「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。~コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする~」(カレン・フェラン著)という本を読みました。 タイトルは過剰に刺激的ですが、内容はとても真っ当でした。そして、真っ当でない言説が世の中にあふれ、もてはやされている今の状況においては、この人の主張内容はむしろ刺激的なのかもしれません。言っている内容の大半に「その通り!」とうなずいたのですが、印象的なフレーズをピックアップしてみます。 ******************************************************** 〇・・・・・本書の要点は従来のビジネスの常識の誤りを暴くことであり・・・・・私の提案は、役に立たない経営理論に頼るのはもうやめて、代わりにどうするかということだ。ともかく大事なのは、モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる。 〇なにも、私に解決策があるなどと豪語するつもりはない。けれどもまちがっているのがわかり切っている経営手法を試すより、少しでも効果のありそうなことを試そうと言いたいのだ・・・・・この本はどんな本かと訊かれたら、まさに当たり前のことを書いた本だと言いたい。 〇・・・・・戦略策定の実行における問題は、戦略策定は、今後の経済状況や、業界の変化や、競合他社の動向や、顧客のニーズを予想できることが前提となっている点だ。しかし、そんなことがまともにできる人間はいない。・・・・・将来を予測するのが仕事の世界的な経済学者にしても、2008年に起きたリーマンショックを予測した者は皆無に等しかった。 〇にもかかわらず、将来を予測し、将来の事業構想にしたがって計画を実行に移すのが、ビジネスのベストプラクティスとして、企業が成功するために必要なこととされているのだ。 〇・・・・このような経験から、私は経営改革手法はあくまでもガイドラインとして、あるいは各自の判断で用いるべきツールだと考えるようになった。 〇・・・・・「数値目標」が組織を振り回す・・・・・何もかもつねに「数値化」される・・・・・バランススコアカード・・・・・なぜ目標を達成して「赤字」になるのか?・・・・・達成のために「評価基準」を変えてしまう・・・・「会計」や「財務報告」は細工しほうだい・・・・・評価項目が無限に増えていく・・・・・その目標が「判断力」を奪う・・・・・「測定可能な目標」が弊害を起こす 〇評価指標についてしっかりとわきまえておくべきなのは、指標は手段であって目的ではないこと・・・・・インセンティブ制度に評価基準を絡めて懲罰的な効果を持たせると、評価制度そのものが目的になってしまうのだ・・・・・そのことを最もわかりやすく説明するために、減量の例を使おう。「痩せなければ」と切実に思ったことのある人は多いはずだ。それでは、①「半年で10キロやせる」という目標と、②「体力をつけ、心身の健康状態を改善する」という2つの目標を比べてみよう。 〇・・・・・ビジネスでは、①の期限と目標数値を定めた測定可能な目標を選ぶだろう。けれどもこの目標は、健康上のあらゆる問題に発展するおそれがある。目標達成のために食事制限ができたとしても、おそらくはリバウンド効果で体重は戻ってしまう。運動はどうかといえば、筋肉がつくせいで体重が増えるおそれがある—–筋肉の方が脂肪より重いからだ。 〇5カ月経っても目標体重にちっとも近づいていなければ、食べる量を極端に減らしてしまうかもしれない。だがそんなことをすれば体の代謝作用が悪化し、さらに太りやすくなってしまう。 〇・・・・・いっぽう、②の「体力をつけ、心身の健康状態を改善する」という目標には、さまざまな指標を用いることができる—–体重、服のサイズ、肥満度指数(BMI)、走った距離・・・・・など、進捗を確認できるものはいろいろある。この目標は、無茶をして健康を犠牲にしてしまったら達成できない。 〇ところが多くの企業は短期的な目標を達成しようとして、そのような暴挙に出てしまうのだ。しかし、②の目標が目指すのは、長期的なライフスタイルの変化である。この目標の何よりも素晴らしいところは、期限もなく、いつまでたっても達成できないことだ。努力はずっと継続しなければならない。終わりなどないのだ!たゆまぬ改善というのはそういうものである。 〇・・・・・最も腑に落ちないのは、マーケットシェアや収益その他の財務指標において、数値化した利益の実現を掲げて発表している企業の経営計画だ。経営陣も株主も実際にそんなことを望んでいるのだろうか?本当は、長期にわたって存続できる、活力ある健全な企業にしたいと望んでいるのではないだろうか? 〇評価基準は洞察を得たり、知識を高めたりするのには役立つが、目標になってはならない。さもないとそれ自体がマネジメントのシステムになってしまう。