【人は何のために働くのか?/ どう働くのが楽しいのか?/ どんな時・状況でやりがいを感じられるのか?】 |
このブログ記事タイトルの問題意識は永遠の課題かもしれませんが、今考えている諸々を書いてみようと思います。まず、考えるきっかけになった記事の抜すい紹介からはじめてみます。 [脱ウェルチ・脱ジョブズの社風 「大人扱い」が生んだ革新(2022年1月24日 日本経済新聞 朝刊コラム(経営の視点)より] 20年余り前、米国系企業トップに組織活性化の秘訣を聞いたことがある。「簡単です。部門単位で成績順に並べ、毎年下位1割を解雇か配置転換します」。 …これはスタックランキングと呼ばれ、「20世紀最高の経営者」とされた米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ氏が有名にした。 …しかし足の引っ張り合いや優秀な人も機械的に解雇する弊害から、廃止企業が相次いだ。 …ウェルチ式と入れ替わるように関心を集めたのがネットフリックスだ。2009年に企業文化と行動規範を示す内部文書、カルチャーデックを公開すると業績に比例して注目度が上昇。 …第1の鍵は自由と責任。「お役所的な決まり事」や手続きはやめ、トップダウンの指揮管理も減らし社員の自発性と創造性を引き出した。混乱しないか。きちんと成長できるのか。疑問への答えがフィードバックという第2の鍵だ。 …ネトフリのフィードバックは原則リアルタイム。しかも立場の上下は無関係に360度から受け付ける。そのかわり陰口は禁止で、言いたいことは相手が誰でも本人に実名で伝えよ、と行動規範にも明記する。当初は抵抗感を覚える社員らも、いったん慣れると若手ほど「自分の成長につながる」と喜ぶそうだ。 実名による批判は相手が企業などでも同じだ。カルチャーデックや解説書は先輩企業や人気の経営理論にも容赦ない。GEやマイクロソフトが誇ったスタックランキングは「チームワークを壊す」とかねて全否定してきた。アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏をまねて製品や業務の細部まで口を出すマイクロマネジメントも「自主性を阻害する」と退ける。 グーグルが生産性の要とうたう心理的安全性(自分が受け入れられる空気)作りも不要。流行のエンゲージメント論(やる気が成果を左右するという主張)にも「やる気そのものが目的化する」と手厳しい。 社員を大人として扱い、会社が過干渉しないネトフリ式が新たな標準になるかどうかはまだわからない。ネトフリ自身も「合う人と合わない人がいる」と認める。急成長を続けてきたため輝いてみえただけで、過去にもてはやされた幾多の経営論と同様、いずれ否定される可能性も十分ある。 …仕事の最大のモチベーションは恐怖や強欲、居心地ではなく仕事そのものの楽しさ。この発想がイノベーションや生産性向上のヒントを含むのも確かだ。 (⇒以下に記事を受けた上での私のコメントを記します。) ⇒ネットフリックスの「社員を大人扱いし、仕事の最大のモチベーションは仕事そのものの楽しさ」という発想は凄く良いと感じました。GEやマイクロソフトの「恐怖や強欲」で社員を仕事にかりたてるやり方の裏には「社員は、気楽にやらせているとサボる。金や権力をエサにしないとやる気を出さない」という人間観があるのだと思います。ジョブズのマイクロマネジメントも、「そこまで指示強制しないと、社員はちゃんと仕事をしない」あるいは「自分が全てにおいて優れており、社員にまかせた方が自分が考えるよりも秀れた提案なりアイデアを発想する、ことなどない」という人間観が見てとれるような気がします。 それに対して「社員のそれぞれは、恐怖や強欲での意欲づけなどしなくても、それぞれ自立した大人として、それぞれが個性として秀れたものを持っており、各自が仕事そのものに楽しさを感じ、かつチームワークを発揮していけば、とてつもなくすごいことができる」というのがネットフリックスの人間観なのだろうと感じます。 実は私が1990年から2000年まで在籍したシリコンバレーにある、意思決定サポートを中心としたコンサルティング会社の(少なくとも当時の)人間観は、この「1人1人の組織構成員は自立し意欲にあふれた、個性ある独立した人格を持つ大人で、その互いに尊敬しあえる大人同士のチームワークで、顧客に秀れたサービスを提供できる。そういうことを目指す人達がこの会社につどっている」という人間観、組織観をもっていました。 そこでの経験や学びをベースとしているディシジョンマネジメントの方法論も、同方向の人間観、組織観をもっており、その意味からもネットフリックスのアプローチには大変共鳴しました。 ある意味、シリコンバレーの人達的な考え方/ 哲学/ 思考体系の典型的な部分なのだと思うのですが、そうした企業に実際に在籍していると、時に、ある種の「しんどさ」を感じることもありました。 それは、「お互い大人として扱っている訳で、チームの一員として、もちろんきちんとした貢献はしてくれるんだよね。