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「顧客第一主義」とか「ユーザーエクスペリエンス（UX）」とか「顧客への徹底的価値提供」は、実態としてどの程度できているのでしょうか？…個人的な実体験から思ったこと

カテゴリー: エッセイ・論説 2022 年 9 月 5 日 コメント(0)

企業価値向上に向けて極めて重要とされる「顧客体験（ユーザーエクスペリエンス）」ですが、その原点である現場の知見が、経営にどう生かされているのでしょうか？まだまだ改善余地が大きいように感じます。

これを感じる発端となった、この7月にあった、仕事で使っているデスクトップパソコン（PC）が故障したときの苦い経験の顛末をざっと紹介してみます。（以下、企業名は、実際の頭文字のアルファベットをそのまま表示すると、だいたいどの会社か推定できてしまうのでS/T/U…という架空の表示にしておきます。）

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７月上旬、２０１９年に約２０万円で購入したS社のデスクトップPCを使っていたところ、突然画面が暗転して（正確な表現がわからないのですが）いろいろグルグル動いた末に、「ハードディスクに機械的なトラブルの可能性があります」云々の表示が出て、止まってしまいました。

実は、昨年の８月頃にも多分今回と全く同じトラブルが生じて、その時はS社に引き取り修理（ハード部分の取り替えだったかと思いますが）をしてもらい、なんだかんだで約１ヵ月かかりましたが、その後は一応順調に動いていました。しかし、その後１年もたたないうちに同じトラブルに見舞われたことで、また仕事がたて込んでいた際中でもあり、かなり腹が煮えました。（「腹が立つ」より、もっと心中煮えくり返る感じだったので、この表現を使います。）

前回の故障時は、契約保障期間内だったので無償修理だったのですが、今回の場合は保障期間が２ヵ月前に終っているので、粗見積りで（詳しくは実際に修理に出して、S社の修理センターでモノを見てみないとわからないが、とのことでしたが）、６万円弱ということで、全く納得がいきませんでした。

その不満は以下の通りで、これを修理センターの窓口（コールセンター？）の人にぶつけてみました。

・昨年も同じトラブルで修理をしてもらったにもかかわらず、１年もたたないうちに故障が生じた

・今回、購入金額の１/３～１/４に相当する修理代を支払っても、また１年もたたないうちに同じ故障が出る可能性を強く感じる

・もともとPCの金額としては、同じスペックでは他社製のものよりも相対的に割高なS社製PCを購入したのは、S社製なら故障の確率も低く、また万が一故障したとしても、手厚いサポートがうけられると期待したためだった

・それが2年ちょっとで故障し、かつ修理後１年もたたないうちに同様の故障が起きた

・今回約６万円かけて修理しても、短期間のうちにまた同じトラブルが生じることが強く懸念される

・もともと、前回の修理で一見故障が直ったように見えたが、根本原因がほかにあるのではないか？

・６万円かけて修理するなら、このあたりについて納得できる説明が欲しいが、如何？

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ざっとこんな感じのやりとりをしたのですが、コールセンター担当者からは「前回の修理できちんと動作確認はしていますので、今回の故障は別扱いになります。保障期間は既に過ぎていますので今回の修理は有償となります」の一点張りで、私の腹の煮えはおさまりませんでした。

担当者の口調と言葉はあくまでも丁寧で、ひたすら申し訳ない風のトーンでしたが、こちらがこれ以上何を言っても、S社側の対応は全く変わらないということが明白だったので、「２～３日考えて修理に出すかどうか決める」旨を伝えて、電話を切りました。（念の為、申し添えますが、以上の「腹煮え論点」を担当者に伝える際、クレーマー的発言にならないよう、できるだけ腹煮えを押さえ（とはいっても、その感情は先方には伝わったでしょうが）、また相手もマニュアル通りに応答するだけで、それ以上のことを言う権限は与えられていないのだから、あまり強い口調で言うのは、人としてしのびないとも思ったので、できるだけ冷静に話すようには心懸けました。）

結局、購入から３年ちょっとしかたっていませんでしたが、Ｓ社製PCは廃棄処分することとし、私の中では故障確率とサポート対応の面でＳ社と同等と思われるＴ社製PCを２５万円ほどで購入することとしました。

