記事のタイトルに込めた思いに至った、2つの記事(「カイシャの未来 目覚めるシャインたち」という連載特集記事から)をまずは抜すいします。***************************************①[社員の声 聞こえてますか 成長止める物言えぬ組織 知恵と責任、束ねて力に(2023年1月23日付 日本経済新聞朝刊より)]あなたの職場は熱気に満ちているだろうか。それとも閉塞感に覆われているだろうか。事業環境が激変する今、硬直した上意下達の組織は成長できない。やりがいを持って課題に挑む、社員一人ひとりの「個の力」がかつてなく重要になっている。…社員の力を引き出す職場とは何か。答えを聞きに米カリフォルニア州を訪ねた。ウェブサイト構築を手掛ける約120人の会社、クライアントブーストは米国の最高の職場ランキング2022年版で中小部門1位に輝いた。約230万社を掲載する求人サイトが社員口コミから導いた評価だ。創業者、ジョナサン・デインさんの原点は半導体メーカーなどに勤めていた母の嘆きだ。「職場のおかしな点を上司に伝えても何にも聞いてくれない」。簡単な改善策すら採用されず、現場の活気は失われていった。数々の「最低の職場」を反面教師にデインさんが誓ったのは「役職の上下に関係なく意見を奨励すること」。同様に部下に「自由な意見」を求め、空振りに終わる日本企業は多いだろう。率直に発言できる「心理的安全性」の実現は簡単ではないとデインさんは言う。「社員には解雇や報復の恐怖がある。声を上げた勇敢さをたたえ会社のカイゼンにつながっていると行動で示し続けたのです」例えば「契約しかけた顧客の取りこぼしを減らさないと」「納期をもっと短くすべきだ」といった訴えが複数の社員から届いた。重く見たデインさんは「7日間チーム」の創設案を投げかけた。3カ月かかる新規顧客向け施策を、10倍速の1週間でそろえるプランだ。「燃え尽きちゃわない?」「しっかりした工程表が要りますね」。社員たちは再び率直な意見を寄せ、共に改善策を探る。自分の声が生かされる実感が責任感を生む。提案は今や月に50~100件。年間経常収益は2年で2倍の2200万ドル(約30億円)に膨らんだ。…言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」。21〜22年にシステム障害や品質不正が発覚したみずほフィナンシャルグループ、三菱電機、日野自動車の実態調査には酷似した表現が並んだ。断絶は会社を危機にすら陥らせる。東京海上日動火災保険の広瀬伸一社長は22年11〜12月、北は秋田、南は長崎まで5支店を行脚した。真面目なことを気楽に話し合う「マジきら会」に参加するためだ。東京海上ホールディングスが各階層で開くこの会は、役員が参加するものだけで年50回を数える。職場の問題や不満に近いものまで様々な意見が出るが「勇気を振り絞ってくれていて、キラリと光るアイデアもある」(広瀬社長)。②[本音ぶつけ「忖度」死語に 上司に一票、部下にも覚悟(同紙 2023年1月24日付)]経営管理本部長は19・4、物流本部長は18・2ー。機械工具卸大手、トラスコ中山の株主総会は、取締役にとって普通以上に緊張する場となる。課長や支店長以上の社員、約140人からの平均評価がさらされるからだ。…上司のほか同僚や部下も評価に加わる360度評価。2001年導入の同社は先駆けの一社だ。「役員は自分の子分を引き上げたいだけじゃないか」。きっかけは人事会議で中山哲也社長が抱いた疑問だった。「オープンジャッジシステム」と呼ぶ制度は大胆だ。昇格候補者を知る社員全員が投票でき、賛成が8割未満、または最低投票数に届かないと昇格は保留。部課長では7〜8割が一度は保留になる。候補者には投票者が書いた全コメントを伝え、意識改革を促す。12年からは取締役、15年からはパートに対象を広げた。…トラスコ中山の中山社長は手応えの一方で投票制度の弊害を懸念する。「4〜5年前から厳しい指導をしない『お利口さん上司』が目に付くんです。優しいばかりでは仕事にならない」伊藤忠商事は管理職約300人に部下がつけた点数やコメントを伝える制度を持つが、人事評価や処遇には一切反映しない。