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読後独語－「イノベーションは日々の仕事のなかに　価値ある変化のしかけ方」（パディ・ミラー、トーマス・ウェデル＝ウェデルスボルグ著）を読んで

カテゴリー: エッセイ・論説 2018 年 9 月 1 日 コメント(0)

尊敬する先輩に勧められて読んだ本の2冊目の読書感想文です。

この本の主張は、イノベーションを生み出す「5つの行動+1」、即ち、次の6つをやろう、ということです。

1.　フォーカス
2.　外の世界とつながる
3.　アイデアをひねる
4.　アイデアを選ぶ
5.　ひそかに進める
6.　あきらめない

「イノベーションは特別の人達が、誰もが思いつきもしなかったアイデアや奇抜な取り組みから生まれる」という一般に抱かれているイメージを打ちくだき、もっと普通の人達が普通の状況の中で、ただしイノベーションが起きやすい環境を継続的に用意していくことから生まれてくる、という考えです。

天才の存在に頼らず、普通の人達のチームワーク／衆知錬成が偉大なことを成しとげるというディシジョンマネジメントの考え方と通底するので、全体として好感を持って読みました。

以下に、本全体の論調との整合性は気にせず、私が印象に残ったフレーズをいくつか紹介してみます。なお各項目で「⇒」以下の太字の文章は、それぞれに対する私の感想・コメントです。

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アイデア探しは、組織の戦略的ゴールと結びつけなければならないということだ。『アイデアを出してくれたまえ』とただ呼びかけても意味がない。・・・組織が直面している戦略上の問題を示し、そのための解決策を探るよう呼びかけなければならない。・・・思いついたアイデアを何でもいいから提案させるのではなく、アイデアを探す領域を絞り込み、「会社が求めるアイデア」という制約を付けた上で提案を呼びかけるのである。「アイデア募集。ただし以下の条件に合致するものに限る・・・」

⇒その通りだと思います。単なるアイデア出しの呼びかけだと、ゴミ箱行きのアイデアばかりになる可能性大です。ディシジョンマネジメント的にいうと、戦略着眼ポイント付きの戦略課題リストを作成し、それらを中心にアイデアを集めることが重要、ということになるかと思います。

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大成功を収めてきたアップル・・・ウォルター・アイザックソンの『スティーブ・ジョブズ』（講談社）に登場する象徴的なエピソード・・・ジョブズはピクサーのオフィス設計時、建物の中心にトイレを設けることで、部署の異なるスタッフ同士が自然とそこで交流できるような環境を作ったのである。

⇒日本企業での「たばこ部屋コミュニケーション」はよく知られた現象ですが、偶然のみに頼ることなく、様々な工夫の余地はありそうですね。飲み物や軽いスナックなどが無料で用意された、オフィスの中の喫茶スペースは、私自身も経験しましたが、コミュニケーション促進や異分野のスタッフの触発によるアイデア出しにとても有効だと思います。経費節減とは逆方向の打ち手になりますが、イノベーションの源になり社員のモティベーションアップに役立つと考えれば、十分にリターンの大きい投資だと思います。

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・・・新たなアイデアがどこからやってくるの・・・それは、人々が新しい外部の情報源と体系的につながりを持った時に生まれるのである。どんなに優秀な人でも、毎日同じ場所に座って動かず、他人と同じ情報源だけを利用していれば、オリジナリティあふれるアイデアを思いつくことはできない。
一方、新たな物の見方や場所に定期的に触れる人は、より良いアイデアを思いつくチャンスが飛躍的に増す。そのためには、知らない人と会う、顧客と話す、海外に滞在する、異業種に触れる、異文化を体験する、読んだことのない本に挑戦する、なじみのない分野について勉強するといったことが必要だ。あるいはオフィスを離れるだけでもいいだろう。

