「社会課題解決」と「企業としての収益性」の両立にどう取り組むか?:今時点での雑感的思い |
最近の世の中の動きとして、ESGやSDGsあるいは働き方改革や女性活躍等、企業としての社会課題解決への取り組みが、経営課題の重要カテゴリーの一つとなってきています。 その文脈で、私がお手伝いするディシジョンラボ(ディシジョンマネジメントも活用した、経営トップへの戦略提案作りの一連のプログラムをこう呼んでいます)でも、ここ2〜3年、社会課題解決をテーマに取り上げるチームが増えています。 毎回、お手伝いするチームの方々と一緒に「社会課題解決」と「企業としての収益性確保・増大」の両立に悩みながら取り組むのですが、つい最近もそうしたテーマの最終発表会が立て続けにありました。 そして、この「両立問題」への取り組みの難しさについて思いを巡らせる中で、関連すると感じられる記事を目にしました。以下に抜すいを示します。 [コトラー教授が読む「ポストコロナ」 「2C」の世界を生き抜く秘策](日経ビジネス 2022年2月21日号) …1870年前後、南北戦争が終わった頃、産業革命が始まった黎明(れいめい)期の米国のリーダーを振り返ろう。当時コーネリアス・ヴァンダービルトは汽船や鉄道の事業を、アンドリュー・カーネギーは製鉄会社を所有していた。JPモルガンは米国政府が財政危機に陥った際にお金を貸した人物だ。石油王のロックフェラー、金融界の天才といわれたグールドもいた。米国の産業を立ち上げることに貢献した人々だ。私が注目する一人はアンドリュー・カーネギーだ。 カーネギーは製鉄会社を設立し成功した人物だが、従業員に安い賃金を払い、抗議に遭うと警備員を雇い、銃で防衛したという逸話が残る。こうした行動は従業員が決して忘れることができない過酷なものだったようだ。だが彼はそうやって世界一の金持ちにのし上がった。 晩年の彼は「社会に良いことをしよう」と考え始める。その答えが図書館を建てることだった。 さて、今日の慈善事業家としてビル・ゲイツ氏やジェフ・ベゾス氏の名前が思い浮かぶが、彼らは実際、「悪魔」なのか「天使」なのか。カーネギーの場合若い頃は悪魔だったが、高齢になって天使になったようだ。皆さんはどう思われるだろうか。 …米国の資本主義は成功してきた。しかし、今は変革が必要だ。「資本主義を変えよう」と言っているのではなく、「良いものにしよう」と言っているのだ。 …北欧の5カ国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランド)は、経済民主主義(あるいは福祉資本主義ともいう)を実践し、企業の利益は高く、労働組合は団体交渉力を有し、世界中でビジネスを成功させている。これらの国は最も高いレベルの生活水準で、健康度、幸福度、所得格差の少なさにおいては5カ国すべてが世界のトップ10に入る。米国は、北欧を参考に現在のあり方を向上させるべきだ。 だが恩恵を実現するためには、70%という高い所得税が必要となる。現在の米国の最高税率は37%だ。かなり低い数字である。このような低い税率では多くのお金が富裕層に集まることになると懸念する。トリオネア(1兆ドル長者)と呼ばれる富裕層も登場した。富の集中はもういらないとして、米国の政治家であるバーニー・サンダースが米国を北欧型の資本主義に変えていくことを提案した。今後どうなるだろうか。 最後に、企業は、収益性に注意を払うべきだが、それだけではなく環境問題や企業、個人あるいは国が直面している社会問題により注意を払うべきだ。これまで株主資本主義と呼んできたものは、ステークホルダー資本主義に変えるべきである。 ⇒抜すいした所以外にも面白いエピソードがあったのですが、最終結論的には、最近はしばしば耳にする「株主資本主義からステークホルダー資本主義へ」というものですね。 私が着目したのは、「今日の慈善事業家としてビル・ゲイツ氏やジェフ・ベゾス氏の名前が思い浮かぶが、彼らは実際、「悪魔」なのか「天使」なのか。カーネギーの場合若い頃は悪魔だったが、高齢になって天使になったようだ。」という部分です。 自社の持つ、またこれから持ちうる(手が届く)製品やサービスが直接「社会課題の解決」に役立ち、それがそのまま売上げや収益がつながるのであれば「天使vs悪魔」という葛藤に悩むことはありません。 