最近読んだ本の読書感想文です。尊敬する先輩に勧められて読んだ本の一冊です。一昨年あたりから話題になった本で、遅ればせながら読んだのですが、なかなか面白い内容でした。 「GRIT」という言葉は私はあまり馴染みがなかったのですが、辞書をひくと、日本語にすると「勇気」「気概」「闘志」です。本の内容を読んだ上での読み解きは、私が常々言っている“It’s up to me!”のやる気・覚悟と、そのエネルギー源となるPassionのことかと感じています。 著者の主張を著者自身の言葉で一言で言うと「・・・お父さん、長い目で見れば才能よりも重要なのは、グリット(やり抜く力)なのよ」ということです。以下に、印象に残ったフレーズをいくつか挙げてみます。 -------------------------- 一流の人は「当たり前のこと」ばかりしている 圧倒されると「才能がすごい」と思ってしまう ・・・顕著な功績を収めた人たちはみな・・・いつまでたっても、「自分などまだまだだ」と思っていた。・・・どの人も、自分にとってもっとも重要で最大の興味のあることをひたすら探究していた。そして、そんな探究の道のりに-その暁に待ち受けているものと同じくらい-大きな満足をおぼえていた。 私はつねづね、愚か者でもないかぎり、人間の知的能力にたいした差はない、差があるのは熱意と努力だけだ、と主張してきた・・・(ダーウィンの言葉) ・・・新しい状況に適応し、その状態がすっかり定着することで、自分のアイデンティティ(自分をどのような人間だと思っているか)が向上する・・・ ・・・実際にインタビューで話を聞いてみると、ほとんどの人は「これだ」と思うものが見つかるまでに何年もかかっており、そのあいだ、さまざまなことに興味をもって挑戦してきたことがわかった。いまは寝ても覚めても、そのことばかり考えてしまうほど夢中になっていることも、最初から「これが自分の天職だ」と悟っていたわけではなかったのだ。 「まず好き嫌いをはっきりさせて、そこから積み上げていこう。自分の興味のあることがはっきりとはわからなくても、生活費を稼ぐ手段として『これだけはやりたくない』という仕事もあれば、『これならよさそうだ』と思う仕事もあるはずだ。そこから始めよう」 「やり抜く力」の強い集団の一員になる 「偉大な選手」になるには「偉大なチーム」に入るしかない 「やり抜く力を身につけるにも、大変な方法とラクな方法があるということでしょう。大変な方法は独力でがんばること。ラクな方法は同調性を利用するんです。集団に溶け込もうとする人間の基本的な欲求をね。やり抜く力の強い人たちに囲まれていると、自分も自然とそうなるんです。」 -------------------------- 引用が少し長くなってしまいましたが、ここから私の考えたことを書いてみたいと思います。 この本の中に「グリット・スケール」というのが載っており、「情熱」についての質問が5問、「粘り強さ」についての質問が5問の、計10問の(各5点満点の)質問に答えることで、自分の「やり抜く力」がどれくらいあるかを、グリット・スケール上のスコア(=グリットスコア)として測定するものです。 著者のダックワースさんは、「情熱」4.2、「粘り強さ」が5.0、平均としての「全体スコア」は4.6とのことです。 アメリカ人の成人の「全体スコア」の中央値は3.8で、彼女のグリットスコア4.6は、アメリカ人全体の分布の中で90~95パーセンタイル、つまり90~95%のアメリカ人は、彼女のグリットスコア4.6より低いということです。逆の言い方をすれば、彼女よりグリットスコアが上のアメリカ人は、5~10%しかいない(←100-(90~95)=5~10)ということで、彼女のグリットスコアはものすごく高いのです。 私も試しにグリット・スケールの質問に答えてみたのですが、「情熱」が4.0、「粘り強さ」が3.8で、全体スコア3.9となり、アメリカ人の分布でいうと、60パーセンタイル、ほぼ平均的アメリカ人並み、という結果でした。 これを見て若干残念な気はしましたが、「まあ、そんなもんかな」という感じで、自分が普段から感じている自己認識に、ほぼほぼ合っていると思いました。 私が提唱しているディシジョンマネジメントは、もともと、そこそこやる気と能力があるが、そこまですごくはないと思っている人達が、チームとして衆知を結集して、1人1人バラバラでは成し遂げられないことを、集合脳とチームワークで達成するのを支援・加速する考え方ですので、グリットスコア3.9の平均的な人間である自分が提唱することは、整合性が取れていると思いました。 常々私は、リーダーシップ・スタイルには「独力思考」ベースと「衆知思考」ベースの2つがあり、優れたリーダーは、個々人によって比重は違うものの、両方のスタイルが必要だと言っています。 今回の「GRIT やり抜く力」は、基本的には「独力思考」スタイルの底力や基本パワーを強化する方策について書かれたものだと思います。私自身も、自分のグリットスコア3.9は、もう少し上げたいものだと思いますし、その意味で、この本に書かれたいくつかの方策は早速試してみたいと思っています。 しかし、そうは言っても、結局各人や、そういう人達の集団としての組織や企業が、今リアルタイムで目の前の課題や仕事に取り組むときには、基本的に今のグリットスコアの実力値でもって戦うしかありません。 その際、ディシジョンマネジメントの衆知錬成の考え方や方法論が役立つと考えています。