もちろんそこは信頼しているので表立って露骨に恐怖を与える感じでプレッシャーなどはかけないけど、『そこはわかってるよね!』」というプレッシャーです。 そして、「仕事そのものに楽しさを感じる」といっても、残念ながら仕事でとり組む諸々のことが常にすべて楽しいなんてことはなく、また「大人扱いされるほどちゃんとした自分で常にあり続けられる」訳でもない、という弱さも持つのが人間の実態なんだよなぁ、と自分を省みて感じることがありました。 中にいるとそのあたりのプレッシャーは感じるだろうな、というがネットフリックスという会社だろう、とも思います。このことは、数年前に、「カルチャーデック」を主導した元ネットフリックスの人材育成担当役員だった方の書籍を読んだときにも感じました。(本を読むと、ネットフリックスでのプレッシャーは、私が在籍した会社の倍以上はありそうだなと感じました。) その意味で「合う人と合わない人がいる」というのは、本当に事実だろうと思います。 ネットフリックスやグーグルあるいはGEやアップルとは、また大きく異なる日本の伝統的企業は、社員の大人扱い感がかなり低く、かつ大人扱い足りえない人達もいるのだろうと思うのですが、その逆の面として、大人扱いのプレッシャーも、業績達成に対する恐怖のプレッシャーもだいぶ弱いと思われ、シリコンバレー時代にこの種のプレッシャーを強く感じた時には、(もともと私も日本企業にいましたので)少し懐かしく感じたりしたこともありました。 こんなことを何となく考えていたときに、次の記事に出会いました。まずは印象に残った部分を抜すいしてみます。 [ノルマ廃止で組織が一変 商工組合中央金庫社長 関根正裕氏のインタビュー記事(日経ビジネス 2022年3月14日号)] (記事の冒頭解説によると、関根氏は第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)、西武ホールディングスを経て、2018年より、当時、不正融資問題で揺れた商工組合中央金庫のトップに就任。その後ガバナンス改革や業務・経営の合理化などを進め、実績を上げられた方とのことです。) …自分なりに問題を分析してみると、当時の商工中金は2つの大きな課題を抱えていると感じました。 一つは組織の仕組みやマネジメントのあり方。もう一つは業績至上主義。これらをまず改めることが改革につながると思いました。 …企業風土を変えるには、風通しの良い組織にしていく必要があります。これまでの商工中金は、完璧なピラミッド型の組織でした。上意下逹で上司の言うことが絶対。これでは自分の言いたいことも言えないし、重要な事柄は一部の人たちの間で決まってしまい、情報開示も進みません。職員のモチベーションは当然下がりますよね。ですので、役職にかかわらず言いたいことをいえる仕組みづくりを徹底しました。 風通しの良い組織づくりはもう一つの問題「業績至上主義」を改める上でも必要不可欠でした。私が来てすぐにやめたのが「ノルマ」です。 …予算が付いていると、やはり達成しなければならないと考えてしまったのではないでしょうか。 経済産業省から来た当時のトップは別にそんなの全部達成しなくてもいいと思っていたようですが、業務執行側が忖度(そんたく)してしまったのでしょうね。 …本当にノルマはやめました。今でも営業店長会議では、数字の話は一切しません。社員のやる気を高めるためには何をすればいいか、ひたすら議論しています。 …今では評価全体に占める業績のウエートなんて2割に満たないです。 その代わり、「お客様に役立つ活動をしたか」「業務効率化を推進したか」「人材育成に注力したか」など、より定性的なポイントを評価項目に取り入れました。 すると、管理職の行動が変わるんですよ。以前よりも現場の状態を把握しようとするし、自然と職員とのコミュニケーションも増える。 今でこそ、自分たちの存在意義や志を改めて問い直し、それをベースに社員のモチベーションを上げていく「パーパス経営」の重要性が叫ばれています。誰もが非難や拒絶の不安なく発言できる組織は強いと考える「心理的安全性」も注目されていますよね。これらの言葉を初めて知った時、「自分が前から考えていることと同じなのではないか」と思ってしまいました。 …やっぱり人間って自分を必要としてくれる、話を聞いてくれる人がいると嬉しいし、やる気が出ますよね。そうやって社員を受け入れ、認めることを通じてモチベーションを高めていければ、自然と業績や数字は付いてくるものです。 商工中金の職員は皆、中小企業のサポートをしたいと思って来る人が多いから非常に志が高い。できないわけがないのです。 …担保や保証をベースにした貸し出しではなく、融資先の事業の将来性を、産業構造や商流、資金繰りの見通し、果ては経営者の人柄と、様々な観点から評価して融資を判断する「事業性評価融資」に注力しています。 …事業性評価融資は貸し手の「目利き力」が問われます。今まで聞いたこともない新技術の可能性について調べたり、収益化に向けて何が必要かシミュレーションしたりー。だからこそ、職員の意欲や能力の高さがないと成り立たない。