最近の何社かのディシジョンラボで、企業の部課長の方々の問題・課題へのお手伝いをしている中、「えっ!?」「あれ!?」と思うことが続きました。その原因をいろいろ考えるうちに思い至ったのが、標記の【「浅いPDCA&真面目な頑張り」症候群】です。 ①症状1:問題・課題を定性的に捉えるだけで、それらの深刻さや重要さを定量的に把握しようとしない ⇒どんな事業でも企業でも、何らかの問題はあり、通常はパッチワーク的な対応で十分、ということもあるわけです。ですから、わざわざディシジョンラボで取り上げてトップに提言するほどの課題なのか、という自問があって欲しいのですが、その自問がないので、事の軽重を定量的に把握するまでの努力が出てこないようなのです。 ②症状2:問題・課題の、真の原因・本当に重要な要因にたどり着いていない可能性が高い ⇒問題の本質の捉え方が表面的、感覚的にとどまり、それ以上きちんとファクトベースで調べようとしないことが原因と思われます。 ③症状3:問題解決・課題への解決策・アクションとして、あまり大きな経営資源を必要とするレベルのものは考えない ⇒①、②の結果、事の重要性についての認識や、真の原因に対する確信がもてないので、上司やさらに上の上司に決済を求めなければならないような、思い切ったアクションは俎上に載せられないのだと思います。 ④症状4:解決策に対するリターンやそれに付随するリスクについての考察をほとんどしない ⇒③の結果として、投資対効果の検証やリスクへの考察・対処策は、実際あまり必要ないから、ともいえます。 症状1~4を考えると、企業の中で、典型的には次のような取り組みサイクルが回っているものと推察されます。 〇事業の成長性や収益性が思わしくない、あるいは期待通りでない場合、問題・課題の状況を定性的叙述として捉える ↓ 〇問題・課題に至った原因を、感覚的・表面的に、定性的に叙述する ↓ 〇認識した原因に対する解決方向・アクションを定性的な項目としてリストアップするが、必要経営資源の検討は特段行わない ↓ 〇現状の人員・経費の範囲で可能なアクション内容を叙述し、それをスローガン的な行動計画にまとめ、「皆で頑張る!」ための意識合わせをする ↓ 〇行動計画で設定する成果や数値目標は、上から降ってきた数値に「自分たちのやる気」を反映させて、2割増レベルのものにする このような取り組みサイクルにおいては、「なぜこれらのアクション・施策を打てば、こうした数値目標が達成できるのか」といった投資対効果の検証は、ほとんどなされないことになります。 ひどい場合になると、【「2割増目標」 マイナス 「既存の施策の延長で達成できそうな数値」=上記の新規の施策の効果】という数式が、中期事業計画のベースになっている、ということすら起こっているかもしれません。 この症候群への対処策自体は比較的単純で、それをディシジョンラボの参加者の方々にちゃんと説明すると、すぐに理解し、きちんとした取り組みを始めてもらえるのですが(⇒もちろんそうしたきちんとした取り組みを行っても、真に有効な解決策を作り上げること自体は決して簡単なことではないのですが。。。)、私の問題意識は、なぜいったい、もともと優秀なディシジョンラボ参加者の方々が、こんな症候群に冒されていて、そのこと自体に気づいていないのか?という疑問です。 ちなみに解決策自体を念のため記しておくと: 1.問題・課題をファクトベース、現場ベース、顧客の視点で、しっかり地道に調べる、インタビューする 2.浮かんできた問題の本質に関する仮説をもとに、ロジックツリー/イシューツリーを使って問題の本質を究明・同定するタスクをリストアップし、それをまたファクトベースで検証する 3.問題の本質と定量的な深刻度(ないしチャンスの大きさ)の理解をベースに、解決策・アクションを洗い出していく。この際、必ず必要経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)を明確にしておく ⇒問題・課題がそれほど難しくなければ、この解決策・アクションは、2.で洗い出された問題の本質・真の原因の裏返しで、ほぼ出てきますが、難しい場合は、ディシジョンマネジメントの様々な定性的ツールを活用することになります。 4.