評論家の田原総一郎さんが月に一度、週末の深夜に司会進行をする「朝まで生テレビ」という番組があります。 その時々の政治・社会課題を毎回一つ取り上げ、様々な立場・考えをもった識者を集めてディベートを行うのですが、これを見ていると、同じテーマでも、人によって随分も のの見方、つまりフレーム(考え方の枠組み)が違うんだなということがわかります。 そして、もう一つ、共通フレームを意識的に作らないと、議論がかみ合わず結局単なる意見交換と感情対立に終わる、ということもよくわかります。 私の勝手な見方ですが、番組そのものは、どうやら共通フレームを作って議論をかみ合わせ解決策を導き出すためのスタートとする、という意図は弱いようで、共通フレームができそうになるたびに、田原 さんがそれをぶち壊しそうな人物に発言を振って、それでまた別の観点の話題が盛り上がる、というスタイルで、参加者たちも特段それにフラストレーションを感じていないようにみえます。 知的に面白いトーク番組、として見れば、こうしたやり方で成功を収めていると言えるでしょう。 しかし、もし問題解決に衆知を結集して取り組もうとする局面なら、このよ うなやり方では埒があきません。 もっと積極的に共通フレームの設定に向けた議論の進め方をする必要があります。 たとえば数年前大いに盛り上がった、いわゆる「郵政民営化」の議論にしても、当時の小泉首相が設定した(と思われる)「郵政民営化を与件として、そこに向けてどのよう に進めていくべきか」という検討フレーム自体に、反対派は同意していなかったように見えます。 (以下、私はこの問題には全く素人で、単に新聞・雑誌・TVで見聞きした情 報にもとづく感想を、フレーミングの欠如、という視点から述べているだけです。どちらかにくみする、という立場での文章では決してありませんので、誤解なきようお願い します。念のため。) そして反対派も、そのフレーム自体に正面から異議を申し立てるよりも、むしろどのように骨抜きをするか、ということに主眼を置いていたように見えます。 本来あるべきは、例えば「郵政に関する現状の問題と、今後今の延長で行った場合に懸念される問題を、いかにして解決すべきか。郵政民営化はその一つの有力な解決施策で ある、という作業仮説があることを認識しつつ、それに限定されることなく、衆知を結集してベストな解決策を作り上げる。」というような枠組みに合意して、議論を始める ことだったように思えます。 多分そういうアプローチをとって、さらにディシジョンマネジメントの方法論を活用してビジョンステートメント、イシューレイジング、ディシジョンヒエラルキー、価値判 断基準リスト、ストラテジーテーブル、・・・とやっていたら、もっと建設的議論ができたのではないかと想像します。 その場合、戦略レベルの意思決定事項ないしチャレン ジ項目として、「郵便事業の業務効率性をどう高めるか」、「郵貯・簡保で集めたお金が、投資対効果の低い、政府関連特殊法人などの投資先に回ってしまうのをいかに防ぐ か」、といった、より本質的かつ具体的な項目が並んだのではないかと思います。 そして、郵政民営化云々は、せいぜい戦略テーマ名の一部に入るかどうか、といったレベルの位置づけになったのではないかと推測されます。つまり、「郵政に関する現状の 問題と、今後今の延長で行った場合に懸念される問題を、いかにして解決すべきか。」というフレームのもとでは、民営化の是非それ自体が重要ではなく、もう一段踏み込ん だレベルで何をやるか、の議論が大事だったのではないか、ということです。 3年程前ある大手企業のトップマネジメント・リトリート(社長・会長以下ほぼ全役員が、会社から離れたリゾート地などに一堂に会して、会社全体の戦略方向性や重要共通課 題についての情報共有・意見交換を行う、合宿形式のディスカッション)で、一泊二日でファシリテーション(議論の司会進行・促進・交通整理、また議論の進め方や視点に 関する助言)のお手伝いをしたのですが、そこでも同じような思いをもちました。 その時ディスカッションされた課題の一つに、グループ経営・ガバナンスのありかた、といったものがあり、「持ち株会社制か社内カンパニー制か」という論議があったので すが、ディスカッションを通じて参加者間で再認識されたのは、「持ち株会社制か社内カンパニー制か」という論の立て方で議論していても、一向に議論の中身が深まらず埒 があかない。 そうではなくて、むしろ、そもそもこのトピックについて議論をすべき、と考えた問題意識に立ちかえって、具体的な問題点とその解決策について議論した方が 良い、ということでした。 たとえば、「新規事業の発議やその意思決定の権限とプロセス」とか、「各事業分野ごとの社員の処遇制度をどうするか」、といったレベルで考えて行ってベストな施策を作 っていけば良い、結果的にそれを「持ち株会社制」でやるのか「社内カンパニー制」でやるのかは、むしろ二義的な問題ではないか、といったことです。 郵政民営化におきかえて言えば、「民営化推進 vs 反対」で対立するより、もう一歩突っ込んだレベルでの議論をすべきで、そうすると、もしかすると、同じ民営化推進派 の中での違いのほうが、推進派の一部と反対派の一部の人達との違いよりも大きい、ということがあったりしたのではないか、ということです。 話がすこしくどくなりましたが、言いたかったのは、共通フレームを作ることの重要性、そして議論を表層的な「○○推進 vs 反対」的なとらえ方でなく、もう一歩踏み 込んだ具体的レベルで行う、そしてそれらを(もともとの立場や意見は違うが)共通の善なる目標に向かって問題解決型に、衆知結集で性善説に立って取り組むことの重要性です。 少し楽観的に過ぎるかもしれませんが、私はディシジョンマネジメントを様々な方々に活用していただくことによって、こういったことが加速できるものと考えています。
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