・・・・・指標スコアカードは自動車のダッシュボードと同じ。ダッシュボードだけ見て道路を見なければ、衝突してしまう。 〇・・・・・リーダーになれる「チェックリスト」なんてない・・・・・この章では、「リーダーシップ」と「マネジメント」を同義語として用いることとする。もちろんリーダーシップの専門家(それともマネジメントの専門家というべきか)のなかには、この2つをはっきりと区別している人がいるのはわかっている。 〇しかし、優れたマネージャーにならずして、どうして優れたリーダーになれるのか、私にはさっぱり理解できない。マネージャーとして成功しなかった人がどうしてリーダーの座を獲得できるというのだろうか?部下をインスパイアし、やる気にさせる方法を知らない人が、どうして優れたマネージャーになれるだろうか? 〇リーダーをトップに押し上げるのは、何が何でも成功してやる、というやる気や意志だ・・・・ナルシシスト型のリーダーは・・・・・自己実現型は・・・・・ビジョナリー型は・・・・何らかの原動力があるからこそ、苦労をものともせず、目標に向かってたゆまぬ努力を続け、周囲の人びとをインスパイアしてついてこさせることができる。そのような原動力が内的なものか外的なものか、利他的か利己的なものかは関係ない。 〇何でも得意になろうとして「凡庸」になる・・・・・コンピテンシー開発は、たとえよいアイデアに見えても、大規模に行った場合には社員の標準化にしかならない・・・・・優れたリーダーになるためにはどんなコンピテンシーが必要なのか、実際のところ誰にもわかっていない。 〇では、どうすれば会社の将来のリーダーを見出し、その才能を伸ばすことができるだろうか?・・・・・「やる気」「情熱」「ひたむきな追求」「野心」「崇高な目的に対する使命感」など、表現は何であれリーダーになる人には、必ず成功するんだ、という強い意志がある。・・・・・そういう人間は職場でも際だっているだろう-----仕事をきっちりやり遂げ、積極的にチームを率いる人や、目立つ存在でみんなから頼りにされている人。そういう人間がいるはずだ。 〇・・・・・「まやかしの専門用語」をやめる・・・・・「効率性の向上」はすなわち、社員のクビを切ることを意味する。「リストラクチャリング」はさらに多くのクビを切ることを指す。問題をありのままに表現しない限り、問題を完全に理解したり、適切な対応を取ったりすることはできない。 〇・・・・・加えてなくすべきなのは、「とにかく最終収益を確保せよ」や「株主価値を最大化せよ」といったスローガンだ。・・・・・ただやみくもに減量するのと「体力をつけ、心身の健康状態を改善する」のとでは大きな違いがあると説明したが、それと同じで、我々の本当の望みはそんなスローガンを実現することではないはずだ。 〇我々が本当に望んでいるのは、「健全な会社をつくり、その成長を維持すること」である。・・・・・健全な企業には、健全な環境で健全な関係を築く、健全な人びとによる健全な組織が必要なのだ。本当に望んでいることをわざとわかりにくくするするような言葉遣いは、ビジネスの世界特有の風土病であり、これは本当にやめる必要がある。 〇・・・・・コンサルタントを雇うのはパーソナルトレーナーや栄養士を雇うのと似て・・・・・クライアントが最もやってはいけないことは、コンサルタントを雇って、自分たちの代わりに考えさせることだ。コンサルタントは分析や提言を行い、さまざまな分野の知識を提供し、状況に対する新しい見方を示すことはできるが、企業の成功や失敗のカギを握るのは経営陣であるべきで、外部のアドバイザー任せにするべきではない。 〇・・・・・本書を読んでくださった読者のみなさんに覚えておいていただきたいことはただひとつ。メソッドやベストプラクティスやビジネスソリューションを実行するまえに、それを実行したらどのような影響が出るかについて、あらかじめよく考えることだ。他社がやっているからといって、それを実行することが正しいとは限らない。・・・・・ドグマを鵜呑みにせず、自分たちのやろうとしていることがどんな結果をもたらすか、しっかりと考えること。 〇白紙の状態からスタートするのが不安なのは、私にもわかる。たしかに不安なことにはちがいない。しかし、あなたの周りにいる人たちと素晴らしいチームを作り上げれば、きっと道は開けるはずだ。問題を起こすのも人間なら、それを解決できるのも人間。実に単純明快ではないか。 ******************************************************** ちょっと引用がしつこかったのですが、私の感じたこと、そして言いたいことをまとめてみます。 1.「いわゆるビジネスの常識とかベストプラクティスとか経営理論などと呼ばれているものの大半—戦略計画、目標管理、スコアカード、リーダーシップvsマネジメント、コンピテンシーモデル etc—–は役立たないし、それどころか有害である」という著者の主張には、ほぼもろ手を挙げて賛同です。 私がもともと「実際、本当にそうなの?