感受性・センスのよさを持っていてもらいたいものだと思います。 5.適宜休憩を入れる :戦略立案作業というのは、この先どう展開したら解にたどり着けるのか、あるいは今の議論を進めていって本当に解が見えてくるのか、という不安の中の作業になるため、精神的にも頭脳的にも、かなりしんどい仕事です。 従って、適宜、頭と心を休ませる必要があります。 そして「かなり疲れがたまったな」と思われる時は、長めの例えば20分間くらいの休憩を入れるのが有効です。 ただしこの時も、頭を完全にオフにするのでなく、たとえば、最初の10分間はトイレ・タバコ等の完全休憩だが、後半10分間は、休みつつも「次に再開した時の進め方についてのアイデアを考える」等のアサインメントを入れておくのがコツです。 6.ファシリテーター役を決めてディスカッションを進める :議論が発散したり、グループの中で勝手にいくつかの小グループに分かれた議論が進行するのを防ぐため、「議論の進め方の仕切り役」すなわちファシリテーター役を決めることが重要です。 ファシリテーターは、ずっと同じ人がやる必要はなく、順次交替していくのが理想です。 ファシリテーター役になったときには、あくまでこれは「進め方の仕切り役」であって、「議論の中身の仕切り役」ではないことを、明確に認識することが重要です。 そのためには、議論の中身そのものにどっぷりとのめりこむのでなく、グループの構成員全体の頭の体力の有効利用には、どのようなプロセスでディスカッションを進めていくのが良いか、という発想でファシリテーションに臨むことです。 **************************************** 以上、如何だったでしょうか? 私の見るところ、「疲労と徒労と焦燥と絶望」のパターンに陥りやすいチームには、共通点があるように思います。 ①地頭(じあたま)がかなり良い人達が集まっていること。。。自分たちの頭の体力を意識しなくても、もともとの地頭の良さで、これまでは問題なく乗り切ってこれたのだと思います。 ②今まで、それほど難しい戦略課題に取り組んだことがないこと。。。これは①の裏腹になりますが、要は、幸か不幸か、これまでのビジネス経験で、それほど難しい問題に直面したり、戦略課題解決において非常に質の高いアウトプットを求められる状況に追い込まれたことがない、ということです。 ③これまで常に「自分がリーダー」、という経験ばかりの人が集まったチームであること。。。フォロアーの役割を果たした経験が少なく、従ってフォロワーとしてのスキルや役割認識に乏しいため、「船頭多くして、船、山に登る」状況に陥るのだと思います。 是非皆さんも、以上を参考に、「頭の体力」を有効利用した、「疲労と徒労と焦燥(と絶望)」の少ない戦略策定作業に取り組んでください!
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