前回のブログで、いろいろあるが、やはり企業の意思決定における第1測定尺度は、以下の7点を考慮した上での「NPV(キャッシュフローの正味現在価値=Net Present Value)」を使うのが妥当でしょう、と言いました。 ************************************************ 〇コスト計算の際の従業員の人件費については、その事業を行う際に、企業の重要ステークホルダーとして、尊敬すべき仲間として必要最低限の賃金や福利厚生を織り込んだ金額とする。。。「必要最低限」のニュアンスの中にミッション・ビジョンが反映されるはずです。 〇原材料・部品の仕入れコストや外注費についても、同様に「尊敬すべきステークホルダー」への敬意を必要最低限込めた金額を設定する 〇税金についても、無駄に支払うことはないまでも、企業市民としての相応の分はキチンと算入する。。。ただし、長期的には、正当な(=自社のミッション・ビジョンに照らして胸を張って要求できると考える)税制改善は要求する。 〇株主資本コストについては、自社の展開する事業領域や地域展開の実態を反映した、チャレンジングではあるが無理のないレベルを設定する。。。このことを株主・投資家に丁寧に継続的に発信していくことが重要です。 (なお、ご存知のようにキャッシュフローのNPVは「お金の持つ時間的価値を反映させた、累積の差引き儲かり総額」です。そして、その計算に使う割引率(=資本調達コスト)の中に、銀行へ支払う金利と、株主への(金利としての)株主資本コストも含まれますので、銀行と株主という二つのステークホルダーへの山分け費目の要素も、きちんと反映されていることになります。) 〇これらを反映させたうえでのキャッシュフローのNPVを比較検討した上で、基本的にはより大きいNPVをもたらす可能性の高い選択肢を選ぶ、という考え方で意思決定して行く。 〇ただし、NPVの測定期間が短すぎず長すぎないように。。。2つくらいの時間軸でのNPV測定が有効でしょう。 〇縮小均衡的にならず、上の5つのステークホルダー全体にとっての取り分を増やす方向での企業経営となるよう、第2測定尺度として、累積売上高を持ってくる。5%やそこらのNPVの違いなら、累積売上高が2倍の戦略を選ぶ——その方が、より多くの顧客満足を生み出し、また従業員の雇用や取引先の仕事の創出に貢献する、という意味で、企業としてのミッション・ビジョンに照らして、よりふさわしい——、という発想はあっても良いと思います。 ************************************************ その後、いろいろなことを見聞きしつつ、ふと「本当にNPV最大化で良いのだろうか?」という疑問がわいてきました。というのは。。。 上記の7点(とくに最初の4点)を満たすことは、企業を取り巻く「株主」「銀行」「取引先」「従業員」「政府/自治体」という5つの主たるステークホルダーを(少なくとも最低限は)満足させることになります。だとすると、それ以上の儲けであるNPVを最大化するのは、何故なんだろう?、むしろその分は価格を下げたり製品・サービスの質の向上をはかるなどして、上記5つのステークホルダーに報いる原資を出してくれている顧客に還元すべきではないのか?という疑問です。。。この発想が、ビジネスの現実の厳しさを無視した、かなりナイーブ(=ものを知らない/うぶ)な議論に聞こえることは十分承知の上なのですが、もう少しだけお付き合いください。 あるいは、第2測定尺度である「売上高」の長期的な累積値を(それが、企業としての設立・存続の理由たるミッションやビジョンの、そこそこ良い代替指標なり近似値であると考えて)最大化するように、5つのステークホルダー間で(とくに、従業員、取引先、株主の間で)余剰NPVを配分する、という考え方もあるかと思います。。。時々聞く話としては、長期的に安定的かつ高品質の部品を供給してもらうために、初期段階では、取引先企業が企業体力をつけられるよう、購買価格を高めに設定したり長期安定契約を結ぶ、という方策がとられたりするケースがあります。 以上のように考えると、企業全体としてのNPVは長期的にはプラスマイナス・ゼロでも(つまりマイナスでさえなければ)良いのではないか、という発想もあるかも、という考察です。 勿論これだと—–既存事業の成長のための研究開発投資については、通常のNPV計算の中に入ってきているはずなので、ここでは気にしないことにするにしても—–、1.今現在は全く視野に入っていない新たな事業機会が将来見えてきたときに、そこに投資するための原資が作れない、2.様々な事業環境の変化で事業業績が悪化した時に倒産せずに持ちこたえるための蓄えが作れないといった問題が出てきます。 (理屈としては、そうしたことが起こったら、その都度都度に、理由を明らかにして妥当性を訴えて、株主や銀行から資金を調達するというやり方も無くはありませんが、危なっかしくて実際的にはまず使えないアプローチでしょう。) ならば「NPV>=一定額の将来への備え額(絶対値で設定するか、想定される今後の長期的累積売上金額x一定比率(10%~20%???)で設定)」を制約条件とした上で、売上高を第1指標とする、というのも考えられるかなと思いました。 。。。多分、幸か不幸か、今時点では、これ以上の考察や議論は不要なのでしょう。 というのは、激しい競争や、技術革新をはじめとする事業環境の激変の中では、「NPV最大化」魂をギラギラさせて取り組んでも、それでようやくNPVがマイナスになるのを何とか回避し続けて行ける、というのが経営の実態でしょうから。 以上、あまりはっきりした結論のない議論でしたが、前回記事の追加考察を載せてみました。 読者の皆さんからの感想・フィードバックを期待しています!
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