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「リスクマネジメント」の意味すること。。。投資家視点ではなく、「腕まくりのビジネス・リーダー」のための、本質的な戦略的リスクマネジメントを！

カテゴリー: エッセイ・論説 2010 年 11 月 4 日 コメント(0)

11月1日付けの日経ビジネスの「IMD（スイスのビジネススクールに学ぶ　　後編-リスクマネジメント　　　経営者が陥る失言の罠」という記事で、ディディエ・コシン教授という、ファイナンスとガバナンス担当の教授が、今年起こった英BP（ブリティッシュ・ペトロリアム）の原油流出事故をめぐる、当時のCEOのトニー・ヘイワード氏の失言を取り上げて論じていました。これを読みながら、（多分、著者や記事を紹介した日経ビジネス編集部の意図とは異なる観点で）リスクマネジメントの様々な意味合いについて考えさせられました。

まずは記事の抜粋から（私の独断と偏見によるものです）：　【・・・ヘイワード氏の発言が人々に衝撃を与えたのは、恐らく・・・「自分の生活を取り戻したい」という不用意な発言で、現実に起きている大事故と比べて、あまりに不釣り合いな個人のエゴをさらけ出してしまったことだ。・・・ヘイワード氏の失言から明らかになったのは、間違いに気付き、困難の中でも正しく行動する堅実さを、彼自身が持ち合わせていなかったことだ。・・・ヘイワード氏は、前任者の時代に失墜したBPへの信頼を回復できる清廉潔白な価値観を持ち合わせているとして、CEOに抜擢された人物だ。・・・だが、今のところ記憶に残っているのは、弱さをさらけ出したヘイワード氏の言葉だ。世の中には、正しい判断を下す能力がある偉大なリーダーたちがいる。だが、ヘイワード氏の失言の裏に潜む経営者の弱さは、彼らの立派な能力が本当に信頼に足るものなのかどうか、疑問を投げかけるものとなった。】

この記事そのものはそれなりに興味深く、「これまでの実績や発言がどんなに立派な人物でも、事前に予想もできない危機の前では、人間的弱さをさらけ出すことも十分に考えられる。従って企業のリスク対応能力を高めるには、このことも十分念頭に置いたうえでのガバナンス強化が必要とされる」と読み取れば、まさにその通りですし、さらに、「実績があり、力強いリーダーと自他ともに認める人物であっても、自信過剰に陥ることなく自制心を持ち謙虚に考え・行動・発言し、また周りも（ジャーナリズムも含めて）神格化したり持ちあげすぎたりしないように！」という教訓を引き出せると思います。

。。。と感じつつ、私が思ったのは少し違うことで、一口に「リスクマネジメント」といっても色々な見方・側面があるな、ということでした。（以下の、リスクマネジメントに対する３つの視点は、私が仕事などの経験を通じて個人的に感じたことを、それなりのロジックで整理したもので、とくに何かの学問的フレームワークに拠っているわけではありませんので、その旨ご理解ください、念のため。）

まず、コシン教授の論文から抽出されるのは、経営者の資質と価値観が、危機時にどういう形で現れるか、それに関連して経営者の育成と選定をどうするか、さらに、それらを包含するガバナンス（企業統治）体制をどうするかという一連の視点です。いずれも、リスクマネジメントの中でも、危機時にどうするか、という「クライシスマネジメント」の観点からの切り口です。

コシン教授の専門がファイナンスとガバナンスということですから、頷けますね。ただ、私の見方からすると、クライシスマネジメントは極めて重要ではありますが、本質的には、危機時のリスクマネジメントをどうやるかという、いわば（思い切って言えば）「リスクマネジメントのオペレーション（作業・業務）」にすぎないのではないかと思います。

クライシスマネジメントを一つ目の視点とすると、二つ目の視点は、コシン教授のもうひとつの担当であるファイナンスの視点です。世の中のリスクマネジメントの主流の視点は、このファイナンス、すなわち金融や金融工学的アプローチのようですし、それは、リスクマネジメントを語る論客の多くのバックグラウンドが、金融や金融工学であることからもわかります。

それはそれで構わないのですが、私が不満なのは、このファイナンス・アプローチが、投資家の視点で組み立てられており、事業家（=ビジネス・リーダー）の視点が弱いことにあります。

ここで「投資家視点」の私なりの定義をすると、以下の３点になります。。。「事業家視点」との違いを強調するために、あえて少し極端な言い方をします。：

①　個別事業の中身そのものや、それが成功するかどうかには（お金がもうかるかどうか以外の）特段の興味は持たないし、持てるような立場にもない。。。投資したお金に関するリスクとリターンにのみ関心がある。

②　個別事業の個別の（多くの）不確実要因の中身について知る立場にはない 。。。従って、不確実性については、事業ないし企業全体をひとくくりにして、投資のリターンに関するリスクがどの程度か、という、いわゆるvolatility（ヴォラティリティ：市場の変動性/ばらつき/揮発性）という、「事業家視点」ではありえない、事業そのものに対する愛情も熱意も執着もない取扱いになります。

③　①、②と連動し、対象事業や企業の戦略をどうするかについての選択肢を主体的に考え出す立場にはない。。。投資家として、自分たちが経営を任せている経営者に、ちゃんと経営をやらせる、というガバナンスの観点以上の、選択肢についての特段の興味やアイデアを持たない

リスクマネジメントで、私が大事だと思う三つ目の視点は、まさにこの「投資家視点」とは対極の「事業家視点」での、戦略的な不確実要因と選択肢への取り組みです。

少し長くなってきたので、私の意味するところの「事業家視点」の中身については、（続き）という形で、次回に書き継いで行きたいと思います。

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