結局はT社製でも同じようなトラブルが起こるにしても、少なくとも腹が煮えたままS社製PCとつきあうのは「まっぴらごめん！」という感情からの判断です。（今現在T社製PCは、Windows１１が搭載されているので、使い勝手面で多少まごつくことはありますが、一応順調に動いています。S社製PCで懲りたので、期待度は高くしないように心の準備をしつつ、です。）

ことの顛末が長くなってしまいましたが、今回の経験を通じて、企業の「顧客第一主義」とか、「顧客への徹底的価値提供」とかいっても、その原点となる顧客体験（ユーザーエクスペリエンス）を担う現場の実態は意外と大したことないんだなあ、と感じました。

だからこそ顧客への価値提供レベルやサービス追求がすごい、という企業が例外的事例や美談としてビジネス誌や論文で取りあげられる。つまりそれらはあくまで例外で、大半はそんなレベルの価値提供もサービスもなされていないのが、多くの企業におけるビジネスの基本のやり方なのではないか、ということです。

ここから、以下のような相異なる仮説が（全くMECE：網羅的でも相互排他的、でもありませんが）頭と心に浮かんできました。

①企業の上層部は本気で顧客第一主義とかサービスレベル向上を目指しているが、同時にコスト削減による利益確保・拡大を現場に課している。しかし、この（多くの場合、相対立する）２つの連動性を十分理解した上での指示やKPI設定になっていない。結果として、現場では「顧客第一主義とか言ったって、結局お題目だけでしょ。コスト削減目標を達成できなければ、自分達の給料やボーナスに直接響くけど、不満を持つ客を無視しても自分達は痛くもかゆくもない。応対の言葉が乱暴だったりすると、クレームが入って上司に怒られ、給料・ボーナスに響くけど、とにかく丁寧な言葉と恐れ入った風の対応さえやっとけばいい。第一、製品に問題があるとしても、それは開発部門や製造部門の責任で顧客対応窓口担当の自分の責任じゃないもんね！…」という感じの実態。

②上層部も、現場の実態をうすうすは知ってはいるが、目先の業績に一番効くのはコスト削減目標達成を現場に徹底的にやらせること。従って、たとえ現場から「現場ではこういう顧客の不満が出ている。一現場では何ともできないが、会社全体として何とかすべきではないか」という問題提起があったとしても、できるだけかかわらないようにしている、ほおっかむりをしている。そして、外部への発信の言葉だけは「顧客第一主義」云々と美しい言辞を吐き続ける。結局現場は、それがトップ層の暗黙の本音と理解・そんたくして、青臭い本質論の問題提起などせず、「給料分、上から文句言われない程度に仕事をしていればいい。幸いにも、あと数年はこの会社、潰れそうにはないから」ということで、いわゆる「社員のエンゲージメント」はどんどん下がっていく。

③上層部も、現場も、会社全体の本音として「顧客第一主義」とか「顧客への徹底的価値提供」など思っておらず、こうした発言や、それらしく目立つ施策を時々打つことでブランドイメージをできるだけ高め、顧客の不満や不満足は「見切って」、利益拡大を目指している。

つまり今回の私のような不満を持つ顧客が一定確率で存在し、それらの顧客が離脱して他のメーカー（Ｔ社やＵ社、その他に行ったとしても、サービスレベルを上げるための施策実施によるコスト増を招くよりも、利益上は有利、従って無視する。またそのような顧客が一定数いたとしても、結局離脱先のT社やU社のレベルも同じようなものなので、T社やU社に落胆した顧客が同じくらいうちにくるので、結局会社としては言葉だけ丁寧にしておけば十分、という割り切り。かなりの数の日本の顧客は、業界の中で、うち（S社）やT社やU社には、製品品質もサービスレベルも高い、という幻想をいだいているので、その分低価格を売りにしているV社やW社などより、高い価格がとれている。実際、今回のような故障の確率は（V社やＷ社に比べれば）ある程度低い上に、小規模顧客（消費者ないし小規模企業）が生涯に購入するPCの台数はせいぜい数台で、その間S/T/U社で顧客をたらいまわしにしておけばよい。

