昨年末、「資本主義の中心で資本主義を変える」(清水大吾著 ニューズピックス社刊)を読み、そこに流れる格調高い魂の声に感銘を受けました。本書の随所に私の日ごろの問題意識や憤りと通底する言葉があり、共感・我が意を得たり感を強く感じました。自分なりには次の二つのポイントで理解しました。1.一つは「健全な資本主義」にしよう、ということ。本来の資本主義に、「利益成長至上主義」と「時間軸の短期化」がトッピングされることで、社会における極端な格差拡大と社会・地球の持続可能性の危機を招いている。このことが今、資本主義というものに対する大きな疑念を世界的に招いているが、こうしたトッピングを是正することさえできれば、資本主義本来の良さを人類は享受し続け、持続可能な社会も実現できる。2.二つ目は「力強い資本主義」にしよう、ということ。利益成長至上主義や時間軸の短期化に陥らないという観点では、日本企業は伝統的には「三方よし」に代表される、様々なステークホルダーをきちんと認識した長期的視野での経営という点で、本来優れたものを持っている。しかしその良さを、①「政策株に代表される、株主と経営者の悪い忖度」=「是々非々でものごとが決まることが少ない」と、②「不確実性に対する感応度が低い」=「不確実性と向き合い挑戦し続けることを避けがち」という二つの悪さが邪魔をして、本来の良さを発揮できていない。これが多くの日本企業が、資本主義本来の力強さを身に付け・発揮できていないことの根本原因。そこで今ゴールドマンサックス(GS)を卒業した著者は、まずは日本企業に「是々非々でものごとを決める」「不確実性に挑戦し続ける」という考え方と能力を身につけさせ、本来持っている良さを発揮できるようにさせる。そしてその成功の姿を世界に発信することで、1.のポイントも含めた「真の(=健全かつ力強い)資本主義」を実現・普及させる。こうした著者の、「持続可能な資本主義社会」実現に向けて資本主義をアップデートしよう、という「魂の声」に強く共感しながら読みました。本の主旨に大いに賛同する一方、金融業界の外にいる者としては、貪欲資本主義の権化(失礼💦!)の印象を持っているGSに、著者のような人物がいたことに驚きの思いを持ちました。今後の著者の、決して容易ではないと思われる挑戦での活動・活躍と成功に、大きな期待とともにエールを送りたいと思います。。。。以上の主旨をアマゾンの書評欄にも書き込んだのですが、私の年来のテーマである、①「(忖度なしの)是々非々での的確な意思決定」、②「不確実性のもとでの意思決定」について、蛇足ながら少し論じてみたいと思います。書籍からポイント部分を抜粋して(太字部分)、コメントを書いて行きます。①日本社会には「是々非々でものごとが決まりづらい」という課題があり、日本経済の競争力低下の要因だと私は考えている。政策保有株式は、この課題を象徴した存在にすぎない⇒清水氏は、この「悪い忖度」を、主として株主と経営者の関係でとらえ、両者の間の(相互不信を克服したうえでの)建設的緊張関係が必要と書いておられるのですが、この悪い忖度や建設的緊張感の無さからくる「是々非々でものごとが決まりづらい」現象を、私は企業における「衆知錬成」の観点での支援の仕事柄、企業内部のミドル層と経営層の間柄において、非常に強く感じています。具体的にいうと、トップ層からモラハラ・パワハラ的な発言があっても、ミドル層は忖度と保身的な恐れのために、そのことについての苦言や注意や反発の発言ができない。あるいは、トップ層の発言の主旨がよくわからない・意味不明の発言があっても、「ポジションが上の人に質問をするのは、逆らうことになる」との思い込みから質問ができず、結果としてトップとミドルの深い建設的な議論ができない。こうしたミドルからの悪い忖度の結果、トップ層は緊張感をもって仕事をする必要がなくなる。。。というコミュニケーション不全の悪いサイクルが起こっています。私は衆知錬成のための方法論であるディシジョンマネジメントを企業やビジネスマンに伝え、その活用をサポートする仕事をしている関係上、その前提となる建設的コミュニケーションを実現するにはどうしたらよいか、という問題意識を常に強く感じています。そうした問題意識から、以前からこのブログコーナーで「ワークショップ・ファシリテーターAI(WF-AI)」ないし「突っ込みAIアイちゃん」という妄想的願望を書いています。