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立場の違いを超えて、衆知の結集を！(I)。。。「八ツ場（やんば）ダム建設」是非の議論に思う

カテゴリー: エッセイ・論説 2009 年 10 月 3 日 コメント(0)

民主党政権になって、いろいろな新しい動きが出てきています。その一つに、公共事業投資の見直し、とりわけ、「八ツ場（やんば）ダム建設」是非の議論が大きく取り上げられています。前回のブログエントリーで触れた「悩みが大きく深い課題には、それにふさわしい十分な思考実験を！」という観点からは、私としては是非ディシジョンマネジメントを活用した、衆知を結集した検討と議論をしてもらいたいものだと願っています。

前原国土交通大臣は、「八ツ場（やんば）ダム」については「マニフェストで約束したのだから、建設中止は既定方針で、それを撤回するような議論は一切しない」という趣旨の発言をしているようですが、選挙においては国民の多くはマニフェストの個別個別の内容に全て賛成して投票したわけではなく、各政党の主張・マニフェストを比較して、相対的にどの政党がもっとも良いか/よりマシか、という判断で投票したのが実態だと考えられます。従ってここはひとつ、｢建設中止ありき絶対｣と頑なに考えず、もう少し柔軟に幅広いフレームでの議論をしても良いのではないかと思います。

より具体的には、私のみるところ、民主党に投票した多くの人たちのこの問題についての思いは、「今までは、一度始まった公共工事や事業は、その後の情勢が変わってもなんら抜本的な見直しがなされない。報道などで見聞きする限り、どう見てもおかしな論拠で惰性にもとづいて建設が進められているようだが、一向に政府側から納得のいく説明もない。やはり、既得権益を持った人たちや建設・土木業界の利益のために族議員や官僚のいいように税金が無駄遣いされているのではないか？

政権交代で、そのあたりにメスを入れてくれると言っているので、それに大いに期待したい。きちんと見直した結果、ひょっとすると建設続行になるものが結構出てくるのかもしれないが、一度そういうことをちゃんとやってもらいたいし、今後の政策は、最初からこういうちゃんとした議論を経てから着手し、着工後も必要に応じて適宜見直しがなされるようにすべく、政治を良い方向に変えて行ってもらいたい」というところではないかと思います。

この問題のように、

〇関係者の意見が鋭く対立し、それぞれが各自の主張については、（時に、我田引水の要素も含めて）相当強い論拠と感情的思い入れを持っており、また「これまでの自分の人生を賭けた」という思いも絡んでいて、すべての関係者にとってHappyな解決策が見出しがたく、

〇解決策を作り上げるためには、対立している推進派と反対派の両陣営の人達の知識と知恵を総動員しないとならない、つまり、一握りの人たちが問題解決に必要なすべての知識と視点を持つもつことが不可能なほど、課題の中身が膨大な知識量を含み、かつそこに含まれる要因が複雑に絡み合っており、

〇しかしその状況の中で、何らかの解決策を策定して前に進めないとならない、それを具体的にどうやるかについて、意思決定者・リーダーが深刻に悩んでいる（べき）、

という場面は、企業の戦略課題の典型的困難状況としては、実はよくある状況なのです。

私は仕事柄これまで何度も、そういう状況にある悩めるリーダーの方々をお手伝いすることがありました。あるいは、残念ながら、本来は悩むべきながら、当事者意識・責任感の弱さから、リーダー/責任者のポジションにあるご本人にその意識がない場合は、そのリーダーを支える「当事者意識をもつ真のリーダー｣としての自覚・責任感をもつ人たちが解決策を練り上げ、社内を引っ張っていくのをお手伝いしてきました。

こうした経験に照らすと、以上のような悩ましい状況に共通している「克服すべき課題」は6つほどあります。「八ツ場（やんば）ダム」をはじめとする公共事業見直し議論への参考にもなるのではないかという思いから、6つのポイントにつき、克服するための対処策のヒントも含めて、以下に紹介してみます。

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①　そもそも、関係者の人達同士が、対立する陣営の人達と一緒に議論する気持ちになっておらず、互いを不倶戴天の敵とみなしている：互いに自分の陣営の主張が正しいと思っているので、相手を悪/敵とみなしており、共通の土台に立った建設的ディスカッションをしようにも、その環境が整っていない、という状況です。

⇒解決の方向：　まずは各陣営の主だった人たちを集めて一緒に話をする場を設定することから始めます。その際、意見対立しあう各陣営だけでなく、会社全体のパフォーマンスの視点（ひいては株主視点）で動くことが仕事のはずの企画や経理・財務といった中立的立場の人達も、そうした検討チームに参加してもらいます。