④一方、価格優位性に優れたV社・W社あたりだと、「そもそもPCなんてものは、数年で故障するのはあたりまえ。技術進歩も早いので、３〜４年のうちに、故障が出ても出なくても買い替える顧客が多い。なので、顧客にはサービスレベルも品質も『まあそんなもん。故障が出たら運が悪かった』とあきらめ、割り切ってもらいたい。その分、価格はおさえてるので、我が社としては、そういうお客さんに来てもらえばいい」「過度な期待をいだくような、ナイーブな（無知な、うぶな）顧客は無視しよう」と割り切っているのかもしれません。

以上、色々書いてみましたが、結局デスクトップPCについては、T社製のPCを購入し、今回は保証期間５年の延長契約をしました。少なくともその期間は、故障せずに機嫌よく働いてくれることを祈っています。もし運悪くダメになった場合は、完全に割り切って品質にもアフターサービスにもあまり期待せず、価格が低めのV社/W社のを購入するかもと思っています。（私はこれまで、V社やW社の製品は購入したことがないのですが、もしかすると今回のS社の品質や対応より数段悪いのかもしれませんが、その時は「PCなんてこんなもの」とあきらめることにします。）

その間は、昨年のS社製PCトラブルの際、バックアップ用に購入した、やはり品質とサービスに期待がもてる（と今は思っている）U社製ノートPCが同時には壊れないことを祈っています。

①〜④の仮説のどれがどの程度当たっているかは、よくわかりません。それぞれの企業がどういったスタンスでユーザーエクスペリエンスをとらえるかは、それぞれの企業の哲学的価値観（＝いくつかの価値判断尺度のうち、どれをどの程度重視するかの判断・嗜好）に照らして判断するのであり、彼らが法や社会規範をおかさない範囲で③のような判断をするとしても、それはそれでよいのかもしれません。

しかし、もしそれが消費者や潜在顧客に感知されることになると、相当数の人は、多分「なるほど。この会社はこういう会社なんだな。だったら、これからは、この会社の製品・サービスは、多分買わないだろうな…と思い、行動に移すでしょう。

ここまで考えてきて、昔はじめて米国に住んだころの電球や車のことを思い出しました。日本では家の電球や自家用車は、そんなにしょっちゅう壊れるものではないと思っていたのですが、米国に住んでみると、電球はしょっちゅう壊れて買い替えるものだし、車もしょっちゅう壊れて（ちょっとした故障なら）自分で修理するのが当然というものでした。

アメリカのメーカーはそういう方針で製品をつくり、顧客もそういうもんだと、ある種納得していたのです。

ところが、当時から急速に、日本メーカーが、めったに壊れない・故障しない製品を、しかも手ごろな価格で投入していったので、GEやGM・フォードなど米国メーカーは大きくシェアを奪われたのです。

そこで、アメリカのメーカーも、これに対応して品質改善にとり組み、結果として電球や自動車その他の製品に対する顧客の満足度は上がっていきました。

そうした動きの中で、自動車メーカーのフォードが「Have you driven Ford recently?」というTV広告を流していました。

どういうことかというと、「Ford車はしょっちゅう故障するのが当たりまえ、と皆さん思ってたでしょう。でも、最近は違うんですよ。ぜひ（めったに）故障しなくなったFord車を、次の購入の際の候補リストに入れて下さい！」という意味なのです。

当時のアメリカのメーカーの経営者にしてみれば、「別にお客さんは、電球や車はそこそこ故障するのが普通。そんなもんだと思ってくれてたのに、業界常識を知らないナイーブな（無知な、うぶな）日本メーカーが、価格が手ごろで品質の良い製品を投入したんで、こっちは大迷惑だよ」と思ったことでしょう。

しかし、業界全体がこうした「あぐらをかいた経営」や「顧客をなめた態度・接し方」をしていると、門外漢の企業によっていきなり、かつての日本メーカーの米国市場参入のような、業界常識や掟の破壊が起こるものなのです。

それこそが、ある種「社会正義」だと思うのですが、残念ながら世の中は、「社会不正義」が常識になっている期間が長いのも事実のようです。

S社製デスクトップPCでの苦い経験から、いろいろ書きつらねましたが、皆さんの属する/関係する業界や企業の状況はいかがでしょうか？顧客体験の原点である現場の知見が、経営の上層部にきちんと伝えられ、企業組織一体となって顧客価値向上に努めているか、いま一度胸に手を当てて真摯に考え取り組んで頂ければと思います。

感想やコメントなど、このHPの問い合わせメールアドレスまでお寄せ頂ければ幸いです。

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