ブログ記事更新が随分と開いてしまいました。年末から年始にかけて2週間ほど海外に出ていて、その後いろいろバタバタしていて書けず&まだバタバタは続いているのですが、さすがに「1月のエントリーなし」は避けたいと思い、1月最後となる今日、先日読んで印象に残った本について読後独語の記事を書くことにします。 ハジュン・チャンという韓国出身の人でケンブリッジ大学で教えている気鋭の経済学者の本ですが、私が普段、「世間や権威らしき人たちがいろいろ言ってるけど、本当は違うんじゃないの?!」と感じていることを、ズバッと明解に言ってくれている好著だと思いました。「23の嘘」のうち、とくに印象に残った内容をいくつか紹介してみます。 第2の嘘「株主の利益を第一に考えて企業経営せよ」。。。だが真実は—–株主の利益を最優先する企業は発展しない⇒株主は会社の所有者かもしれないが、最も移動しやすい身軽な利害関係者なので、会社の長期的未来を最も気づかわない人々になる場合が多い。・・・したがって株主、とくに小株主は、短期の利益を最大にする企業戦略を好む。その種の戦略は・・・会社の長期的な成長力を・・・弱めてしまう。株主のことを第一に考える企業経営は、会社の長期的な発展をそこなうことが多い・・・ 第4の嘘「インターネットは世界を根本的に変えた」。。。だが真実は—–洗濯機はインターネットよりも世界を変えた⇒・・・わたしたちはいちばん新しいものを最も革命的なものだと見なす傾向がある・・・インターネット革命は・・・洗濯機をはじめとする家電製品が起こしたほど大きな経済的・社会的変化をもたらしていない。洗濯機などの家電製品は、家事労働を大幅に減らして、女性を労働市場に入らせ、主婦という職業を事実上消滅させた・・・ 第9の嘘「世界は脱工業化時代に突入した」。。。だが真実は—–脱工業化時代は神話であり幻想でしかない⇒ほとんどの人が工場ではなくオフィスで働いているという意味では、わたしたちは脱工業化社会に生きているのかもしれない。しかし、世界は工業が重要でなくなった「脱工業化」という発展段階に突入したわけではない。国民総生産に占める製造業の比率の減少のほとんどは・・・、製造品の絶対量の減少のせいではなく、サービスと比較して製造品の価格が安くなったためである。この現象は製造品の生産性(一定の投入量当たりの生産量)の向上がサービスのそれよりも速いために起こっている。・・・発展途上国は工業化の大部分を跳び越して、一気に脱工業化段階に入れるという考えにいたっては、現実離れした空想でしかない・・・ 第14の嘘「経営者への高額報酬は必要であり正当でもある」。。。だが真実は—–アメリカの経営者の報酬はあきれるほど高額すぎる⇒アメリカの経営者の報酬・・・まず、先輩たちの報酬にくらべて高すぎる。・・・今日のアメリカのCEOは1960年代の先輩たちより10倍も多い報酬を受け取っている。相対比較で、60年代の会社の業績のほうが今日の会社のそれよりずっと良いにもかかわらず・・・さらに・・・高額すぎる報酬を受け取っているだけでなく、業績を悪化させても罰をうけないという意味で、保護されすぎている・・・アメリカの経営者階級は、強大な経済的・政治的・思想的力を獲得していて、そうした力を操って自分の報酬を決めることができるのである・・・ 第15の嘘「貧しい国が発展できないのは起業家精神の欠如のせいだ」。。。だが真実は—–貧しい国に住む人々は、起業家精神を大いに発揮しなければ生きていくことさえできない・・・貧しい国を貧しくしているのは、個人レベルでの起業家精神の欠如ではなく、生産技術や発達した社会組織(とくに現代的企業)の欠如のせいである。・・・マイクロクレジット(起業援助という明白な目的のもとに途上国の貧困層に貸し付けられる小額ローン)の問題点がどんどん明らかになってきているのも、個人レベルでの起業家精神の限界を示している・・・ 第16の嘘「すべて市場に任せるべきだ」。。。だが真実は—–わたしたちは市場任せにできるほど利口ではない。市場参加者はかならずしも自分が何をしているのかよくわかっているわけではない・・・人間というのは、能力に限界があって、自分に直接かかわることでも、きちんと理解することができないときがある・・・したがってわたしたちは、立ち向かわなければならない問題の複雑さを減じるために、意図的に選択の自由を制限する必要があり、通常はそうしている。政府の規制、とくに現代金融市場のような複雑な領域への規制が、効果を発揮することが多いのは、政府が優れた知識を持っているからではなく、政府が選択を制限することによって、当面の問題の複雑さを減じ、不都合なことが起こる可能性を小さくしているからである・・・ 以上の抜粋だけではよくわからないし説得力もないと思いますが、(ほとんどのケースで)それぞれのメッセージの論拠が説得力ある形で示されており、納得感があります。この本を読んでみての私の感想は、 ①「世間や権威らしき人たちがいろいろ言ってるけど、本当は違うんじゃないの?!」と私が感じていたことのかなりの部分は当たっていそうだと思えたこと ②「世間や権威らしき人たちがいろいろ言ってるけど、本当は違うんじゃないの?!」と現実感覚・肌感覚で思ったら、その感覚を大事にすること ③「世間や権威らしき人たちがいろいろ言っている」ことでも決してうのみにせず、自分の持っているファクトや経験・観察をベースに地頭で考えるのが大事だということ ④とくに世間や権威らしき人達が言う「あるべき方向性」や「原理原則」なるものを教条主義的に奉ずることなく、個別具体的に判断・意思決定すべきだということ といったことです。 最終的には、様々な見方、見識・知識をもった異なる人たちの衆知を結集してものごとに取り組むことの重要性、そこにディシジョンマネジメントを活用することの意義・有効性、という私のいつもの主張にベクトルが向いてきましたが、紹介したこの本は、読者の方々にも参考になる好著としてお薦めです。 新年最初のブログは、読後独語の軽い記事になりましたが、この一年も折に触れてブログ更新をしていきますので、楽しみにしていて下さい。では今年もよろしくお願いします!
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