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世の中の「流行りのビジネスモデル」に流されることなく、自分の頭と心で、自社の「好きx得意x喜ばれる」から発想しよう！。。。セイコーエプソンの戦略に思う

カテゴリー: エッセイ・論説 2014 年 6 月 29 日 コメント(0)

少し前になりますが、日経ビジネスの記事に「セイコーエプソン　垂直統合にこだわる」という記事がありました。要約すると、以下のサブタイトルのようになります。曰く：「基幹部品から最終商品まで一貫して手掛ける垂直統合型モデルへの回帰を目指す。最終商品の競争力を高める、独創性の高い部品を開発するため、組織改革を断行した。業界の逆を行く戦略は、ウェアラブル端末市場を中心に、着実に成果を生み出しつつある。」

記事の中から、興味深く感じた叙述を幾つか抜粋してみます。

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自社で開発した基幹部品を、自社の最終商品に搭載して販売する—–。日本のエレクトロニクス産業は戦後一貫して、そんな「垂直統合型」のビジネスモデルで成長してきた。その流れが変わったのは、2000年以降。多くの企業がこぞって「垂直統合」を放棄し、最終製品でなく部品を外販することを模索し始めた。

背景にあるのが、部品のコモディティ（汎用品）化だ。・・・・・「水平分業型」の事業モデルが可能になり、多くの日本メーカーが苦戦を強いられるようになった。その代表が薄型テレビ事業で、今や「垂直統合を維持して、最終製品を作り続けても儲からない」という考えは、電機業界の常識となりつつある。

だが、セイコーエプソンの経営トップである碓井稔社長は、こうした流れを真っ向から否定する。「メーカーが利益を最大化するには、やはり自社で価格を決定できる最終製品を扱うしかない。むしろ部品の外販こそ儲からないビジネスだ」・・・・・部品の価格は供給メーカーの一存では決められない。「2社供給になれば、どんな優れた部品でも、価格競争にならざるを得ない」（碓井社長）。・・・・・だが、圧倒的に独自性のある部品を自社開発し、それを核に最終商品を作るとなれば話は別だ。「垂直統合型は再び、（水平分業型や部品外販型以上に）高収益なビジネスモデルに変わる」と碓井社長は語る。実際、エプソンは碓井社長が就任した2008年6月以降、「圧倒的に強いデバイスと、それを搭載した独自商品の開発」にひたすら取り組んできた。

・・・・・こうした一連の新商品を生み出したのが、2009年末に発足したウェアラブル端末開発の社長直轄プロジェクトだ。これまでは、部品の開発部隊と最終商品の設計部隊は独立して動いていたことが多かった。だが、それでは、部品部門が独創的なデバイスを開発してもなかなか商品化が進まない。そこで事業部の壁を取り払い、ウェアラブル機器については部品開発から商品設計まで一貫して手掛ける、総勢70人を超える精鋭部隊を結成した。

【部品外販事業の苦い記憶】

・・・・・今でこそ、業界の流れと逆行して垂直統合へと舵を切るエプソンも、2000年当時は、部品の外販事業を主力事業の一つに据えていた。その筆頭がスマホや携帯電話に使われる中小型液晶事業だ。世界最大の携帯電話メーカーだったフィンランド・ノキアから大量受注を勝ち取り、2004年3月期には中小型液晶を含む部品事業の営業利益が約406億円に到達。エプソン全体の利益の5割以上を占めるまでに成長した。だが、薄型テレビ向け液晶ディスプレー同様、携帯電話向けの液晶もその後、急速に単価が下落。旧三洋電機との共同出資会社を設立するなど構造改革を進めたものの回復には至らなかった。「かつてエプソンが経験した失敗と同じだった」。碓井社長は、中小型液晶の外販をこう総括する。かつての失敗とは、腕時計向けクオーツ（水晶振動子）の外販のことだ。

・・・・・だが、クオーツの外販は「両刃の剣」だった。機械式時計に対抗するため基本特許を公開した影響もあり低価格化が加速した。かつて45万円だったクオーツ式腕時計の価格は、今や1000円以下でも販売されている。

・・・・・「垂直統合型」への流れを不可逆的なものにするため、エプソンはここ数年、開発体制の強化とは別の取り組みも進めている。強い最終製品に結びつきそうもない部品事業の縮小だ。