⇒私は仕事のスタイル上、これらに近いことを、そこそこやっています。企業や組織に勤める方には、就業時間中に仕事と関係ない場所に身を置いたり仕事と直接関係ない人と交流するなどは—–私は「戦略的サボり」と名付けていますが—–、なかなか難しいかもしれません。しかし、あえて「戦略的サボリ⇒顧客や会社に、より貢献できる自分になるための戦略的放浪・交遊！」と位置づけ、「戦略的」という言葉を使うことで自分自身の中で正当化して、是非トライしてみては如何でしょうか？！私自身の経験からいうと、一つか二つ、何か頭と心の中に懸案事項・問題意識を抱えている時の方が、戦略的サボリの中でクリエイティブなアイデアが出てくる可能性が高い気がします。先に述べた戦略アジェンダを設定した上でのアイデア出しが有効、というのとつながっているのだろうと感じています。

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・トレンドにアンテナを張る
毎週のミーティングの際に、メンバーが見つけた新たなトレンドやアイデアを1枚のパワーポイントにまとめ、2分間でプレゼンするのを習慣にしてはどうだろう。発表者を持ちまわりにすれば、メンバー全員がアイデア探索も行えるはずだ。

⇒このやり方、職場の数人のチームで、早速トライしてみては如何でしょうか？！

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「わが社では、新たなオンライン・サービスの開発を目指す企業への開発サポートを行っている。クライアントだけだとどうしても付加価値や競争優位性、ユニーク・セリング・プロポジション（USP）について延々と話し合いを続けがちで、結論が出ないことがある。そういう場合は彼らがアイデアの核となるものをつかめるよう、ウェブサイトの『実物大模型』を作ってみせることにしている。この模型を使い、『御社のキャッチフレーズを7単語以内で考えてみてください』とクライアントに促す。そこでようやく、本当の意味での話し合いが始まることになる。
つまりプロトタイピングは、イノベーターに製品の姿を明確に捉えるきっかけを与えるものだと言える。実物大模型さえあれば、潜在顧客や提携先にどんな製品か見せ、開発プロセスを容易に進められる。

・・・プロトタイピングがわずかなコストで安全にできるアイデアであれば、解決策の試行錯誤に重点を置くのが適切だろう。反対に、むやみな試行錯誤には向かないイノベーションもある。試行が困難な、あるいは危険なアイデアの場合、もしくはいったん変更を加えたら元に戻せないアイデアの場合、事前のテストに移る前にまずは問題を深く掘り下げるほうが理にかなっている。弾が1発しかない場面では、「構え、撃て、狙え」式のアプローチ（「構え、狙え、撃て」ではなく）はあまり適切とは言えない。

⇒プロトタイピングついては、私がディシジョンラボでお手伝いする新規事業提案課題では、オンラインサービスを開発するような場合と違って、文章の後段にあるような、実際に即刻試行錯誤するのが適さないテーマが多いため、「ヴァーチャル・パンフレット」というアプローチをお勧めしています。これは、提案対象とする新製品なり新サービスが完成したと仮定し、それを、ターゲットとする潜在顧客層の人や企業・組織に説明・販売する際のパンフレットを作成し、実際にそうした人たちへのインタビューを敢行してみる、というアプローチです。これなら弾が一発しかない場面での、思考実験の一環としてのプロトタイピングが可能となるからです。ヴァーチャル・パンフレットのコンセプトは、それをパンフレットでなくデモ動画にしたり、可能なら仮設店舗での商品やサービス体験の提供といった発展型も考えられます。

☆なお、「ディシジョンラボ」というのは、ディシジョンマネジメントを使って、経営トップに新規事業の提案などを行うプログラムのことです。

 

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マネジャーには部下のアイデアを否定する傾向がある。外部から新たなアイデアを得るならまだしも、直属の部下のアイデアを採用すれば、マネジャー自身の立場がないと考えるからだ。
⇒企業の幹部層の方々と話をしていると、確かにこの傾向はあると感じます。優秀で真剣な部下が持ってきた提案を簡単に却下したり批判する一方で、外部の人やスタートアップ企業のアイデアに対し必要以上に感動したり評価したりする傾向が見られます。実にもったいない現象です。外部の人の意見やアイデアに真摯に耳を傾けることは極めて重要ですが、それと同じくらい、部下の意見やアイデアを正当に受け入れる姿勢が重要です。このことが、日本企業における「衆知雲散」による知的生産性劣化の一因になっているのではないかと感じています。

