だいぶ前になってしまいましたが、昨年末の日経新聞に載っていた「スタートアップで『修業』-脱・自前主義 幹部育成狙う」という記事を読んで感じたことを書いてみます。 この記事では、大企業がスタートアップ企業に社員を出向させて(他社留学)、最先端の技術・サービスを吸収しようとし、かつ人材として成長した「留学卒業生」を活用して、自社内でもイノベーション創出をはかろうとしている例を紹介していました。 パナソニック、IHI、NTT西日本や、ダイキン、大鵬薬品など、派遣元企業とともに、他社留学を仲介するローンディールという会社も紹介されていました。 一般論として、イノベーションが起こりにくくなっている大企業が現状を打破する試みとして、結構なことと思います。しかし同時に、「留学卒業生」が会社に戻ってから、学んだことを生かせる施策を合わせて講じないと、単なる経営陣の自己満足/ひとりよがりに終わるのではないか、という懸念を抱きました。 私が、意思決定・戦略策定のエデュサルティング(Edusulting=Education+Consulting: 企業への研修・アドバイス)の場、とりわけ具体的な戦略提案についてのディスカッションの場面で痛感するのは、大企業の経営層(トップ)とミドルとの間での重要戦略課題をめぐる建設的ディスカッションの決定的不足です。 ミドルからの提案に対して、トップが自分の経営観なり成功体験からの思い込みから、内容を十分に聞かないうちに全否定したり、意味不明・解釈困難な発言でミドルを混乱させる、といったことが散見されます。対するミドルも、こうした発言に馴れっこになってしまっており、粘り強く説明したり、意味不明発言に対して真意を確認する為の質問すら自己規制してしまう。 ミドルの提案・意見に真摯に耳を傾け、「立場の異なる協働作業者」として、自らも具体的な改善策を発案するという発想に欠けるトップ層。そのトップ層に対して、質問することすらも「上司に対する反抗言動」と思って、唯々諾々と従う(ふりをする?)ミドル。 多くのミドルは、トップからの「挑戦/イノベーション/既存の延長からの脱却」といった一般論としての励ましや勇気付け発言を受けて、はじめは、勇気をふるって思い切った具体的提案をします。 しかし残念ながら、トップから、一般論で語っていたのとは正反対の「全否定、意味不明」のフィードバックを受けて、「要は、これは『挑戦ぶりっ子』ゲームなんだな。それらしき言動をしておくことが大事で、トップの言葉を真に受けて真剣に取り組むだけ無駄!」と大半の人は悟ってしまいます。 そして「挑戦ぶりっ子」が大企業のサラリーマンとしての賢い選択、と悟ってしまうミドルが多い中、少数の気骨のある人は、会社を辞めてしまいます。私としては、気骨があって「挑戦ぶりっ子」ゲームを潔しとせず、なおかつ会社やそこでの仕事や仲間への愛着の強い、例外的な人の出現を願い、そういう人達をこそ支援したいと願うわけです。 しかし、企業のトップとしては、こうした「挑戦ぶりっ子」ゲーム的な状況を放置することは、無責任以外の何物でもないと思います。別の言い方をすれば、「スタートアップに修業させることで、トップとして自分は立派なことをやっている。自分の役割は、もう十分に果たせている」などと、決して勘違いしないで欲しい、ということです。 「修業・他社留学」自体は良い試みだと思いますので、ぜひ必須の合わせ技として、「修業・留学組」が会社に戻ったときに、生き生きと働ける場づくりもやって頂きたい。すなわち、トップとミドルの「立場の異なる協働作業者」としての建設的ディスカッションの仕組みやスキルを社内に構築する努力を、並行して行って頂きたいと強く願うものです。
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