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読後独語：「デフレの真犯人～脱ROE[株主資本利益率]革命で甦る日本～」（北野一著）を読んで。。。企業の意思決定の際の価値判断尺度をどうすべきか、考えさせられました

カテゴリー: エッセイ・論説 2013 年 3 月 10 日 コメント(0)

「デフレの真犯人　～脱ROE[株主資本利益率]革命で甦る日本～」（北野一著；講談社刊）という本を読んで、企業の意思決定の際の価値判断尺度をどうすべきかについて、考えさせられました。

著者の北野一という人は現在、JPモルガン証券のチーフストラテジストで、村上龍氏のJMM(Japan Mail Media)で、経済問題についてコラムを書いている人の一人ですが、この本のことが、そのコラムに出ていたので、だいぶ遅ればせながら購入して、つい数日前に読み終えました。

私なりにこの本の主旨をピックアップすると、以下のような感じです。。。一部もしかすると正確に解釈できていないところがあったり、私の勝手な解釈もかなり入っていますが、その点は私のブログの中での記載、ということでご容赦ください。

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〇長引くデフレの真の原因は何かについて様々なことが言われているが、著者の見るところ、日本企業が90年代後半から盛んに使うようになったROE（Rerurn on Equity：株主資本利益率ないし自己資本利益率）ではないか？！

〇成熟し人口も増えない日本市場を中心として活動する日本企業にとって、売り上げを伸ばすことは簡単なことではない。その中で高い（アメリカを中心とするグローバル標準レベルの）ROE—要は荒っぽく言えば利益—を要求された経営者が手っ取り早く手を付け短期的に成果を上げられるのは、従業員の人件費を削るリストラ（人数を減らしたり、給料を下げたりする）、取引先（原材料の納入業者やサービスの外注先）への原価低減要求、銀行への利払い減免、政府への税金低減要求ということになる。

〇こうした中で利益レベルを上げていくのだが、「利益」というのは、要は株主への「金利」！。。。利益というと神聖不可侵のものに思えるかもしれないが、企業としてのミッション・ビジョンに基づいて顧客に対して製品・サービスを提供することに対する正当なる見返りとして得られる「売り上げ」を、5つのステークホルダーで山分けする費目のうちの一つにすぎない。

〇5つのステークホルダー（と山分け費目）とは、「取引先企業（売り上げ原価）」「従業員（販管費を含む人件費）」「銀行（営業外費用としての金利）」「政府（法人税等。。。道路などのインフラを整備し、治安を守ってくれていることへの対価として）」「株主（純利益。。。資金を提供してくれたことに対する見返りとして）」。。。「会社は株主のもの」という発想でなく、企業のミッション・ビジョンを達成するための活動資金を出してくれる「金の出し元の一つ」と考えれば、株主への配分である「利益」は、一種の「金利」と考えてしかるべきではないか？！

〇一昔前の日本企業は、企業間での株の持合いもあって、株主資本に対する利益率（すなわち金利）としてのROEの概念すら知らず、具体的には限りなくROE=ゼロに近いレベルで経営をしていた、にもかかわらず—というか実はそれゆえに？！—実際のROEは高かった。

〇しかし、これがバブル時代の野放図な投資につながり、それへの反省からROE（正確には、株主が期待するであろうと、経営者が想定する「期待ROE」）を強く意識した経営になったのだが、それが行きすぎて、まわりまわってデフレをもたらし、結果として逆に実際のROEの低下を招いている。

〇なぜまわりまわってデフレになるかというと、1社だけならまだしも、あらゆる会社がROE改善に走り、必要以上に下請け企業に値下げを要求し、従業員に賃下げを求めると（その極限はリストラ）、「誰かの支出は別の誰かの所得である」という事実によって、いわゆる「合成の誤謬」を招く—みんなの給料が縮小循環に入っていく—からである。

〇「（株主に）期待（されると、経営者が想定する）ROE」の上昇は、株主資本コストを上げ、それは資金調達コスト（WACC：Weighted Average of Cost of Capital)の上昇につながり、たとえばキャッシュフローのNPV（Net Present Value：正味現在価値）の計算において、NPVの値が小さくなることにつながり、—-またはIRR(Internal Rate of Return：内部収益率)のハードルレートを上げることになり—–、結果的に投資案件の絞り込み、つまり高い「期待ROE」に応えられるだけの案件がなければ、投資をあきらめざるを得なくなり、企業成長・売り上げ増大を阻害してしまう。。。結果として、内部留保の増大—すなわち株主資本増大—を招き、これが更なる利益創出を経営者に迫り。。。といった自縄自縛のサイクルを招く。

〇国や市場が違っていても、お金の流れや株主行動のグローバル化により、「期待ROE」は高い方—この場合はアメリカを想定—に収斂するので、もともと相対的に低いROEしか期待できない—すでに社会インフラも整い、人々の基本的物品要求も一通りは満たされている—成熟経済かつ人口減少の日本にベースを置く日本企業に対しても、株主の代弁者としての（とくに外国人）投資家は高いROEを要求する。。。このことが上のメカニズムを通じて、却って実際に達成されるROEの低下を招く

