最近お手伝いしたワークショップで感じた、「疲労と徒労と焦燥(と絶望)」の続編です。 数年前に開催された、私が講師を務めるある公開セミナーの卒業生の方が、昨年から所属企業の一つの事業部門の経営企画・戦略企画の責任者となり、今回、戦略策定の実務や戦略共有の共通言語/プラットフォームとしてディシジョンマネジメントを活用しようと、研修とそれに続くフレーミングのワークショップを数日間で実施することになったものです。 ワークショップ・セッションでは、この事業部門の製品/サービス/顧客等の切り口から、5つのチームを設定し、それぞれ部門横断的なメンバー構成で行いました。 大きな流れとしては、ビジョンステートメント⇒イシューレイジング兼アイデア出し⇒ディシジョンヒエラルキー⇒ストラテジーテーブル。。。という作業を行い、ワークショップの中間と終了時点で、役員クラスの方々にも参加いただいて、複数チームでの共有化と、その後の進め方に関するディスカッションを行いました。 今回のセッションの今後の流れとしては、各チームがワークショップでの作業を引き続きブラッシュアップし、さらに定量分析まで進めたうえで、トップも含めて部門の戦略方針としてオーソライズし共有化していくことになっています。 以上が今回のワークショップの概要・位置づけですが、ここから、このブログ記事の本題に入ります。 研修セッションからワークショップ・セッションに入るにあたって、私から、前回のブログに書いた「疲労と徒労と焦燥(と絶望)」の話もして、できるだけ建設的なディスカッションをするように助言したのですが、やはり研修セッションでの演習課題と違い、実際に自分たちが携わっている事業についてのディスカッションになると、ついつい「疲労と徒労と焦燥」モードになりがちです。 それを適宜こちらから指摘したり、進め方についての助言をしたりして、全体としては非常にプロダクティブなセッションとすることができたのですが、そうした指摘・助言をする中で、「疲労と徒労と焦燥(と絶望)」に関して、今回追加で気付いたことを読者の皆さんに紹介したいと思います。 それは、「しらふで本音を上手に出せるスキルが大事」ということです。。。 今回のワークショップでの各チームのディスカッションをサポートしていて、まず気付いたのは、ビジョンステートメントでの「Why。。。なぜ今回このような検討を行うのか?」について、本音で生々しい理由や必然性を早い段階で共有できたチームほど、その後の進み方がスムーズ&プロダクティブ、ということです。 ここの部分が、一般論的というか「きれいごと」で終わっていると、その後の議論が一般論的で盛り上がりに欠け、実質的に意味のある議論になりにくい、ということです。 そこで、「きれいごと」っぽい感じのチームsに私が助言したのは、 【Whyに関する本音を生々しく語るようにしましょう。もともとこの事業が順風満帆ですべてがうまく行っているなら、そもそもこんなワークショップは必要ないわけです。必要な状況には、次の二つの極端なケースが考えられます。 ①「わくわくドキドキ」ケース: いま、顧客・業界・技術などの観点から、極めて大きなビジネスチャンスが見えてきているが、現在の戦略の延長では、それをしっかりととらえることができない。そのための新たな戦略をつくる必要があるが、新たな戦略には大きな経営資源投入が必須であり、リスクの観点からは「思い切ってすぐにでも」というのは不安。そこでこのチャンスをどうつかんで行くか、複数の選択肢を含めた具体的な戦略検討が必要!。。。という状況 ②「はらはらドキドキ」ケース: 今この事業は残念ながら赤字である。現在の戦略の延長では、打開策は見当たらず展望が開けない。もちろん理論的には、Sunk Costに引きずられず事業撤退、ということも考えられるが、伝統ある事業だし自分たちとしても愛着があり、なんとかしたい!。。。という状況 こうした状況認識が生々しい形で共有されていないと、議論が一般論に終始したり表面的になってしまいがちです。】 (ちなみに②のケースでは、開き直っての「葬式の弔辞戦略」が有効で、そのことを今回のチームの人達にはお伝えしたのですが、また話が長くなるので、読者の方々には、あらためて別のブログ稿でご紹介したいと思います。) さらにこれに次の言葉を補足しました。 【本音を生々しく語る際に気をつけるべきは、できるだ具体的に語ることです。つまり—とくに②のケースなどでは—、「きれいごと」から一歩踏み込んで本音を語ろうとすると、ついつい「こんな私に誰がした」的な詠嘆口調になりがちです—たとえば「・・・だからうちはダメなんだ!・・・」、「・・・○○だなんて、あいつはおかしいよ!・・・」、「・・・ああまったく・・・トップがサンクコストに引きずられて思い切った決断ができないのが問題なんだ・・・」etc—。 本音を吐露するための最初の段階では、このように、鬱積した不平不満を口に出すことも有効ですが、これに終始すると、結局「飲み屋の愚痴話」で終わってしまいますし、ワークショップの雰囲気も暗く沈んだものになりがちです。 そこで、「表層的きれいごと」と「飲み屋の愚痴話」の間に、「しらふのスキルフルな生々しい本音の述懐」が必要なわけで、そのためには、一般的・詠嘆的叙述ではなく、具体的叙述を心がけてください。 たとえば、「いついつ、こういうことがあった。その原因を自分は、これこれこういうふうにみている。このあたりがうちの、とくにこういう面での弱点だと思う・・・」といった調子で、こういう具体的な生々しい事例や認識を共有すれば、それに対する冷静な反論も含めて、議論が具体的に深まって行きますから。】 もちろん私からのこうした助言だけで、ただちにディスカッションが全て順調にいくほど、ことは簡単ではありません。しかし、あるチームでは、①の「わくわくドキドキ」的な状況の課題と②の「はらはらドキドキ」的な課題を、区別せず一緒くたに詠嘆的に議論していたことが議論の深まりを妨げていたことがわかり、まずは課題を二つに分けて検討を進めることが有効、という建設的なフレーム設定、という進展が見られ、全体としても満足度の高いワークショップになりました。 。。。ということで、今回のブログ記事のメッセージは、【「疲労と徒労と焦燥(と絶望)」を防ぐための追加のコツ: 《しらふで本音を上手に出せるスキルが大事⇒「一般論的詠嘆」で終わらせず、「具体的叙述」を心がけよう!》】です。 P.S. 今回ご紹介したワークショップでは、トップ層も含めた参加者の方々から、「今回のワークショップでは、ふだんは交流が少ない開発部門も含めた横方向の共有化と、担当者から本部長・役員クラスまで含めた縦方向の共有化を本音ベースで行うことができた。また、まだ「やわらかい」状態から議論を共有し、それをディシジョンマネジメントという共通言語を使って行ったことにより、今回のワークショップが、これら関係者間での今後のやり取りのプラットホームづくりにも大いに役立った!」という嬉しいフィードバックを頂くことができ、たいへん喜んでいます。
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