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他国の貧困軽減や被災国への災害救助・・・そうしたキャンペーンでは、名前もある特定の1人を主人公にすることが多い（そしてたいてい、主人公は子どもだ）。「あなたからの年間わずか25ドルの寄付で、ミリアムは工場を辞めて学校に行けるようになります」・・・「物語の持つ力は原始的なものだ。人類の歴史をとおしてほぼずっと、書物やコンピュータやビデオセミナーが生まれる以前から、ストーリーテリングは私たちが知識を共有するための主な媒体だった。そして今日もなお、ストーリーテリングは人々の心の奥深くに、直感的に共鳴する。つまり私たちは、物語という形でアイデアを提示された時により強く納得し、より深く記憶するのである」

・・・「最も説得力に富むのは、個人的な体験だ」。アイデアに対する他者の評価を変えようとする時、最も望ましいアプローチは、彼らにアイデアそのものを体験させることなのである。

⇒「ストーリーテリングと個人的な体験」は、たしかに人を動かすのに大変効果的なアプローチですね。しっかりとした内容とロジックとパッションをもった提案ができたら、最後はこの「ストーリーテリングと個人的な体験」で説得力を増すことを仕上げの作業として使うのが有効です。ただし気をつけなければならないのは、このアプローチは有効すぎるがゆえに、ある種、「詐欺師のテクニック」としても有効だということです。

自分自身がこの詐欺師のテクニックに騙されたり、内容とロジックの希薄さをこのテクニックでカバーしようとして相手に見破られたり、といった状況に陥らないようにする自制心が重要です。。。私自身は、もともとこの種の才能にとぼしいこともあって、むしろ懐疑的な方でした。しかし最近は、内容とロジックとパッションが十分にある状況なら、時には、この「ストーリーテリングと個人的な体験」アプローチを使っても良いのではないかと思うようになりました。

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会社員を対象としたトレーニングでは、アーティスティックなトレーニング手法よりも、ビジネスの現場で実際に起こり得る問題を用いたトレーニング手法のほうが効果的だったのである。従って、皆さんが部下を創造性トレーニング・コースに参加させる時には、後者のような手法のコースを選ぶ必要がある。
フィンガーペインティングや即興劇といったアーティスティックな手法を取るトレーニングも、部下にとっては素晴らしい体験になるだろう。だから参加させる価値はあるが、こうしたトレーニングで部下が創造性を高められるわけではない。
部下の創造性を養うには、・・・日常業務の一環としてイノベーションを追求するには、その組織にとって当たり前の形で追求しなければならないのである。イノベーションを追求するには、現実逃避をするのではなく、現実と向き合うことが大切だ。

⇒アーティスティックなトレーニングについては、私は日ごろから、「本当に役に立つのかな。。。？」という懐疑心を持っていたので、「ああ、やっぱり、そりゃそうだよな。。。」という感想を持ちました。

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世界には、才能に恵まれた人があふれるほどいる。ところが明らかに才能があっても、真に重要な何かを成し遂げる人は限られている。才能に恵まれながら、成功に結びつけられない人がいるのはなぜなのか。・・・ブルワー＝リットンの答えは明快だった。両者の違いは、知識の多少でも、天性の能力でもない。もっと実際的なこと－粘り強さの有無である。歴史に名を残した偉大な男女の共通点は、「あきらめない」という一言に尽きる。彼らはどんな困難に遭おうとも不屈の精神を失わず、普通の人がとっくにあきらめて楽な道を探し始めてもなお、わが道を歩み続けるのである。

⇒まさに、前回の読後独語に書いた「ＧＲＩＴ やり抜く力」が重要、ということですね！

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イノベーションは本質的に、いつものやり方よりも大きなリスクをはらんでいる。また、リスクに良い側面はない。
トーマス・エジソンは電球を発明した時、1万回失敗してもまたチャレンジできるだけの十分な資金を持っていたかもしれない。しかし皆さんやその部下に、そこまでの資金はないはずだ。

