【未来の可能性を最大化する】ディシジョンマインド社は研修やセミナーを通してみなさんの経営戦略に必要な意思決定力の向上を支援する会社です

最近届いたスタンフォード大学のOB会誌に面白い記事が載っていたので、感想とともに紹介してみます。｢言語は思考を形作るか？・・・｣といったタイトルで、Lera BoroditskyというStanford大学の研究者の研究成果を紹介していました。二つほど面白いと思ったトピックを記してみます。

①ある人がテーブルの上のティーカップを、誤って落として割ってしまった場合、英語では、たとえわざとでなくとも、”She broke the cup”という言い方をするが、日本語やスペイン語では、｢カップが割れた｣という言い方になる。後者では、本人が意図的にやった場合のみ、｢彼女はカップを壊した｣と表現する。

これ自体はMs. Boroditskyの発見では勿論ないのですが、彼女の研究の主題は、こうした言語表現やとらえ方の違いが、同じ現象を見たり経験した人達の思考方法や認識に影響を与えるか否か、ということで、彼女のこれまでの研究では、それまでの主流派の学説とは異なり、答えはYES、ということです。その一例として挙げられていたのが次の②のトピックです。

②英語には（他の多くの言語と同様に）時制があります。つまり、ある人がサッカーボールを｢蹴ります｣/｢蹴りつつあります｣/｢これから蹴ります｣/｢蹴りました｣といったように、現在形/現在進行形/未来形/過去形を言い分けます。”The man kicks the ball”, “the man is kicking the ball”, “the man is about to kick the ball”, “the man kicked the ball”ということです。ところが、インドネシア語では、これらはすべて、”the man kick the ball” となり、時制の区別をしないのだそうです。

ここからが実験なのですが、何人かの人が時制の異なる状態でボールを蹴る写真を見せ、｢どの写真とどの写真が似ているか｣という質問を、英語言語の人たちとインドネシア言語の人達に尋ねたのだそうです。結果は、英語言語の人たちは、時制状態が同じ写真を見て｢似ている｣と言い、インドネシア言語の人達は、時制状態にかかわらず同一人物が映っている写真を｢似ている｣と言ったそうです。

この実験からMs. Boroditskyが導き出した洞察は、｢使う言語により、何を区別の主要切り口（。。。彼女はdistinctionという言葉を使っています）とするかが異なる、ひいては、それが物事の捉え方（。。。Frameという言葉を使っています）の違いにも影響を及ぼす｣、ということです。

この見方は、学会の主流派のこれまでの考え方に大きく反するのだそうで、逆にそのこと自体が私にとっては意外な感じであり、Ms. Boroditskyの見解の方が、｢ああ、やっぱりそうなんだ｣と極めて自然に感じられました。皆さんも、英語ではずいぶん細かく区別するところが日本語ではあまり細かく区別しないな、とかその逆のことを感じたことがあるのではないかと思います。

 

さらに、ここからは私の考えなのですが、Distinctionの主要切り口やフレーミングの仕方は、同じ言語を話す人たちの間ですら、全く同じということはない、と思います。最近まさにそれを感じたエピソードを一つ紹介してみます。：

先月、私が現在進行形でお手伝いしている、あるディシジョンラボのワークショップでのことです。3チームがそれぞれの戦略課題に取り組み、各チームとも、戦略代替案づくりの作業に取り組むフェーズだったのですが、そのうちの1チームで、ストラテジーテーブルの基本骨格を作ったところから、なかなか複数戦略テーマの設定への進みが遅いのです。

ディシジョンラボのワークショップでは、私は各チームの作業部屋を順番に回りながら助言をして行くのですが、二時間近く前に回った時から、ずっと｢どの意思決定項目を切り口として、あるいは何を戦略テーマ設定の切り口として考えるべきか｣の議論をしていて、具体的な戦略テーマ設定になかなか進めないのです。

ある人は「やはりどの市場を狙うか、が一番大事だ」と言い、二人目の人は「今回は技術革新が鍵なのだから、技術を切り口として考えるべき」と言い、三人目の人は「要は、経営とは経営資源をどう使うかなのだから、投入経営資源の多寡を中心として戦略テーマの設定を行うべきだ｣・・・、という具合です。

こうした議論を、ある種｢心行くまで｣議論することで、出てきた複数の戦略テーマへの納得感も高まり、またディシジョンマネジメントの方法論への理解も深まるので、このまま議論を続けてもらうのも良いか、とも思ったのですが、夜もだいぶ更けてきており、このままだと日付が変わってしまう可能性もあると感じ、口を出すことにしました。

言ったことは：　｢戦略テーマの設定の切り口をどうするかについて、絶対的な『こうあるべき』はありません。人によって何を主要切り口とするかは違うし、違っていて当然。それぞれの人の見方は全てそれぞれ正しいのです。従って、これ以上この『べき議論』を続けるより、各自、自分にとってもっとも心地よい/こうあるべし、と思う切り口から戦略テーマの設定を行い、そのあと、それぞれの考えを披歴しあい、共有していったらどうですか？」。。。要は、最終的に、複数の異なる特色を持った、それぞれに魅力的な戦略テーマの設定ができればいいのですから。

さらに、この作業を効率的に行うため、各自に色の違うポストイットを渡し、各自の一押しの戦略テーマを、ポストイットを使って、ストラテジーテーブルの中の、選択する各戦略オプションのところに貼って行って表示する、というやり方を助言しました。結果は、その後の約30分で、3つの特色ある戦略テーマの設定が、チームメンバー全員の納得感を持って、でき上がりました。

 

 

少し先日のディシジョンラボのスペシフィックな内容に入りすぎたかもしれませんが、ここで私が言いたかったのは、言語により、さらに個人個人により、何を主たるdistinction（区分の切り口）とするか、物事をどうとらえるかは違ってくるし、それで良い、したがって、自分のdistinctionやframeが唯一絶対の正解と考えるべきではない、ということです。「自分のdistinctionやframeが唯一絶対の正解」と考えた瞬間に、他人や他国に対する許容度・理解度が極端に落ち、偏狭な考えに陥るからです。

これを防ぐには「人により、国により、言語により、様々な主要distinctionやframeがあり、唯一絶対の正解などない。従って、それを大前提とした上で、様々な人や組織や国の衆知を集めて議論し、できるだけ全員が納得いく優れた戦略・結論を作っていく努力をするべき」と考えておくことだと思います。

☆このブログ記事は軽い気持ちで書き始めたので、｢日常雑感/プライベート｣のカテゴリーに載せたのですが、結局は少し重っぽい内容となってしまいました。。。反省！