従って問題は、「天使」として社会課題の解決に役立つ為の行動が、直接的な ー 少なくとも短期的には企業収益に結びつきにくいケースです。 「天使-悪魔 問題」の対処の仕方の1つは、カーネギーがやったような、一時(いっとき)は「悪魔」としてお金をかせぎまくって、次に稼ぎまくってため込んだ莫大なお金を「天使」としての活動につぎ込むことー「時期ずらしアプローチ」ーです。カーネギーの場合ほどの落差ではありませんが、つい最近まで「ブラック企業」といわれて稼ぎまくっていたカリスマ経営者が、「働き方改革」の風をうけて、一挙に働き方改革ベスト企業へ脱皮、というのが話題になったことがありましたが、これも「時期ずらしアプローチ」ですね。 もう一つは、一方で「悪魔」的に稼ぎまくる事業をもち、もう一方でそこで稼ぐ潤沢なキャッシュを使って社会課題解決を主眼とする「天使」事業を行う「ポートフォリオずらしアプローチ」です。 しかし最近のステークホルダー資本主義で理想とされるのは「天使」として社会課題解決に貢献しつつ、同時に(=「ずらし」ではなく)その活動自体が(「悪魔」レベルとまではいわないものの)企業としての収益を十分生み出す事業なり取り組みです。 つまり、「天使」の使命観・高邁な志を持ちつつ、しっかり抜け目なく収益を上げる「悪魔」的なスキルなり戦略を持たねばならない、という難題です。 言葉としては「悪魔の才能を持って天使のふるまいをする」ということになるのでしょうが容易なことではありません。 一時、ダノンの前CEOのエマニュエル・ファベール氏が「パーパス経営」と銘打ってステークホルダー資本主義を標榜し、ここで言う「悪魔の才をもった天使」というポジショニングで有名になりました。しかしその後、「短期収益悪化、収益力向上不十分」ということでCEOの座から追われた事例が記憶に新しいですね。 ことほどさように「社会課題解決と収益性確保の両立」は難しいのですが、そうした問題意識をもっている中で、先月中旬にある講演会で、この両立を実践しているというカリスマ経営者(Aさんとしておきます。先程あげたカリスマ経営者とは別の人物です)のお話を聞きました。 この方のお話に出てきた「両立」の事例は、その企業と地方自治体や住民の方々がタッグを組んで、地方のもつ社会課題解決に取り組んでいるというもので、とても印象的かつ感動的なものでした。 しかし、質疑応答の中で参加者から出た「大変感動的なお話で感銘を受けたのですが、収益性の確保は難しかったのではないかと感じます。そのあたりはどんな工夫をされたのでしょうか」という質問には、コトの経緯に関する興味深いエピソードはご紹介下さったのですが、肝腎の具体的工夫や収益性確保の苦労話についてはお話し頂けませんでした。 講演会の時間的制約もあり、Aさんから「企業秘密にかかわることだから、これ以上の突込んだ質問はするな」的なカリスマオーラが出ていたこともあって、それ以上の質問は、私も含めて残念ながらできませんでした。 質疑応答のセッションまでは、会場には、私も含めて「「天使と悪魔の両立は難しい」というのは単なる思い込みで、そういう先入観を持つことが両立をはばんでいるのかもしれない。現にここに両立を成しとげた人物と企業がいる!」という高揚感があったのですが、最後は「やっぱりそう簡単ではなさそうだな。実際にAさんの企業の活動を実行部隊として担った人達に話を聞くまでは、あまりナイーブ(うぶ)に信じ込んだり感動しない方がよさそうだ」という雰囲気になりました。 ということで、今時点での「天使ー悪魔 両立問題」についての現実的アプローチとしては、 …あまり面白くない結論ですので、何とかもっとエキサイティングな解/アプローチを見い出すべく、情報収集も含めて今後とも知見を広げて行きたいと思っています。 P.S. 今ふと思ったのですが(←気づくのが遅すぎたかもしれませんが)、先ほどの、質問に対するAさんの反応のニュアンスには、もしかすると「そんな個別具体的な工夫の機微について聞いてどうなる?私だって相当に工夫・苦労したんだ。各自、個別具体的に自分で工夫するしかないんだから、安易に教えてもらおうとするんじゃないよ!」というのがあったのかもしれませんね。 |
コメント
|