戦略構想倒れにならないために(II)。。。定量的リスクリターン分析の重要性(その2) |
「戦略構想倒れにならないため」の方策としての「定量的リスクリターン分析」の(その2)です。 前回の(その1)で定量的リスクリターン分析の重要性について述べましたが、 強調しておきたいのは、その目的が、「キャッシュフローのNPVなどの収益額の数字を求めること」自体ではない、ということです。つまり、「定量分析を通じて収益ドライバーとリスクドライバーを把握し、そこから得られる洞察によって、より良い意思決定に導いて行くこと」こそが目的だということです。ここで「収益ドライバー分析」というのは、まずは全ての不確実要因についてベースケースの値(大体この程度になるのではないかという値。もう少し厳密に言うと、これ以上大きくなるか、小さくなるか、確率的に50%/50%と思われる値)を使った時に、以下の様々な分析を通じて、何が収益をドライブする、つまり左右する要因なのかを探るものです。 -各戦略案ごとに売り上げ金額やキャッシュフローが時系列的にどう推移するか? -結果としての儲かり総額(=NPV)は、中期、長期それぞれの時間軸でどの程度になるか? -セグメントごとの売り上げ金額や利益額はどうなっているか? -ライフサイクル全体でのトータル売り上げ金額に対して、変動費や固定費その他の費用の比率はどうなっているのか? -戦略案間の儲かり総額の違いは、より具体的に、どのような要因の違いに起因するのか? 一方、「リスクドライバー分析」というのは、重要と思われる不確実要因についての「トルネードチャート分析」や「戦略スイッチ分析」を通じて、何がリスクをドライブする要因か、つまり儲からなくなるようにさせる原因は何で、そのリスクのインパクトはどの程度か、といった分析を通じて洞察を抽出していくものです。 注1) トルネードチャート分析:各不確実要因につき、楽観的な読み(楽観値)と悲観的な読み(悲観値)に値を変えて、収益性指標であるNPVなどがどう変化するかの感度分析を行い、その結果を図示したもの。図示した形が竜巻(=トルネード)の形に似ているため、トルネードチャートと呼ばれています。 注2) 戦略スイッチ分析:複数の選択肢についての感度分析の結果を一覧表の形に整理し、様々な不確実要因の動きにより最適選択肢のスイッチ(変更)が起こるか否かを分析し、起こる場合はどのような不確実要因がそれを引き起こすかを明らかにする分析手法。これにより、最初に設定した選択肢をさらに改善するためのヒントがえられます。 「収益ドライバー分析」と「リスクドライバー分析」を通じて、最初に設定した戦略案をさらに改善することにより、より納得性のある、リスクへの目配りの効いた最終的な戦略案を、関係者の衆知を集めて作り上げ、建設的コンセンサスにもとづく意思決定を行うことが可能になります。 日本企業で「定量的リスクリターン分析」が重要視されないことの背景には、まず「妥当な落としどころ」を決め、「この解で良いんだ」ということをあとづける理由の一つとして「念のため定量計算もやってみましたが大丈夫でした」という形で定量分析が行われている、ということがあるのではないかと思います。 このような「結論ありき」の定量計算では、ほとんどの要因について、「妥当な落としどころ」をサポートするように「テキトー」に(=つまり「的確」の意味での「適当」ではない)数値が設定されるため、もっと極端な言い方をすれば「結論から逆算して数値を設定する」ケースが多いため、計算結果の数字について、そもそも議論する意味が最初からほとんどない、ということになります。提案をうけるトップマネジメント側も、自分達が若い頃そうやって「数字をテキトーに作った」経験があるので、「どうせ今回の数字も、ミドルがテキトーに結論に合わせて作ったのだろう」と考え、本質的な「収益ドライバー」や「リスクドライバー」に関する議論を行わない、という実に嘆かわしい状況に立ち至る、というわけです。 また、それによって、様々な要因について社内にある多くの知識・知恵が、不確実性の読み、つまり「主観的確率」の読みに反映されず、また「主観的確率を正直ベースで知的に(=インテリジェントに)読む」ために真正面から真剣に調べアセスメントする態度もスキルも養成されない、という事態につながってきます。 以上、少し批判的に書きすぎた感がありますが、これを他山の石として、「正直ベースの主観的確率」とそれにもとづく「定量的収益計算」による「収益ドライバー分析」、「リスクドライバー分析」からの洞察出し、そして「より良い戦略づくりと衆知の意思決定」に取り組んで頂きたいと願っています。 もう少し書きたいことがあるのですが、だいぶ長くなってきたので、次回もう一回、(その3)として書くことにします。 |
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