前回の(I)で、自民党の惨敗から学びうることとして、①「戦略の一貫性・テーマ性・主張」を持たせる、②「すべての顧客を満足させる」ことにとらわれない、という2点の重要性について述べましたが、今回は3つ目のポイントについて書き継いで行きたいと思います。 ************************************************ ③「最後の拠り所」も「出発点」も 【Net Pleasure Value】 & 【Net Passion Value】: 自民党は「解党的出直し」と言っていますが、企業でも昨年のリーマンショック以来、「解社的」見直しが必要な会社が数多くあります。その時、たとえこれまで市場で圧倒的なポジションを占めていた企業でも、《①「戦略の一貫性・テーマ性・主張」を持たせる》&《②「すべての顧客を満足させる」ことにとらわれない》観点での、抜本的な戦略見直し、改革案の策定を行い、実行に移していることと思います。 その際に重要な視点は、どうやったらより儲かるようになるか、すなわち第一のNPV(=キャッシュフローのNPV: Net Present Value)を考えるだけでなく、第2と第3のNPVとしての【Net Pleasure Value】 & 【Net Passion Value】にまで立ち返って発想することだと思います。 通常、平時には、顧客の満足度を高めることへの正当なる分け前としての「これから儲かり総額」、すなわち第1のNPV(=キャッシュフローのNPV)を考えていればよいわけです。しかし、戦時、すなわち「解党的」とか「解社的」という状況においては、「わが社がそもそも世の中に誕生し存続し続ける理由は?」というNet Pleasure Valueや、「我々が是が非でも成し遂げたいこと、子供たちに『自分たち親の世代は、こうやって世の中に貢献したんだよ』と熱く誇らしく語り残したいことは何か?」というNet Passion Valueにまで踏み込まないと、危機的状況に立ち向かう勇気と粘りが出てこないからです。 私は、端的に言って、【Net Pleasure Value】 & 【Net Passion Value】を表現したものが、いわゆるミッション/ビジョンだと考えています。そして「解社的」戦略練り直しにおいては、ミッション/ビジョンにまでさかのぼること、より具体的には、「好き」と「得意」と「喜ばれる」、つまり、自社として何が好きか、何が得意か、そしてどんな顧客に喜んでもらいたいか、を明らかにし、それを出発点に戦略の練り直しに取り組んでいくことが重要&有効だと思います。 一つの思考実験として、今述べた企業での考え方を政党に当てはめて考えてみましょう。企業における顧客は、政党においては国民ないし自党の支持者になるでしょうし、企業における利益(あるいは第1のNPV)は、政党においては獲得議席数になるかと思います。第1のNPVすなわち利益を最大化することだけが目的で、第2、第3のNPVの要素が全くないミッション/ビジョンを持った企業がないのと同様、獲得議席数を最大化し、政権の獲得・維持だけが目的の政党はないはずです。少なくともそう信じたいと思います。 通常の「平時」においては、政権維持、獲得議席数増大のためにはどんな政策を打ち出せばよいのか、と考え、自民党の場合はこの「平時」があまりにも長く続いたために、それが、「すべての顧客を満足させる」ことに走らせ、結果的に「戦略の一貫性・テーマ性・主張」を失わせてしまったのではないかと想像するのです。ある意味、今回の「解党的出直し」は大きなチャンスで、今一度、自分たちの《ミッション/ビジョン=Net Pleasure ValueやNet Passion Value》は何かを問い直し、明確化・再定義を行えばよいと思います。 具体的には、《「好き」と「得意」と「喜ばれる」》を発想起点として考えていけばよいと思います。つまり、日本という国は/日本国民は、「何が好きで=どんな価値判断基準を大切にして」、「何を得意として=得意技、飯のタネとして生きて行きたいと考えるか」、また「国民の中のどんなタイプの人達を中心にHappyになって行ってもらいたいと考えるか、日本国外のどんな国、あるいはどんなタイプの人たちに友人になってもらい、尊敬されたいと思うか」に立ち返って考えることです。 