リモートワーク進展の中での知的創造と衆知錬成活動の今後について |
標題テーマについて、ヒントになりそうと思って切り抜いておいた、3つの記事の抜粋をまず紹介してみます。 ①「在宅勤務の給与、居住地で格差も」というコラム記事で紹介されたリンダ・グラットン氏の見解(2020年8月2日 日本経済新聞) …英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、多くの人々は大半を在宅勤務にするより、むしろ一部だけを在宅勤務にしそうだと予測する。職場は「社交や偶然の出会いを求めながらぶらつくための場所」で、自宅はより集中し、目的のはっきりした仕事のための場所だと位置づけるとみる。 ②「賢人の警鐘」というコラム記事での、富士フィルムホールディングス会長・CEO 古森重隆氏の見解(日経ビジネス 2020年8月3日号) …ただし、リモートに変えるとさっぱりパフォーマンスが上がらないところも出てくるのではないか。 …企業のような組織は、人が集まって、雰囲気を醸成して勢いをつけるような側面もある。 …社風や、社内にいるからこそ共有できる意欲や感覚などは、物理的に同じ場所に働いていないと分からない。直接的な人と人とのコミュニケーションが絶対に必要だと私は思う。 …新しいテクノロジーはどんどん活用すべきだが、人間社会である以上、人と人とのコミュニケーションは大切に残しておきたい。 ③「賢人の警鐘」というコラム記事での、日本証券業協会会長 鈴木茂晴氏の見解(日経ビジネス 2020年8月10日号) …「ずっと在宅勤務でもいい」「オフィスはもう必要なくなる」とする議論が主流になりつつあることにはやや違和感を覚える。リモートワークは、病気を抱えていたり、子育てをしていたりする社員が仕事にフル参加する上では非常に有効な手段であり、否定はしない。だが、すべての業務を代替できるほど万能なものだろうか。 …組織における帰属意識や連帯感といったものをどのように育んでいくのかという問題がある。 …どのようにして社風は生まれるのか。私は次の3つの要素が大切になってくると考える。それは「経営陣に対する信頼」「仕事への誇り」「同僚との連帯感」だ。どれも日々の会話を通じた相互理解など、対面のリアルな体験抜きには醸成されない価値観である。 …こうした大切な価値観を醸成する働き方を、コロナ禍を理由に、すべて捨ててしまってよいのだろうか。 …「これだけは譲れない」という価値観は、大事にしてもいいはずだ。 ⇒最近のリモートワーク進展の中で、異なるバックグラウンドや特性・考え方を持つ人達の、人と人との深いコミュニケーションや知的刺激・触発による衆知錬成が今後どうなっていくのか、強い関心を持っています。 その中で目に入った3つの記事から引用してみたのですが、ブログ読者の皆さんはどんな感想を持たれたでしょうか? 3つの記事での見解は、基本的には、いわゆるホワイトカラーの仕事についてだと思います。そしてこれらを読みつつ、ホワイトカラー的な仕事は、あえて言えば大きく ①ブースワーク の4つに分類できるのではないかと思いました。 ①の「ブースワーク」のブースというのは、仕切りで分けられた各自の仕事スペースで周りが見えない、周りから見えない、音もかなりの部分遮断される場所です。このブースでのワークは、独りで出来る、独りの方が集中して出来る、目的のはっきりした作業や、ある程度目的・方向性がはっきりした中での集中的思索に適しています。この部分の仕事は、他の人の姿や声が入ってこないリモートでのワークに非常に向いている、ないし、リモートワークの方が効果・効率が高いと思います。(但し、自宅等でのリモートワークをする場所の作業環境が整っていることが前提になりますが。) ②の「大会議室ワーク」というのは、いわゆる大会議室での連絡・内容確認作業や情報伝達・共有といった活動です。これについては、急速に進むZOOM等のアプリやシステムの機能や使い勝手の改善を通じて、ほぼ問題なくこなせるようになるはずですし、その方がよいとも考えられます。 ③の「小会議室ワーク」は、「ワークショップ」即ち、その場での、背景・考え方・スキルの異なる人たちの知的刺激や相互触発による知的共同作業・価値創造活動です。ディシジョンマネジメントが活きるのは、まさにこのワークショップの場なのですが、今時点のリモートワークのアプリやシステムの機能・使い勝手のレベルでは、まだまだ「未(いま)だし」という気がしています。 ④の「刺激探索」は、あえて明確な目的意識なく、様々・雑多な情報や刺激に身をさらす・脳をさらすことです。そうした情報や刺激により、色々なヒントやアイデアが湧き上がってくることを、短期的にはあまりあてにせず、しかし中長期的には大いに期待する活動です。かつての日本の伝統的企業での「タバコ部屋コミュニケーション」や、新規事業のヒントを得ることを期待して街をうろつく「ブラブラ活動」(←最近はあまり耳にしない、ちょっと懐かしい言葉です)などは、この典型的な例だと思います。 「刺激探索」の一つのメリットとして、交流する人達同士での「仲間意識醸成」や、「背中をまかせられる関係づくり」があります。「ブラブラ活動」については、リモートワークの一つである「ワ―ケーション」が、この部分の効果を拡大してくれる面があると期待されますが、「タバコ部屋コミュニケーション」的な「仲間意識醸成」については、リアルなその場での、五感をフルに使ったやりとりが出来ない分、当面はリモートワークで完全に代替するのは難しいと感じられます。 以上をまとめると、 ③については、3~5年である程度はリモートで可能となるものの、生物学的人間の五感すべてを使ったやりとりが重要となる要素は、少なくともあと5年か10年は代替されない、あるいは代替したくないと考える人や組織が多いのではないか、 ④の中の「仲間意識の醸成」については、リモートでは相当難しいし、味気ないので、リモートではやりたくないという要素が大きく残ると考えられます。 しかし、これだけ世の中が多様化し、一人の人間でも複数の様々なコミュニティやグループに同時に属しつつ活動する世の中になってくると、昔ながらの「一つ釜の飯を食った仲」という企業組織内での強烈な仲間意識なるものが、そもそも少なくなっていく/消えていくということも考えられます。そうした趨勢の中だと、これ自体の存在価値が低下し、従ってリモートワークになってしまうことによる問題そのものがなくなっていく可能性もなくはないとも感じます。 私が社会に出てから随分経ちますが、その間「次はこうなる!」「新たなトレンドはこれだ!」といったものが、それこそ2~3年ごとに世の中に出てきました。「当初は信じられなかったけど、本当にそうなっちゃった!」から「思った通り、やっぱりそこまではならなかったよね。。。」まで、色々なパターンがありました。 その意味で、リモートワークがどこまで進むのか、リアルとリモートの住み分けがどうなるかにつき、確たる予測はつきません。個人的には、そして願望的には、③のリアルならではのワークショップによる衆知錬成の価値創造や④の仲間意識醸成の要素はなくなってほしくないと思いつつも、今後もこの流れの渦中でジタバタと活動しつつ、注意深くウォッチし続けていきたいと思っています。 |
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