〇以上のメカニズムがデフレの真犯人。資金調達コストを構成する二つの要素——銀行を中心とする間接金融の金利と、株主資本コスト——のうちの一つである金利がいくら下がっても（今はほぼゼロ）、一方の株主資本コスト=ROEが高い水準にあるかぎり、実質的な「超金融引き締め」となっており、だからその必然の帰結としてデフレが起こっている、とみることができる

〇打開策は二つ。一つ目は、経営者にとって目の前にいる投資家は、「真の株主」の代弁者の体裁は取っていても、真の株主ならこう要求するであろう、という本筋を外している場合も多い。その時には、彼らに対して「より広い視野で見ると、ROEの向上を声高に要求するのは、合成の誤謬によって、結果的に逆効果になるんですよ！」という正当な反論をする。

〇二つ目は、経営目標を「ROE」ではなく「売上高」にすること。「ROE」重視とは、「ピザを8つに切るより、4つに切った方が大きくなる」という経済思想。そうなると食べられなくなる人が出てくるかもしれない。一方、「売上高」重視とは、「ピザを大きくしてから切った方が、取り分も増えるだろう」という経済思想。

〇どちらが簡単かと言えば、将来のことを考えないなら、ROE重視の方が簡単。2期4年程度が一般的な在任期間の短い日本の経営者にとっては、下請け企業に値下げを要求し、従業員の賃金を抑え、金融緩和と減税を訴え続ければ、ROEの改善を実現できる。すなわち、株主の取り分を増やすことができる。

〇ヘンリー・フォードは、1908年の発売当時、高価であったT型フォードを普及させるために、すなわち売上高を増やすために、従業員の賃金を引き上げた。その甲斐もあってか、T型フォードは爆発的に売れた。今の日本は、株主の取り分を増やすために、従業員の賃金を抑制しては、経済が縮小している。フォードの逆を行っている。

〇以上を踏まえると、声高に高ROEを求める投資家がいないことが、多くのオーナー型企業（：株主=経営者）の現状での好業績につながっているのではないか？！

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私の独断と偏見の解釈も入っているかと思いますが、読者の皆さんは、如何お感じになったでしょうか？
私としては、個別企業の経営への意味合いという観点で、二つのことを感じ＆考えました。

１．とかく短期的ROE改善を要求しがちな投資家に対して、より長期的な視点で自社のミッション・ビジョンと具体的戦略をきちんとコミュニケーションし、それに賛同してもらう投資家や株主を増やしていく。理想的には、そうした発信にポジティブな人達だけに株主になってもらう。

２．実際の具体的戦略課題の意思決定についての価値判断尺度をどうするか？
著者の北野さんは「売上高」と言っていますが、実際には赤字になっては企業として存続できませんから、売上高そのものを第一測定尺度にするわけにはいかないと思います。

今時点での私の考えは、やはり基本的には第1測定尺度はキャシュフローのNPVだと思います。ただし以下のポイントに留意すべきだと思います。

〇コスト計算の際の従業員の人件費については、その事業を行う際に、企業の重要ステークホルダーとして、尊敬すべき仲間として必要最低限の賃金や福利厚生を織り込んだ金額とする。。。「必要最低限」のニュアンスの中にミッション・ビジョンが反映されるはずです。

〇原材料・部品の仕入れコストや外注費についても、同様に「尊敬すべきステークホルダー」への敬意を必要最低限込めた金額を設定する

〇税金についても、無駄に支払うことはないまでも、企業市民としての相応の分はキチンと算入する。。。ただし、長期的には、正当な（=自社のミッション・ビジョンに照らして胸を張って要求できると考える）税制改善は要求する。

〇株主資本コストについては、自社の展開する事業領域や地域展開の実態を反映した、チャレンジングではあるが無理のないレベルを設定する。。。このことを株主・投資家に丁寧に継続的に発信していくことが重要です。

（なお、ご存知のようにキャッシュフローのNPVは「お金の持つ時間的価値を反映させた、累積の差引き儲かり総額」です。そして、その計算に使う割引率(=資本調達コスト）の中に、銀行へ支払う金利と、株主への（金利としての）株主資本コストも含まれますので、銀行と株主という二つのステークホルダーへの山分け費目の要素も、きちんと反映されていることになります。）

〇これらを反映させたうえでのキャッシュフローのNPVを比較検討した上で、基本的にはより大きいNPVをもたらす可能性の高い選択肢を選ぶ、という考え方で意思決定して行く。

〇ただし、NPVの測定期間が短すぎず長すぎないように。。。2つくらいの時間軸でのNPV測定が有効でしょう。

〇縮小均衡的にならず、上の5つのステークホルダー全体にとっての取り分を増やす方向での企業経営となるよう、第2測定尺度として、累積売上高を持ってくる。5%やそこらのNPVの違いなら、累積売上高が2倍の戦略を選ぶ——その方が、より多くの顧客満足を生み出し、また従業員の雇用や取引先の仕事の創出に貢献する、という意味で、企業としてのミッション・ビジョンに照らして、よりふさわしい——、という発想はあっても良いと思います。

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