先日、ダニエル・ピンク著「人を動かす、新たな3原則(TO SELL IS HUMAN)」という本を読みました。その中に面白い視点が書かれていて「なるほどね!」感を持ったので、ご紹介します。 この本は訳書の副題に「売らないセールスで、誰もが成功する」とあるように、旧来的な「売り込み型」でない方法で顧客を買う気にさせる方法について書かれているのですが、その中の一節でAttunement(視点取得/同調)の重要性を述べていて興味深かったので、以下に抜粋してみます。 ******************************************** ・・・自分が力を“持たない”立場だった・・・ほうが、「自分を取り巻く状況に同調しようとする。・・・自分が相手よりも低い立場にいると最初から想定して、人と向かい合う。他者の視点をもっと正確に理解できるようになり、他者を動かすことにも資するようになる。けれども、誤解してはいけない。他人を動かす能力とは、お人よしになることや、聖人級の無私の精神を示すことではない。 ・・・社会科学者は、視点取得と共感を二卵性双生児とみなすことが多い—非常に近いが、完全に同じではないからだ。視点取得は認知能力で、主に思考に関するものだ。共感は感情的な反応で、主に感情に関するものだ。・・・は、人を動かすという点ではこのうちの一つの方が効果的であることを突き止めた。 ・・・共感も有効ではあるが、視点取得ほどではなく、「創造的解決策と自己利益の両方を見出そうとすると不利になる場合もあった」・・・深い共感・・・必ずしも正しい答えにはならない。自己の利益が後回しになりかねないからだ。両者とも好ましい状態に収まるように自分自身を調整し同調させられるのは、視点取得のようだ。対峙する二者の関係を適切に定めることができるからだ。一方、共感は、継続的関係の構築や対立緩和に役立つ。 ・・・共感はそれ自体に価値があり、道徳に則る。だが、他人を動かすという点に関していえば、共感よりも視点取得のほうが効果的だ。研究者らが指摘するように、最終的には、「相手の頭の中に入り込むほうが、自分自身の心の中に相手を入れるよりも、利益をもたらす」のだ。・・・ ******************************************** Attunement(視点取得/同調)とEmpathy(共感)の違いの認識、「相手の頭の中に入り込むほうが、自分自身の心の中に相手を入れるよりも、利益をもたらす」というのは、目からうろこでした。この二つを区別して考えたことがほとんどなかったからです。 私は多くの日本人同様、かなり「共感」派で、したがって共感できる人とはうまくやって行くことができ、そのためには相手のバックグラウンドを様々なやり取りを通じて理解しようとしてきました。これまでの自分の経験から、最初に共感を持てない原因の大半は、異なる(無意識の)前提や経験に起因すると考えるようになったからです。 そして基本的には、相手のバックグラウンドを理解した上でも共感を持てない相手に対しては、“No Deal”で、互いに恨みっこなしでそれ以上の関わりをもたない、というやり方をとっています。 私の場合は、それがかなりの程度可能な状況なので、このやり方でほぼOKなのですが、状況によっては、そうでない場合も多々あるわけです。 例えば国と国との交渉や企業と企業のもめごとなどの解決・調整では、どんなにバックグラウンドの理解を深めても共感を持てない相手がいたり、たとえ本質的には共感可能な相手であってもそこまで理解を深める時間的余裕がない場合があります。 そのような状況では、「共感アプローチ」よりも、むしろこの「視点取得」アプローチが極めて有効だと感じました。 また、本来的には共感可能な相手であっても、「共感」アプローチ 一辺倒だと、利害調整の場では「お人よしは損をするばかり」になって、結局相手に対する「ムカつき感=共感の崩壊」になりかねないので、共感と視点取得の両方のアプローチが重要なのだと思います。 私としては、今後は自分の「共感」アプローチは個性として大事にしつつも、「視点取得」アプローチを同時に心がけようと思っています。 そして読者の皆さんの大半の方々も同様だと思うのですが、共感アプローチだけでは渡って行けない厳しい・世知辛い社会、とりわけグローバル化の現実の中では、得意の「共感」アプローチを大切にしつつも、一方に「視点取得」アプローチを携えて元気に前向きに逞しく生きて行きたいものですね。 よりポジティブな言い方をするなら、【短期的には「視点取得」で交渉し、長期的には相互の「共感」醸成に努める】ということだと思います。 P.S. もともと私の提唱しているディシジョンマネジメントは、「共感醸成」に非常に役立つものなのですが、必ずしも「話せばわかる間柄同士」ばかりでない場合も想定して、「視点取得による同調」も加えて適用して行けば、より有効&強力に活用できると感じました。
スパムが非常に多いため、一時的にコメントは受け付けないように設定しました。コメントを頂ける方は、CONTACT USにある当社のメールアドレスまで直接お寄せ下さい。