必要な指導をためらわせないためだ。「厳しく言うべきときは言わなければ。若い世代も壁を乗り越えて成長実感を得たい人が多いと思います」(考査ユニットリーダーの能登隆太氏)狙いは部下の本音に触れ多様な価値観を理解すること。それが「目の前の仕事だけでなく部下の特性を踏まえた育成」につながるとみる。いずれは匿名コメントに頼らず本音をぶつけ、高め合える上司と部下に。そのとき「忖度」という言葉が死語になるだろう。***************************************「本音でものが言える会社」「風通しの良い組織」づくりにより、激変し続ける事業環境に的確かつ柔軟に対応し、多様な特色を持った社員の活力・能力を最大限に引き出し、発揮させる為に様々な企業における先進的取組みを紹介していますね。それぞれ興味深く読み、また「皆さん頑張ってるな」とは思ったのですが、読んでいてず~っと一つの疑問が心の中に浮かんでいました。なぜ、どの会社も、またそういった事例をとり上げ、特集を組むジャーナリストも、こうした一種迂遠なアプローチを好むのか、ということです。紹介された中で唯一の例外は、冒頭のクライアントブーストのデイン氏の事例です。ここではデイン氏が自ら具体的発言と行動でその哲学を社員に浸透させているように感じました。「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」のであれば、「言うべきことを持っている人」はその場で言えば良い。「言わせないような雰囲気をかもしだしたり、実際に封殺する発言をする人」がいたら、その場でそれを、言うべきことを持っている人自身や、まわりの人が即時に指摘すれば良いじゃないか?!なぜ「360°評価制度」や「マジきら会」など、実際の事業や日常の仕事の中での言葉や行動を、都度都度指摘・改善する直接的アプローチをとらずに、間接的・迂遠なアプローチばかり皆さん好きなんだろうね?!という疑問です。問題を変に大げさ/”大局的”(←悪い意味で言っています)にとり上げて、組織改革とか風土変革とかパーパス重視とかやった方が、何か高尚に思えるからなのでしょうか?という疑問です。私からすれば、「言うべきことが言えない背景にある風土や企業文化を変える」ことに取り組むより、「手っ取り早くその場その場で変えていけば、結果として風土は着実に変わっていくんじゃないの!」と考える訳です。過去からの具体的発言や行動の蓄積の結果として風土が形成されているだけなのですから、「その風土の背景にあるものは何か」などという、一見哲学的に聞こえる“高尚”な議論に無駄な時間を費やすより、今からの発言と行動を「その場・その時」に変えていけば、結果的に数年後には、より良い企業風土が形づくられる、それだけの話なのではないでしょうか?!多分、冒頭のクライアントブースト社のような小規模の会社なら、創業者のデイン氏のように「役職の上下に関係なく意見を奨励する」哲学を持ち、それを日常の言葉や行動で実践するトップがいれば、大ぎょうな組織制度や評価システムといったものは必要ないのでしょう。実際、デイン氏は、他の事例と違って、制度導入といった外形症状を修正するアプローチではなく、具体的な言葉と行動で社員に身をもってその哲学を示していった訳です。それが、組織が大きくなるにつれ、「言うべきことをちゃんと言い、言われていないことにも積極的に取り組み発信する」社員を封殺する、上司ポジションの人が次第に出てくる。封殺するそれぞれの上司は専制君主ほどの酷さを持っていなくても、1人1人の5%くらいの封殺傾向が、たとえば100人いれば、例えば1.05の100乗で、 (1.05)100=131倍という巨大な悪さとして現れてくるのだと思います。(1000人になると、もう天文学的な数字になります!)なので、組織が巨大になると、組織変革とか業績評価システムとか風土改革とかいった迂遠なアプローチをとらざるをえない、というのが一般的な考え方だと思います。これに対して私の提案は、こうした迂遠なアプローチではなく、せいぜい100人くらいの企業の、ちゃんとした経営者がやっている、社員の忖度なしの発言を推奨し、各自の自主性を伸ばすような言動を、組織が大きくなっても実行して行きましょう!