また、ダックワースさんも言っているように、良い集団の中で活動することが、個人のGRITを強化することに役立ちますから、ディシジョンマネジメントを活用して、チームとして戦略課題に取り組み、戦略策定、意思決定し、全員が納得・コミットして実行に取り組み、成果を上げる中で、個人としてのGRIT力も高められると思います。 「独力思考⇒個力」と「衆知思考⇒チーム力」については、スポーツでのアナロジーで考えると分かりやすいと思います。 ご記憶と思いますが、先のオリンピックで、日本の陸上陣は、400mリレーで銀メダルを獲得しました。4人の個人記録の単純合計でいえば、銀メダルには全く届かないレベルだったそうですが、チームでのバトンの受け渡しを徹底的に磨き込んだ結果、見事なチームワークで銀メダルを獲得したわけです。 GRIT力をはじめ、企業・組織での活動において、様々なスキルの個力を高めることは、もちろん重要です。それによって、個力の単純和が上がって行けば、顧客により良い製品・サービスを提供でき、企業価値が高まるわけです。 しかし、組織・企業としての力は、[個力の単純和]だけで決まるわけではありません。[個力の単純和]×[A]、即ち、単純和を拡大する「チーム・ファクター」としての[A]が大きくなければなりません。 極端に言えば、組織としてバラバラな状態では、[A]が1より小さくなるわけです。[A]が1ならば、単なる「集まり」にすぎません。逆に[A]が1よりずっと大きくなれば、個々の力がそれほど傑出していなくても、チームとして発揮できる力が巨大になるわけです。そして、ディシジョンマネジメントは、このチーム・ファクター[A]の拡大に貢献できる思考体系なのです。 スポーツでの「個力⇒チーム力」という発想は、私自身のハンドボールでの経験も底流にあると感じています。 私は、高校、大学とハンドボールの部活をやっていたのですが、大学4年の時のK大との、年に一度の7月の定期対抗戦の時のことです。 この年、私のチームは、前年までの上級生のエースが抜けたことで、春の関東のリーグ戦で、何とかギリギリ3部リーグ残留をしたという弱小チーム、片やK大は関西2部リーグで優勝を果たし1部に上がったばかりという強力チームで、個力では勝負にならない状況でした。 〇1か月後に迫った対抗戦に向けて、4年生を中心にK大戦への作戦をディスカッションした結果、個力の格段アップは諦めて、チーム力強化にフォーカスすることにしました。 〇具体的には、フォーメーション(=セットプレイのことです)を2種類用意し、それを右から仕掛けるのと左から仕掛けるので、2×2=4つのパターンを、徹底的に練習しました。 〇個力アップについては、フォーメーション実行に必要最低限の個力強化練習だけに限定しました。 〇作戦としては、4パターンを2回までは、相手に悟られないうちにやり切ってしまえると考え、うまくいけば4×2で最大8得点できると目論み、あとは徹底的に守り抜く、特に相手エースへのマークを徹底することとしました。 この作戦でK大戦に臨んだところ、実際には、こちらがこの作戦で先行得点を重ねた結果、相手が浮き足立ち、かつ、こちらに気持ちの余裕・勢いが出たことで、自分達自身全く期待していなかったほど、速攻が面白いように決まり、16-4の大勝となりました。 もう40年も前の記憶なので、自分の頭の中で美化されすぎているきらいはありますが、現状の個力を最大限に活用しつつ、単純和よりずっと大きいチームとしての力を生み出すことの重要性を信じる、現在の私の原点になっている気がします。 以上、「個力を高めるGRIT+ディシジョンマネジメントによるチーム力拡大」の有効性、という考えをお話させていただきました。楽しんで読んでいただき、多少とも皆さんのご参考になれば幸いです。 P.S. 加えて、ダックワースさんの著書の中の、シーホークスというアメリカンフットボールのプロチームについて語った、以下の文章も印象に残りました。 -------------------------- ・・・「Compete」(競争する、張り合う)という言葉は、ふつうの意味で使われているのではない。「他人に打ち勝つ」という意味(私の苦手な考え方)ではないのだ。シーホークスでは、「Compete」は「最善(エクセレンス)」を意味する。 「Competeはラテン語に由来するんです」マイク・ジェルヴェが説明してくれた。競技サーファーからスポーツ心理学者に転身し、ピートのパートナーのひとりとして、シーホークスの文化の構築に尽力している。 「文字どおりには“ともに闘う”という意味です。つまりもともとは、他人を打ち負かすという意味はないんですよ」 なるほど、わかってきた。このチームにとっては、ただほかのチームに勝つだけでなく、明日の自分が少しでも進歩しているように、きょうの自分の能力を伸ばすことが大事なのだ。エクセレンスとは、そういうことだ。つまりシーホークスでは、「Always Compete」というと、「最高の自分を引き出せ。最善を尽くせ」という意味になるのだ。 -------------------------- 「Compete」が「他人に打ち勝つ」のでなく、「ともに闘い、明日に向けて、さらによくなる⇒チームの仲間とともに、今の自分を越えて行くことを目指す」⇒素晴らしいとらえ方だと思います!
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