⇒イノベーションにリスクはつきものです。そのリスクの逆サイドにチャンスがあるわけですが、リスク自体は確かに嬉しいことではありません。リスク回避をしすぎて、チャンスをみすみす見逃す人や企業・組織が多いがゆえに、近年ではリスクテイキングを奨励・賞賛する風潮が強いわけです。しかし著者たちが述べているように、リスクサイドの事態が起こった時に耐えられるだけの経営資源を持っているか否かは、意思決定の際に常に考えておくべきことです。グーグルのように経営資源や資金を莫大に持っている企業・組織と、そうでない企業では、取りうるリスクの大きさは違うのが現実なわけです。そこで賢く納得できる種類と量のリスクをとり、自分たちにとってのチャンスを最大限につかみに行くための方法論がディシジョンマネジメントだと改めて思いました。

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「月曜の朝」問題に最初に遭遇したのは、企業幹部を対象としたコースを開始した時のことだ。コース最終日の金曜、受講者はみなイノベーションに燃えており、会社に戻ったらどうやって実践に移ろうかと頭のなかはアイデアやプランでいっぱいだった（優れた講座やワークショップに参加したことのある方なら、この感覚はよくわかると思う）。ところが後日、講座終了後の受講者フォローを行ってみると、どのプランにも着手していないという方が大勢いた。
彼らの野心を妨げたのは、知見やアイデアの欠如でもなければ、本書で述べたさまざまな障壁でもない。もっと単純かつ、命取りな理由だった。受講後に、何も始めなかったのである。新年の抱負と同様、せっかく芽生えたイノベーションへの野心は、日々のまぶしい陽射しを浴びてしなびてしまったのだ。・・・企業幹部向けのわれわれのコースでは・・・「月曜の朝」問題が起こっていることに気づいたので、後からメンター・プログラムや100日フォローアップ制度などを同コースに加えて対応した。

⇒「月曜の朝」問題は、私が提供しているディシジョンマネジメント研修やディシジョンラボでも起こっていることだと認識しています。これを何とかしたいという思いで、ブログを書いたり、e-ニューズレターを送ったりしているのですが、この著者たちの仕掛けを参考に、フォローアップ活動など、いろいろ考えて行きたいと思った次第です。読者の方々からも、何かよいアイデアがありましたら、お寄せいただけると大変嬉しいです！

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あらためてこの本の内容を振り返ると、良い点として「日常の仕事の中で、イノベーションは起こすことが可能だし、実際に起きているイノベーションの大半では、それがリアリティである」ことを示しており、大変勇気づけられることです。

一方、足りないと感じた点は、記述と提案の大半が、組織風土／企業文化変革アプローチ、つまり環境準備の話にとどまっており、既にイノベーションの個別具体的テーマに実際に取り組み、それを実現する使命感ややりがいを持って日々活動している人たちにとっては、具体的な戦略策定アプローチについての記述が少ないことが物足りないのではないかと思いました。

言ってみれば、ある種「〇〇は大事！」と叫ぶ“産業”の域にとどまっているのではないか、ということです。〇〇にはイノベーション／MOT（Management of Technology）／社員の活力／自ら自発的に取り組む姿勢／上司・部下のフランクな関係etc.etc.。。。が入りますが、「〇〇は大事！産業」の特色は、問題提起の記述が大半で、最後に解決に向けた何となくの方向性なり願望を記述するにとどまる、ということです。

私としては、こうした組織風土／企業文化変革アプローチは、否定はしませんが、せいぜいがNot onlyで、実務に実際に取り組み悩んでいる人たちに対しては、But alsoとして、もっと実践的／具体的アプローチが必要ではないかと感じています。

イノベーションがテーマであれば、
① イノベーション・アジェンダの設定：どういう分野・視点でイノベーションが必要・有効なのかの項目のリストアップ（社会・技術トレンド／市場・顧客の状況と動き／自社と競合の強み・弱み等の分析から、リストを作成）、
② 各項目につき、「具体的なアイデア出し⇒戦略策定・意思決定⇒実行」に、チームとして取り組んで行く、

ということになります。「Not only部分を叫ぶ産業」の話を聞いて、「イノベーションのための風土改革運動」の旗振りをしているだけでは、リーダー／経営層の仕事・責務としては、片手落ちだと考えます。

その認識を持った方々は、まさに、But alsoの実践的/具体的アプローチを提供するのがディシジョンマネジメントですので、是非、合わせ技としてのディシジョンマネジメントの活用をお考え頂きたいと思っています。

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