洗い出された解決策・アクションの効果について、定量的に検証する ⇒検証には、それらのアクションがどういうメカニズムで売上や利益に結びつくかについての、全体構造把握なりマッピングが必要です。また、その過程で様々な不確実性の読みをどういう根拠で行うのか、といった考察や追加情報収集も行われることになります。 それらを通じて、投資対効果の検証やリスク要因の把握とリスク回避策の検討もなされます。 ここで、ブログ読者の皆さんにお馴染みの、ディシジョンマネジメントの定量分析ツールがフル活用されることになります。 さて、「なぜいったい、もともとは十分優秀な方々が、こんな症候群に冒されていて、そのこと自体に気づいていないのか?」という疑問に戻ります。 その原因を、私は、「浅いレベルのPDCA思考」ではないかと睨んでいます。 そう、あの、オペレーショナルマネジメントをエクセレントに行うためのPDCAです。 :とりあえず「これならいけるんじゃないか」という案が浮かんだら(Plan)、直ちに実行に移し(Do)、結果を見て思わしくなかったら(Check)、直ちに改善策を考えて即また実行に移す(Action) PDCAは非常に強力な考え方ですが、10月に出版した「スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考」にも書きましたが、PDCAアプローチは、以下の3条件が全て満たされた場合のみ適応可能です。 □PDCAのワンサイクルが十分に短い。。。結果が出るまで3年も5年もかかるような問題・課題に適用してはならない、ということです。 □ワンサイクル回すための経営資源が十分に小さい。。。よほどキャッシュに余裕がある会社は別として、「とりあえず100億円使ってこれをやってみるか!」というわけにはいかないわけです。 □結果が悪く出た場合の悲惨さがそれほど大したことがない。。。たとえ結果がすぐ出て、必要経営資源が小さくても、甚大な風評被害や企業イメージを大きく傷つける可能性があるアクションは、「とりあえずやってみるか!」とはいきません。 逆に言うと、一つでも満たされない条件がある場合には、PDCAではなく、上記1.2.3.へのロジカルシンキング・アプローチの適用、3.4.へのディシジョンマネジメントを使った熟断思考の適用が必要となります。 しかし多くの企業のマネジャーにとって、通常ほとんどの問題・課題において、以上3条件が満たされているため、逆にこれら3条件の成立可否を確認することなく、PDCAを自動的に適用する習慣がついてしまっているようなのです。 そしてその適用が浅いレベルにとどまると(⇒トヨタのように、徹底的にWhyを5回問い続けよ!ということが企業風土になっていない場合には)、次のような逆転・退行現象が起こるのではないかと考えられるのです。 ①問題・課題が定性的に認識できたら、とりあえず解決に役立ちそうなアクションを定性的に考えて直ちに実行に移す ②結果が出るまでに時間が長くかかるもの or 実行に大きな経営資源を要するもの or 会社に大きなダメージを与える恐れのある ような解決策は、ハナから考えないようにする ③俎上に乗せる解決策・アクションが、そもそもそういうものであるので、投資対効果やリスク云々を考える必要性も感じない ④目標が達成できるか、認識した問題が本当に解決できるかに関しては、そもそも、そういうことを考えること自体が、「やる気のなさ、意志力の欠如、組織としての結束力の弱さ」の証明なので、「全員打って揃って真面目に頑張る!」ことに集中すれば良い、という思考パターンが刷り込まれる 。。。意外に当たっている気がしますが、どうでしょうか? しかし、もしこれが本当なら、由々しき問題です。こんなことをやってると、本来優秀な人たちの優秀さが、単純なオペレーショナルマネジメント以外の部分には活用できず、テクノロジーを始めとする事業環境激変の中、到底健全な企業発展は望めないのではないでしょうか? 読者の皆さんも、ご自身や、所属する企業・組織の実態を振り返ってみて、この【「浅いPDCA & 真面目な頑張り」症候群】に陥っていないか、今一度検証してみてください。 そして少しでもその兆候が見えたら、直ちに何らかの改善行動を起こしましょう。 “It’s up to me/us!“精神で!
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