というものです。もし可能なら、そうした哲学を持ち、それに沿った発言や行動を実際に行った創業者が、すべての職場に常時張りつき、その職場の人達の発言や行動をその場その場で指摘したり助言したりすれば良いと思います。妄想的には、そうした開明的経営者の頭と心の働きを再現するAIが、各職場での助言をするようにできれば良いと思います。しかし今回は、より現実的・実践的アプローチとして、「意思決定を起点とした衆知錬成」を提案したいと思います。具体的には、組織の様々な部門や階層で行われる重要な意思決定の場面で、衆知を破壊するようなパワハラ・モラハラ・セクハラ発言や、意味不明・意図不明な発言に対し、別部署や別階層の人達数人からなる中立的「突込みファシリテーターチーム」を日ごとに配し、都度都度、より建設的なディスカッションができるようサポートしてもらうのです。はじめのうちは、毎回の「突込みファシリテーターチーム」は匿名とし、物理的に離れた場所で、その場のやりとりを視聴し、「突込み」を、画面上のアバターとしてリアルタイムで発言したりテロップを画面に流す等、この人達の「身の安全」を担保しつつ行うのが良いでしょう。重要な意思決定の場面で、こういうことを仕掛けて行けば、そこに参加した人達が「建設的ディスカッション」のやり方を身をもって経験し体得することで、より頻度の高い通常の意思決定の場、ひいては日常的なやりとりにおいても、建設的ディスカッションや衆知を集め練り上げる発言や行動につなげていくことができると思います。以前のブログに書いた「突込みAIファシリテーター アイちゃん」的な考え方です。もともと私は、「質の高い意思決定が企業の価値創造や社員のエンゲージメント向上につながる」という信念のもと、そのためには衆知を集め、練り上げることが重要だという思いを持ってきました。その実現の為の方法論としてディシジョンマネジメント(DM)を提唱してきたのですが、もともとDMは、様々な人達の持つ知識や知恵を構造化することで、納得性が高く質の高い意思決定に導くための方法論です。しかし、DMを実際の企業の現場で活用しようとすると、構造化の前に、
1.困難な課題に当事者意識をもって取り組むための、意思決定の基本リテラシー不足(弱い個病)2.衆知を破壊するパワハラ・モラハラ・セクハラ的発言の横行(衆知破壊病)3.意味不明な発言により、その場に参加する人達の知識や知恵のほとんどが活用されて行かない、もったいない状況(意味不明病)
などの症状、とりわけ2と3の症状が非常に多くあることを、身をもって苦い思いで経験してきました。そのため、質の高い意思決定の為に、そのインフラとなる「衆知がちゃんと集まり、自由に各自のアイデアや思いがやり取りできる場づくり」が重要ということを強く思うに至りました。ここで私の発想は、世の多くの人達とはちがい、組織風土とか業績評価といった迂遠なアプローチではなく、重要な意思決定やそのためのワークショップの場面の、その場その場での具体的発言と行動を変えていくアプローチに向かいました。重要な意思決定の場面ほど、こうしたコミュニケーション上の問題がクリアに浮かび上がり、従って、その場で即時にそうした発言を修正することが、人々に自由で活発なコミュニケーションの重要性や具体的なコミュニケーション改善の有効性を明確に認識させることができ、インパクトが大きいからです。加えて、重要な意思決定課題でそれらがなされれば、意思決定の質が直接的に改善され、結果として大きな事業価値創造につながること必定なので、一石二鳥です。以上、このテーマについてのパッションが強すぎて文章が舌足らずのところが多く恐縮ですが、ご理解頂き参考にしていただけるとありがたいです。このブログ記事の問題意識は私の中で非常に強いので、今後またこのテーマで続編を書いて行きたいと思っています。その意味で、今回のブログタイトルの最後に「…(1)」と付け加えました。続編の(2)、(3)…もまた、楽しんでお読みいただければ幸いです。
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