商工中金の企業風土改革が重要なのは、新事業のためでもあるのです。 …融資先と密にコミュニケーションを取りながら、財務の立て直しや収益モデルを策定するのみならず、新商品のアイデアまで考える職員もいます。資金面での支援だけでなく、いかに豊富な提案ができるかが、商工中金の強みであり、特徴につながっていくと思います。 ⇒関根氏は「組織の仕組みやマネジメントのあり方」という言い方と「企業風土」という言い方の両方を使っていますが、私は前者に力点を置くことをお勧めしています。 好ましくない企業風土は、それまでの歴史的な組織の仕組みやマネジメントのあり方の結果として形成されるものなので、直接働きかけようがないからです。従って、問題となっている、例えば、関根氏がおっしゃっている/ 示唆している、望ましくない「企業風土」による2つの症状: (a)業務執行側が業務目標数値を、忖度によって絶対達成義務ととらえ、その達成の為には不正融資までしてしまう (b)管理職が部下に対して、現場の状況把握や改善アプローチへの具体的な助言をせずに、業績数値必達を追求・要求するだけ の原因となっている、組織の仕組みやマネジメントのあり方を変える為の、具体的なアクションをとっていけば良いだけなわけです。 そうはいってもマネジメント上、何らかの達成数値の目安は必要でしょうから、私だったら、ノルマ色を一掃するために、そして忖度も排除するために、いっそ「共有願望・数値目安」という言い方に変えたら良いと思います。 (b)でいえば、それまでの、ノルマが達成できたらほめ、達成できなければ厳しく追求したり叱責するだけの「自動怒りマシン的管理職」を排し、「付加価値提供型マネジャー」に役割を変え、それを周知し、新たな役割の果たし方についての教育や研修、実地指導を、経営層が主導して地道にしっかり行なっていくのが正道だと思います。 記事を見る限り、関根氏は(「共有願望・数値目安」や「付加価値提供型マネジャー」という言葉こそ使ってはいないものの)ノルマ廃止をはじめとしてこれらのことに実際に取り組み、成果をあげられているのだと思います。 その結果、モチベーションが上がり、自然と業績や数字はついて来た訳です。そして、もともと会社のミッションである「中小企業のサポート」にとり組みたい人達の集まりで志が高いから、「できないわけがない」のです。 ちなみに「事業性評価融資」は金融機関の本来的ミッションのはずです。 関根氏の改革により、社員の取り組みがこの方向に積極的に動いているのはとても喜ばしいことですが、裏を返せばそれまでは、本来ミッションを忘れて、社会の仕組みとして制度設計された中で、目先のノルマを、単なる給料をもらうための「こなし仕事」としてやってきただけだったという見方もできます。 ①の記事のネットフリックスと対比すれば、やっている仕事自体に楽しみも感じず、またやりがいも感じられず、また自発的な取り組み意欲をもった「大人」としての扱いもされていなかった、ということでしょう。 そうした状況を関根氏がマネジメントのあり方変更とノルマ廃止により改革し、社員を自発的意欲をもった大人扱いすることで、新事業への取り組みも自発的に出てくることが可能な組織に変革してきたのだと思います。 以上、2つの記事をトリガーにして、「人は何のために働くのか?/ どう働くのが楽しいのか?/ どんな時・状況でやりがいを感じられるのか?」について考えてきました。 私の今時点での暫定的な結論としては:
イメージとしては、ネットフリックスの少しプレッシャーの少ないバージョンです。 つまり、「大人扱い」があまりにも「すごい大人」を想定されると、常にかなりのしんどさの中で働くことが求められるので、「それほど大した大人じゃない部分」や「大人としてはちょっとしょうもない部分がある」自分も、皆そういう弱点をもつ仲間と一緒に、チームとして互いの弱点を補いつつ励ましあいつつ、楽しくやっていける組織・企業です。 ちなみに関根氏が「パーパス経営も心理的安全性も、自分が前から考えていることと同じじゃないかと思った」とおっしゃっていますが、本当にその通りだろうと思います。 まっとうに、健全に、互いを尊敬しあう仲間の集う組織・企業にしようと思ったら、こうしたバズワード(はやり言葉)など知らなくても、自然とそれらを体現した経営になるはずなのです。 心理的安全性、エンゲージメント、パーパス経営など、マスコミや経営学者等から次々にバズワードが出されてきますが、私はいつも「何を今さら」「そんな言葉がはやる前から、まっとうな経営者ならやってるんじゃないの?!」と思っています。 そうしたバズワードが新鮮に聞こえて、それらを自社組織で実践すれば改善がはかれる企業は即刻やればいいと思いますが、逆にいうと、「今までは、そんなこともできてなかったの?!」感をもってしまう訳です。 最後は若干いつもの「憤り」的なコメントになってしまいましたが、多少でも皆さんの参考になれば幸いです。 |
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