【未来の可能性を最大化する】ディシジョンマインド社は研修やセミナーを通してみなさんの経営戦略に必要な意思決定力の向上を支援する会社です

「中小企業政策の方向性　既存企業の退出促進も重要」って、違和感を感じたので少し考えてみました（1）

カテゴリー: エッセイ・論説 2023 年 7 月 19 日 コメント(0)

2023年5月5日の日本経済新聞朝刊（Analysis欄）に載った以下の記事に違和感を覚えたため、私のシリコンバレー勤務時代の同僚コンサルタントで、長年の「真剣な雑談相手」でもある友人村山尚武さんとディスカッションし、そこから得たものを記事化しました。

☆村山さんは日本の銀行員出身ですが、スタンフォード大学でMBAを取得後シリコンバレーに留まり、戦略コンサルティングを経てテクノロジースタートアップの経営に転身され、長年同地のエコシステムで活躍されている方です。私はその中で数年間同僚として仕事を一緒にさせて頂きました。私の帰国後も私が「意思決定」について考えたりものを書いたりする中でテクノロジートレンドや起業・経営のみならず金融・経済分野に関する幅広く深い見識を持つ相談相手として時折ディスカッションさせていただいています。

以下の内容も多分に村山さんからの助言・指摘を反映していますので、ここにあらためて感謝の意を表させて頂きます。また、村山さんご自身もネット上で活発に発言されていますので、ご興味をもたれた方はプロフィール（英語、日本語）やお書きになられたものをご覧になってみてください。

***********************************
◉中小企業政策の方向性◉

既存企業の退出促進も重要

ポイント
・日本の廃業率は欧米に比べ低水準で推移
・経営者と被用者の退出コスト軽減が必須
・個人保証廃止なら金融機関は監視強化を
（渋谷陽子　デューク大学助教授）

***********************************

⇨なお、上記の日経新聞の記事については、私が違和感を感じた部分を引用していくと徒らに長文化しかねず、また「批判のための偏った切り取り」とも受け止められたくないこともあり、ここでは私の感じた素朴な違和感や疑問とそこからの考察を記すことに留めます。興味ある方は元記事もぜひ併せてお読み下さい。


私が感じた疑問は以下の2つです。

1. 「生産性の低い中小企業の退出促進」という発想と、その具体策についての疑問
2. 「企業間と企業内の新陳代謝の高い経済に移行できれば、民間貯蓄が設備投資に回るようになり、経済の好循環が生まれるだろう」という見方についての疑問

この2つの発想・見方については渋谷氏の記事ではじめて知ったわけではなく、こうした論調は政府も含めて様々な識者・エコノミスト・学者等が発信してきているように思います。しかし、この記事を見て、これまでずっとモヤモヤと感じていた違和感が、あらためて表出してきて今回のブログを書くに到りました。

この記事（1）では、まず一つ目の
1.「生産性の低い中小企業の退出促進」という発想と、その具体策についての疑問
について論じてみたいと思います。（2. については、次のブログで取り上げる予定です。）

そもそも、こういう議論の前提として、著者の頭の中には

「企業＝株式会社＝株主に対する成長と株価上昇義務と引き換えに投資を受ける」そして「働き手、特に経営者も株価上昇に連動した報酬体系が望ましい」

「それが社会・経済の健全な発展・維持のために必要だ」

という大前提があるように感じます。

しかし、著者がとり上げている日本の企業数の99％、雇用の7割以上を占める中小企業・零細企業の中には、株式非公開で公開する意思のない企業、そもそも株式企業ではない有限会社もかなりの数含まれています。

そうした企業にとっては、会社としてそれほど儲かっていなくても（あるいは収支トントンでも）オーナー経営者、またそこに働くことを選択した従業員にとって、自分たちが不満・不足なく生活するのに十分な報酬/給料を得られるのであれば、それで十分。会社の利益や企業規模をとくに大きく伸ばそうというインセンティブはそもそもないのではないか？

そういう中小・零細企業に対して、成長を目指す株式会社を対象とした「生産性」なるものを持ち出してきて、「生産性が低いから退出せよ！」というのは余計なお世話以外の何物でもありませんし、「会社の利益がトントン＋αで会社としての税金納付は少ないけれど、自分達の給料から税金をちゃんと払って国や自治体や社会への貢献はしているのだから、放っといてくれ！」「こんな風に上から目線でガタガタ言われたくない！」というのが正直なところではないでしょうか？

また、もう少しレベルが高い企業で、株主資本収益最大化を「約束」したり、その実現に邁進していなくても、世の中に役立つ製品やサービスを提供して立派に儲けて税金を納め、かつ経営陣と社員の間でフェアに見返りを配分している中でイノベーションを起こしている企業もたくさんあるわけです。こうした企業の「生産性」も、成長を目指すべきという観点から見ると低い・不十分というのでしょうか？

「生産性」をいうなら、むしろどんなに利益をあげても人材や新規事業への投資をせず、企業組織と秩序の存続（「自分の退職まで逃げ切れば良い」的発想）を第一に「内部留保蓄積」に汲々としている（一部の？）「日本の大企業」の方がずっと「生産性が低い」のではないでしょうか？

以上、少し筆が走りすぎたきらいがありますが、「企業＝株式会社＝株主に対する成長と株価上昇を義務とする」を前提にして、中小・零細企業を十把一からげにした、上から目線での「退出促進！」メッセージに対して疑問をぶつけてみました。

その上で、もともと企業業績がおもわしくなく、経営者や社員に対して満足できるレベルの処遇（給与等での）ができなくて、「退出」したいと思いつつも、それが思うにまかせない企業に対する、渋谷氏の幾つかの具体策（経営者の個人保証をなくしていく方向性や、社員が転職しやすくする制度設計等）については、その通りだと思いました。

ただ、「個人保証」をなくすかわりに「不要なリスクテイクの防止のために、金融機関がモニタリング（監視）すべし」と書かれていたのには、「？」と思いました。

この「監視」のニュアンスが強いとどうなるか？　これまでの「土地建物担保＋個人保証」を当てにして、貸出先の事業の成功可能性と成功規模、つまり不確実性とリスクに対する分析考察を疎かにしてきた金融機関のスタッフができることといえば（。。。多分ちょっと言い過ぎでしょうが）、これまで以上に貸し渋ることだけではないか？

「監視」ではなく、是非、不確実性とリスクに対する分析考察能力を高める努力をしつつ、「融資先・投資先を支援・助言するニュアンスでのモニタリング」をしてほしいものだと強く思った次第です。

以上、記事に触発されて感じた率直な疑問と、その後の村山さんとのディスカッションを通じて得られた思考を、まずは疑問1について、忘備録的に綴ってみました。

コメント