前回の(1)では、吉野家の安部社長の言葉について、a.【戦略構想づくりフェーズでのドライビングフォースとしての「べき・たい数字」】と、b.【戦略構想の具体化作業&定量的リスクリターン分析のフェーズでの「インテリジェントえいやーの正直ベースの数字の読み」】の観点から解説をしました。 この(2)では、引用した文章の中の《③・・・・・本来であれば売り上げを伸ばすのが目的で、そのための手段として出店を増やすはず。それなのに、出店が目的になるわけだ。すると失敗店ばかり増えかねない。》に関連して、先のa. と b.に加え、c.として、【実行フェーズにおける、数字のとらえ方】について解説をしてみたいと思います。 まずb.の「インテリジェントえいやーの正直ベースの数字の読み」は、戦略策定・意思決定段階でのベストの読みではありますが、「読みは読み」であって、実際の実行段階に入ると、ベースケース値には行きそうにない、場合によっては悲観値であるローケースにすら届きそうにない、ということが明確になることもありうるわけです。ここで大事なのは、実行をする中でなぜそうなるのか、も同時に分かるはずなので、その新たな、より深まった知見にもとづいて、そこから先、どんな修正した読みを行い、かつどんな追加アクションをするか(その中には、戦略目標の見直しも含むわけですが)に、トップを含めたマネジメントチームが一丸となって腕まくりして取り組むことなのです。 トップがこれを忘れて「君臨するだけの独裁者」に堕すると、最初の読みや目標値を押し付け、店舗数が自己目的化する、といった③のようなことが起こるのです。これを防ぐためにも、トップは「腕まくりの実務家」として自ら現場の状況を把握した上で、部下とともに新たな状況に臨機応変に取り組む姿勢を持つことが重要なのです。 このとき、事前に「マネジメントチーム」としての取り組みができていれば、そもそも初めの段階でb.の「インテリジェントえいやーの正直ベースの数字」を幅で読んでいたはずで、トルネードチャートを用いて、その不確実要因の振れ幅の重要性を関係者が共通理解ができているはずなのです。それにより、「このままだとまずい、何か次なるアクションを取らねば!」という気づき・警報がすぐに発せられて、従って軌道修正アクションをすぐにとることが可能になるのです。これが先に述べた、a.,b.と連動した、c.としての【実行フェーズにおける、数字のとらえ方】ということの意味です。 ちなみに、③の意味する「出店が目的化し、本来の目的である売上増大を忘れる」について言えば、本来は、「売上増大」ですら、目的ではないはずです。本来の目的は利益最大化であり、その達成手段として「売上増大」があり、さらにそのための手段として「出店」や「店舗数」があるのです。その意味では、実行フェーズで実態がわかったら、「売上目標を少し下げた方が利益を最大化するには、よりふさわしい」という判断局面がでてくる可能性もあるのです。 通常、こうした実行フェーズ/オペレーションフェーズでは、トップは「何が何でもやれ!言い訳は許さない!」という「怖い顔モード」になることが多いと思います。このフェーズでは、「不確実性の下では、もくろみ通りに進まないこともある」という物分かりの良い顔では、多くの部下をかかえる組織は動かない、規律が保てないという側面があるため、こうした「怖い顔」も必要悪として致し方ない、という局面があるからです。 しかしトップは常に、この、もともとは【演技】としての「怖い顔」が、いつのまにか「君臨するだけの独裁者」に堕する危険性をしっかりと認識しておく必要があるのです。できれば本来は、「怖い顔モード」だけでなく、不確実性の現実を踏まえた「大人の会話」ができる間柄同士のマネジメントチームが各組織/階層に存在し、それらが縦横につながっている全体組織こそが、目指すべきものなのです。 以上、a.【戦略構想づくりフェーズでのドライビングフォースとしての「べき・たい数字」】と、b.【戦略構想の具体化作業&定量的リスクリターン分析のフェーズでの「インテリジェントえいやーの正直ベースの数字の読み」】、それらと連動した、c.【実行フェーズにおける、数字のとらえ方】の内容と関連を説明してきました。またそれらに関連して、「怖い顔モード」変じての「君臨するだけの独裁者」に堕する危険と、追及すべき姿としての【不確実性を認識した「大人の会話」ができる間柄同士のマネジメントチームが縦横につながっている全体組織】について、持論を展開してみました。 いささか理想論的に聞こえるかもしれませんが、これがディシジョンマネジメントを通じて私がお伝えしたい一つの目標形、あるいはヴィジョンです。安部さんの文章の解説がずいぶんと長くなってしまいましたが、読者の皆さんの今後の取り組みに少しでもお役に立てば幸いです。
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