そしてAI導入まで行かずとも、あるいはその先駆けとして、社内の(次世代経営者候補となる)ミドルの人たちに、匿名のアバターとしてどんどん発言してもらう、というアイデアも書いています。(参考までに、その関連のブログ記事を参照して頂ければ幸いです。【今後のAIの活用について──今時点での、3つの妄想的願望】 )清水氏のGS後の次の活動において、「突っ込みアバター」を活用した、企業での「悪い忖度なしに是々非々でものごとが決まる」仕組みやプロセスを実装して頂けたらと、妄想願望しています。②自由経済をベースとする資本主義社会においては、すべての事象がこのような「不確実性」をもっていることを理解しなければならない。我々が資本主義をうまく使いこなすためには、この「不確実性」と向き合う心構えが重要となるのだ。・・・日本人は、「不確実性と向き合う」ことを極端に嫌う傾向が強い。・・・たとえ勝てる確率を6割まであげたところで、時の運によって4割は負けることになるが、それは失敗ではない。・・・その過程で失敗することも当然あったはずだが、「挑戦者の心」さえ持ち続けていれば、その失敗から学びを得て次の挑戦につなげることができる。失敗というのは、失敗から何も学ばなくなったときに本当に失敗になるだけだ。「挑戦者の心」さえ持っていれば、失敗も「学び」になる。⇒私は日ごろ、「不確実性」のもとでの意思決定というテーマでの仕事の関連で、企業の方々へは、[どんなに良い意思決定をしても、不確実性のもとでは時に利あらずで、うまく行かないことが起こりうる。そのリアリティを現実として理解・認識し、(自己責任として)飲み込んだうえで、適切なリスクテイキングを含む質の高い意思決定をすることが重要。それで結果がうまく行かなかったとしても、それは「失敗」ではなく「不成功」。よりポジティブにとらえれば「未成功」!]と伝えています。「自己責任」について清水氏はボストンでの飲酒運転の例を挙げていますが(⇒事故を起こした際の責任は厳しく問われるが、正常な運転ができるかどうかは自己判断に任されているらしい)、私も昔、はじめてアメリカに渡った時、泊まったホテル(確かホリデーイン)に小さなプールがあって、そこには安全確保のための監視員がおらず、”Swim at your own risk”と書かれた看板が置かれてあり、自己責任前提での意思決定の精神に、「なるほど!」以上の、ある種の衝撃を受けたことを思い出しました。(不確実性への対応に関しては、以下のブログ記事を参照して頂ければ幸いです。【あらためて、「失敗」vs「不成功」について…チャレンジがうまくいかなかったのは「失敗」でなく「不成功」、さらには「未成功」「学び」と呼ぼう!】 )この「不確実性への向き合い」についても、ぜひ清水氏の次の活動の中で積極的にプッシュし、日本企業や日本人の心の中や意思決定プロセスの中に実装して頂けたらと強く願っています。この本の執筆時点では、清水氏は次の仕事はまだ決まっていないと書かれていましたが、こうした志とスキルを持った方を世の中が放っておくはずはないので、すでに次の仕事・ポジションは決まっておられることと思います。。。。なのですが、私の妄想的願望 兼 予想としては、日本における「資本主義健全化ファンド」とか「健全資本主義促進ファンド」といった中で、本書で語っておられる理想の実現に邁進されるのではないかと想像しています。そこでは、投資先企業の(内部監査部門等を建設的に再編した)「健全資本主義推進部門」が駆動主体となって、「WF-AI」や「突っ込みアバター」の仕組みを導入し、建設的コミュニケーションとトップ-ミドル間の健全な緊張感の醸成、その一環として、新たな挑戦における不確実性への取り組みを阻害する発言に対する突っ込みを行って、「失敗でなく未成功」の発想の醸成、そのベースとなる「質の高い意思決定」を強力に促進していく。という姿を想像・願望しています。以上、いつもと違ってほぼポジティブ一色な読後独語になってしまいましたが、書籍の内容への共感と納得感が強いためとご容赦ください。ご興味を持っていただいた読者の方々へは、是非本書のご一読をお勧めするとともに、このブログ記事への感想などフィードバックをいただけると幸いです。
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