このとき、Vision Statement(V.S.) 　と　Force-field Diagram(F-fD)　が実に有効です。V.S.では、「この検討でこれから何をやろうとしているのか？」、「なぜ今この検討をする必要・必然があるのか？」、「この検討では、いつまでに、どういったことが達成されたら成功といえるのか？（成功の定義）」につき、関係者各人の思いを語ってもらい、それを一つの書き物（=Statement）にまとめます。これだけで、関係者それぞれの気持ちがほぐれ、議論のベクトルが次第に合ってきます。

さらに、F-fDで、やるべしvsやらざるべし、という論点を、紙の左側と右側にどんどん書き出していきます。このとき大事なのは、一人一人の参加者に、本来の自分の陣営とは逆の立場の発想をあえてしてもらい、そちらからの論点も出してもらうことです。これにより、各人の頭と気持ちが良い意味でニュートラルになり、相手陣営の主張にも、感情的反発を抑えて耳を傾けるだけの気持のゆとりが出てきます。

そこで培った互いの陣営に対する信頼感を土台として、出来上がったF-fDの中の各論点を、②の価値判断尺度の抽出、③の意思決定項目や選択肢の作成、④の不確実要因の抽出と正直ベースの読み、などに生かしていくことになります。

②　①による必然でもありますが、関係者のそれぞれが、皆、自陣営の立場での利害得失のみを主張し、事業や会社全体の観点での議論をしようとしていない：　たとえば、営業部門は売り上げ量や金額だけについての議論を展開し、長期的な技術や生産投資のために経営資源を使うことには無頓着、技術部門は新規技術の獲得や技術蓄積の利点ばかりを主張し、それが売り上げや利益にどう具体的に結びつくか、それが投資対効果として十分見合うのか、といったことには無関心、といった具合です。

⇒解決の方向：　会社や事業全体としての価値判断基準についての合意をまず取り付ける。具体的には、短期と長期の（たとえば5年と10年といった）「これから儲かり総額（=投資や費用を差し引いた、正味で手元に残るトータルの儲かり額）」を第一測定尺度として、これから作成する各選択肢を測定する、ということです。

これに加えて、第二測定尺度としての、各部門が気にする「売上金額/市場シェア」や「技術蓄積」といった複数の追加尺度も含めて「価値判断尺度のリスト」を作ることで、全員が同じ土台で議論をすることに納得感を持てるようにします。

③　各陣営が激しく自説を主張するものの、意外にも、主張する選択肢が、整合性に欠けたり、具体性がないことが多い：　それぞれの主張を、②で説明した各価値判断尺度に照らして測定・評価しようとすると、そもそもそれに耐えられるだけの具体性を持っていないことが実に多いのです。

また、たとえば営業部門は対象顧客やそこに対する攻め方、価格設定といったことについては語っているものの、それのベースとなる技術投資や生産体制については、自分達の守備範囲ではないという理由で、何も語らないし考えていないという意味で、主張している選択肢に整合性・一貫性・包括性がない、という問題があります。その観点では、技術部門、生産部門も、自陣営の守備範囲以外については｢我関せず｣という意味で同罪です。結局、互いの主張は対立しているように見えて、実はすれ違っているだけ、ということが多いのです。

⇒解決の方向：　事業全体につき、②で設定した価値判断尺度での測定に耐えられるレベルの、整合性と包括性、そして具体性をもった選択肢を複数設定する。そのためには各陣営が主張する多くの案やアイデアの中に含まれている意思決定項目をリストアップし、それぞれの意思決定項目における具体的オプションのつながりとして、複数の選択肢を設定することです。その際、｢やるべし｣という主張と｢やらざるべし｣という主張では、具体的にリストアップすべき意思決定項目のリスト自体が違ってくることがあるので、そうした丁寧な作業を心がけます。

また、こうした作業の際、｢どんなに互いに意見が違っていても、全員、会社全体の長期的発展に資するための検討をしているという点では同志である｣という大前提は共有している、という当たり前のことを、書き物として作っておくことも有効です。。。感情的対立が激しくなると、ついつい｢あいつら人間として信用できない｣とか｢あいつらの主張が通るくらいなら、会社がつぶれる方がましだ｣などという極端な気分になりがちだからです。

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例によってまた文章がだいぶ長くなってきたので、ここから先は次回のブログエントリーで(II)に書き継いで行きたいと思います。

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