インチキ臭いな!なんか実務の現場感覚から見て違うと思う。。。」と感じていたことを、「小気味よくぶった切ってくれた」感があります。かつ、それを著者の実務経験をベースに語っているところに説得力があり、私も実務経験に照らして共感しました。 2.これら嘘くさいベストプラクティスに代わる著者の主張は、「実務を担う人たちのチームワーキングの有効性」「その人たちの性善・性賢は信じるに足る」「健全なる常識への信頼」「人間のやり遂げる意志—私=籠屋の言葉でいえば、PassionとPleasure!—が極めて重要であること」と「それらに反する非人間的な、しかし企業で実際に行われている理不尽なやり方をやめよう!」ということかと思います。 まさに私がディシジョンマネジメント—とりわけ二つの部門横断的チーム(ディシジョンボードとプロジェクトチーム)によるワークショッププロセス—を通じて実現しようとしていることと完全に軌を一にしていると感じました。 とりわけ最後の「理不尽なやり方をやめよう!」の部分は、まさに先のブログで述べた「遺言戦略」(=会社やこの世を去る際に是非とも言い残したい「遺言」を、遺言として言う必要が無い会社や組織にしましょう!、という提案)と同期していると思います。 3.ただし著者の主張にほぼ全面的に賛同した上で、著者の主張の弱点は、「で、どうする!?」の部分だと思います。そして、ここにディシジョンマネジメントの3つの典型的な有効性があると考えます。 (1)経営資源配分の意思決定をベースとして具体的なアクションから切り込んでいくこと: -戦略的マネジメントにおいては、いくら目標数値を細分化して行っても、具体的にそのために何をどう、どんな種類と量の経営資源を使ってアクションするか、が明確にされなければ、実務として役には立たないからです。 -オペレーションマネジメントの場合は、現状の仕事の延長ですから、目標数値が設定されればそれをどう実現するかは、それほどの知恵を絞らなくてもおのずと見えるため、「目標数値細分化/ブレークダウンと管理と動機付け」でほぼ済みます。 -しかし戦略的課題の場合は、そもそも現状の仕事やビジネスモデルの延長では済まないからこそ、戦略課題として浮かび上がっているのですから、「目標数値設定-driven」でことが済むはずはないのです。 -つまりは「目標数値設定-driven」ではなく「経営資源配分-driven」で切り込んで行くことが重要なのです。「経営資源配分-driven」においては、「目標数値」はあくまで進捗確認のための目安であって、決して目標そのものではないのです。 (2)不確実性への正面からのアプローチ: -この本の著者は、戦略策定における未来予測の困難さを踏まえて、多大な労力をかけた戦略計画策定作業のむなしさを語っています。それはその通りで、私も多くの企業で行われている「中期経営計画」づくり作業の無駄を指摘しその改善を唱えています。 -しかし私の考えは、戦略策定作業そのものが有効ではない、ということでは決してありません。予測作業において不確実性を認識せず、あたかも不確実性が全く存在しない前提で無意味に緻密に計画を練ることの無意味さを言っているのであって、戦略策定という行為そのものを否定しているわけではありません。 -私の主張は、戦略策定のなかで、厳然と存在する多くの不確実性をきちんと認識し、それを踏まえた戦略策定を行いましょう、ということです。 -そしてその認識の中で、中期経営計画における無駄な数値の詰めをやめましょう、その浮いた時間を、(3)の新たな戦略的マネジメントのスキームの中で活かしましょう、ということです。 (3)戦略的マネジメントにおける「戦略アジェンダ設定」と「個別課題への取り組み」: -何回か前のブログ記事に書いた、IBMのDeep Diveプロセスが1つの典型ですが、戦略的マネジメントにおいて、 -そもそもどんな課題(機会ないし脅威)があるのかのリスト(=戦略アジェンダ)を常にアップデートし、 -そして課題のそれぞれについて上記の(1)と(2)を活用した戦略策定をし、実行に移す、 -かつ、こうした作業をワークショッププロセスと協働作業精神(=チームワーキング、性善・性賢、人間の持つやり遂げる意志、への信頼)に則って進めていく ということで、私としては、この本を手に取った時の「これもまた、結構あざとい本かな?!」という懸念は払しょくされ、まさに私が常日頃感じていることを「よくぞ言ってくれた!」と感じています。 読者の中の企業経営トップや経営企画/事業企画、また人事や人材開発の方々には、ぜひこの本を問題提起として受け止め、この本の中でぶった切られた「嘘にまみれたベストプラクティスの数々」を、反面教師として参考にしてもらいたいと思います。 その上で、「で、どうする?!」の段階でディシジョンマネジメントを大いに活用していただきたいと願っています。
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