・・・・・電機業界の流れに逆行する独自の戦略は、今のところ、成果を上げつつある。・・・・・精度の高い部品を手掛けるエプソンには今も、「部品を売ってほしい」と国内外のエレクトロニクス企業から打診が来ている。だが、「我々が部品メーカーに戻ることはない」と、碓井社長はそのすべてを断っている。過去の歴史を反面教師として、エプソンは不退転の決意で新たな道を進み始めた。

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ここから読み取るべきポイントは—すでにだいたい、このブログの読者の皆さんは、お察しだと思いますが—【流行りのビジネスモデルに流されることなく、自社の「好きx得意x喜ばれる」を塾考したうえで、納得性の高い戦略を作り、それに合わせて実行体制を整備し、しっかりと実行する】という、ごく当たり前のことです。

すべてのビジネスモデルや戦略は、提供商品・サービスの中身と事業環境、そして自社のこだわる「好きx得意x喜ばれる（⇒顧客）」に立脚すべきものであり、決して「今は水平分業の時代なんだよ！」とか、少し前なら「スマイルカーブの両端じゃないと儲からないんだよ！」などと、付和雷同的に決めるべきものではないのです。その意味で、セイコーエプソンのビジネスモデル・戦略の選択は、尊敬に値するものだと思います。

ただし少し気になったのは、「垂直統合型」へのこだわりが行きすぎることへの懸念です。「自社としての強い最終製品に結びつきそうもない部品事業の縮小だ」という発想のようですが、「垂直統合型」へのこだわりを社内外に明確に示す、という意味では当面はこれで良いのだと思いますが、くれぐれも、これが「呪縛」「掟」となって、今後の事業環境変化への対応ができなくなってしまわないよう、あくまであと数年間の「中期的戦略方向性」に留めておくのが妥当なところではないかと思います。

何が心配化というと。。。自社の今時点での「好きx得意x喜ばれる」の範疇にない、しかしながら世の中で求められている商品やサービスの基幹部品になりうる—そして競合優位性がある程度持続的に確保できそうな—技術を持っていたとしても、事業としては取り組まない、ということなのでしょうか？　もしそうだとしたら、そして今のトップの強いリーダーシップのなかでは、ビジネスチャンスをみすみす見失う、ということになる恐れがあります。もしそうだとしたら、「水平分業に付和雷同」とは逆方向において、「個別具体的にちゃんと考えない症候群」になりかねない、という懸念です。

もちろん「エプソンという会社は、自社としての強い最終商品に結びつかない部品事業は、たとえビジネスチャンスを取り逃すことになっても、一切やらない。そして、若し将来、強い最終商品が生み出せないような時代環境になったときには、潔く会社をたたむ。部品事業で生き残るなんてことは、金輪際やらない！」とまで強く信じている場合には—つまり、この信念は「中期的戦略方向性」という時限立法的なものではなく、企業として社会に誕生し存在し続ける理由ともいうべき「長期的・超長期的ミッション・ビジョン」であるということなら—、それはそれで立派ですし、潔いと思います。

もしそうなら、たいへん美しい理念だと尊敬しますし私的には結構好きですが、多分そこまでの話ではないのだろう—なぜなら、過去には、儲かる時代には部品事業もいっぱいやっていたのですから—と思いますので、碓井社長の強いリーダーシップが行きすぎないよう&ご本人が勘違いしないよう—エプソンにとっては「余計なお世話」もいいところですが—願うものです。

私の見るところ、碓井社長の戦略の本質は、「最終商品」でも「垂直統合型」でもなく、「自社で価格を決定できる」という部分です。つまり、顧客へのValue Proposition（価値訴求ポイント）が明確で説得力があり、かつCompetitive Advantage（競合優位性）がしっかりある商品・サービス（最終商品であれ部品であれ）を提供し続ける（=自分で価格を決定できる）ことが、厳しい事業環境の中で勝ち残るための鍵である、というあまりに当然の真実です。

そして、そのための具体的なビジネスモデルや戦略は、決して「流行りのビジネスモデルや戦略」に流されることなく、自分たちの頭と心を目いっぱい働かせて、その時々の事業環境を判断しながら—自分たちとして今後こだわりたい「好きx得意x喜ばれる」に照らして—個別具体的に決めていくべし、ということです。（そして今時点では、それがたまたま「最終商品&垂直統合型」だということなのです。）

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