逆にいえば、「何は好きでなく、したがって満たせなくてもかまわない」、「何は、得意でなくてもかまわず、したがって負けても悔しくない」、そして「どんな人たちには、喜んでもらえなくても、尊敬されなくても、まあ仕方がない」といったことを明らかにするのです。ニッチ政党の場合は、むしろこのあたりを非常に明確に打ち出しやすいのですが、大政党でも、前回の(I)のブログエントリーで述べたように、すべての有権者の票を獲得しなくても政権をとり、自分たちが成し遂げたい政策を実行することはできるのですから、解党的状況では、十分トライする価値はあると思います。 もちろん企業活動と違って政治ですから、できるだけ多くの国民の幸福度を高めることを最終目的とするはずですが、その実現において、《ミッション/ビジョン=「好き」と「得意」と「喜ばれる」》に共鳴する有権者からの獲得投票をもってする、と考えるわけです。 そう考えると、先ほど述べた企業と政党のアナロジーは、少し修正する必要があるかもしれません。企業における、その企業のミッション/ビジョンに共鳴する株主は、政党における支持者/投票者であり、企業における株主からの出資金額が、政党における支持者/投票者からの獲得議席数/票数、と考えた方が良さそうです。 また企業における顧客は、政党における国民全般になり、政党としては、自分たちの支持者/投票者が支持してくれる政策を通じて、たとえ支持者/投票者でない国民でも、その人たちの幸せ度の向上を目指す、ということだと思います。 企業の場合は、自分たちの《ミッション/ビジョン=「好き」と「得意」と「喜ばれる」》に共鳴しない人たちは相手にしないですむのですが、政治ではそうはいかないからです。。。さもないと、政治の場は、「自分たちの支持者/投票者以外の国民の幸せ度はどうでもよい/自分たちの利益集団に属さない人たちがどうなろうと知ったこっちゃない」、という政党や利益代表集団同士の醜い争いの場になり果てるでしょうから。 政治の場が単なる利益代表集団同士の醜い争いになりはてると、成人した国民全員が一票持つという民主主義では、生産性の低い産業や組織の方が人数が多い分だけ力を持つことになり、結局、国際競争の中で国全体が沈んでいくことになりかねません。 少し脱線になりますが、私は昔、化学会社に勤めていて、その会社の中に当時アルミ精錬の事業がありました。少し記憶があいまいですが、たしか第2次石油ショックのころ、そのあおりで日本のアルミ精錬産業が存亡の危機に陥った際、国に「なんとかこの産業を助けてほしい」という嘆願を、この業界に属するすべての企業が一丸となって行った時、私も従業員の一人として嘆願書に名を連ねました。 しかし、アルミ精錬業界は当時すでに血のにじむような経営努力によって人員の削減を行ってきており、悲しいかな嘆願書の署名人数が少なかったために、ほとんど国からのサポートは受けられませんでした。当時はまだ民営化していなかった「親方日の丸」系企業体がいくつもあり、経営効率の低さの裏返しとして多くの従業員を擁し、政治的パワーを持っているのを横目に見て(。。。少なくとも当時の私にはそう映りました)、恨めしい気分になったものです。 その意味で、ぜひ政党には、政治の場が単なる利益代表集団同士の醜い争いにならないよう、自分たちの支持者/投票者以外の国民の幸せも忘れない、高邁な《ミッション/ビジョン=「好き」と「得意」と「喜ばれる」》を持ってもらいたいと切に願います。 ************************************************ 政治には素人、かつ、一有権者として以上の関心も利害も持たない私ですが、今回の歴史的投票結果を受けて、すこし語りすぎたきらいがあるかもしれません。 読者の皆さんには、企業の戦略的マネジメントにおける、①「戦略の一貫性・テーマ性・主張」を持たせることの重要性、②「すべての顧客を満足させる」ことにとらわれない、そして「解社的」状況における③「最後の拠り所」も「出発点」も ミッション/ビジョン=【Net Pleasure Value】 & 【Net Passion Value】、そしてそのミッション/ビジョンにおける《「好き」と「得意」と「喜ばれる」》の重要性・有効性を、今回の選挙結果から学びうることとして、今後の戦略的マネジメントに生かして行って頂ければと願っています。
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